B2BでもB2Cでも、自社ビジネスの持続的な成長に必須なのが、より良いカスタマーサービス体験、もとい顧客体験の構築です。顧客接点において質の高い顧客サービスを提供できれば、売上や利益を伸ばすだけでなく、自社の存在価値を高めることにもなります。
一方で、高品質なカスタマーサービスや顧客対応を提供し続けるためには、一定の戦略が必要なのも確か。情報過多社会において顧客には選択肢があふれていて、企業とのコミュニケーションチャネルも多様化し、顧客対応で使われる技術も先進化しています。
そこで今回は、TPIJがテーマとしている「顧客接点」の一つ「コンタクトセンター」を切り口に、B2Bにおけるカスタマーサービスをよりよく理解するために必要な5つのポイントをまとめてみました。
海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、17年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニューが解説します。
ポイント1. B2Bとは?
まずは基本的な部分として、「B2B」についておさらいしましょう。簡単に表現すると、B2Bは「企業間取引」と言えるかもしれません。2つ以上の組織が協力して商品やサービスを提供するプロセスであり、一社単独では到達することができないビジネスリソースの提供につながります。
B2Bにおいては、一般の消費者ではなく、企業が顧客となります。したがってB2Bにおいては、企業間の信頼関係を確立させることが不可欠です。
ちょっと例えで考えてみましょうか。B2Bをおもちゃの製造工場、B2Cを地元のおもちゃ屋とイメージしてみてください。工場では、大量のおもちゃを製造して、リテール店や他のビジネスに販売します。一方でおもちゃ屋は、これらのおもちゃを個々の子供たちや親に直接販売します。工場はおもちゃ屋や大手リテーラーとの取引が主、おもちゃ屋は一般の消費者との取引が中心です。これがB2BとB2Cの違い・関連性です。
工場のようなB2B企業は、おもちゃ屋や他のB2C企業に商品やサービスを供給することで、消費者が直接触れる市場の裏側で大きな役割を果たしています。おもちゃ屋が購入し、子供たちに販売するそのおもちゃの背後には、製造工場や物流、素材供給業者など、多くのB2B企業が関わっているということになります。
このように、わたしたちの日常の中に存在する多くの商品やサービスは、見えない部分で数多くのB2B企業によって支えられています。そしてこれらB2B取引は、世界経済の大部分を構成しており、経済をスムーズに回す大きな役目を果たしています。大きな話にはなりますが、B2Bは企業同士の成長だけではなく、その地域、国、そして世界の経済を回す役目を負っているとも言えます。
ポイント2. B2Bにおけるカスタマーサービスの重要性
どんなビジネスにおいても、質の良い顧客体験の提供は非常に重要です。B2Bに関しても同じことが言えます。なぜなら、B2Bの取引は一般的に規模が大きくなり購買サイクルも長くなるため、収益の最大化には顧客との長期的な関係を維持できるかがカギとなってくるからです。
また、質の良いカスタマーサービスには、常に顧客と良い関係を築くこと、つまりリアルタイムのコミュニケーションが提供されているかが含まれます。
マッキンゼー・アンド・カンパニーの調査によると、72%のB2B企業が、リアルタイムで提供されるカスタマーサポートの有無を今後の取引継続判断における重要な項目と位置づけています。
2017年と少し古いですがアクセンチュアの調査では、90%のB2B企業において、ビジネス目標の達成に不可欠なのは、質の高い顧客サービスだと考えられているという報告があります。小売業と比較してB2Bでは関与する顧客の数が少なく、より価格の高い製品やサービスが扱われているため、B2B企業の多くが前述のような視点を持っているのはうなずけるところです。
またZendeskの調査からは、62%の企業がポジティブな顧客体験・カスタマーサービス体験の後により多くの購入へ繋がっている事もわかっており、しっかり作り込まれたカスタマーサービス体験が企業の成功を左右すると言えます。
では、これらの知見を土台に、B2B向けコンタクトセンターに必要なものを考えていきます。
ポイント3. B2B向けコンタクトセンターとは?
B2B向けコンタクトセンターは、一般の消費者向けではなく、ビジネスパートナーとしての顧客企業に特化したサービスやサポートを提供するための顧客接点と言えます。何が必要になってくるのかを見てみましょう。
主な目的
B2Bの顧客は、商品やサービスに関する深い知識や専門的なサポートが必要な場合が多いため、個人消費者向けと比べて、より高度なカスタマーサービスやテクニカルサポートの提供が求められます。B2B企業にとっては、顧客との関係を強化し、自社のリソースを最大限に活用して全体的な顧客体験を向上させることが可能となります。
重要なサービス要素
- 専用ヘルプセンター: 顧客が頻繁に遭遇する問題や、よくある質問に迅速に対応
- AIチャットボット: 顧客がいつでも問い合わせを行うことができ、基本的な問題を即時に解決
- コールバックシステム: 顧客が希望する時間帯にサポートを受けられる
- カスタマーサービスの専任担当者: 顧客との長期的な関係を築くための、一定の顧客に対する担当者
マルチチャネル・オムニチャネル対応
近年、企業・顧客間のコミュニケーション手段は多岐にわたります。電話やメールだけでなく、ソーシャルメディアや専用のチャットツールを使用するケースも増えてきました。このようなさまざまなコミュニケーションチャネルへの対応能力は、現代のB2Bコンタクトセンターにおいて欠かせない要素です。
さらに、オムニチャネル戦略の採用により、顧客は異なるチャネル間でシームレスな体験を享受することが可能となります。情報の一貫性を保つとともに、顧客のニーズに迅速かつ適切に答えるための戦略としても重要です。
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AI・生成AIの活用
コンタクトセンターに大きな変革をもたらしているのが、近年のAI技術。とくに生成AIは、ユーザーの問い合わせや要望に対して、リアルタイムで最適な回答や提案を生成することができます。
最新のケースでは、クレーマーなどのカスハラ対策にAI対応の導入が有効になりうるということが注目されています。
このような技術の導入により、より高度な顧客対応や、個別の顧客ニーズに合わせたサービスの提供につながります。B2Bの領域でも、生成AIを活用したサービスが増加傾向にあり、新たなスタンダードとなることが予想されます。
単なる顧客窓口以上の役割を果たしているB2B向けのコンタクトセンターですが、そのサービス品質や対応能力は、企業間の取引や信頼関係の構築において非常に重要な要素となっています。B2B企業が市場での競争力を保持・向上させるためには、コンタクトセンターの役割を十分に理解し、適切に活用することが求められます。そしてオムニチャネルやAI技術の取り組みを取り入れることで、さらなる顧客体験の向上を目指すことができるのです。
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補足:B2BとB2Cのカスタマーサービスは何が違う?
B2B向けコンタクトセンターをリテールなどのB2Cと比較してみます。
目的の違い:B2Bのコンタクトセンターは、カスタマーサービスとセールスを中心に機能します。対照的に、B2Cのコンタクトセンターは、カスタマーケアや製品に関するサポートにフォーカスしています。
収益へのアプローチ:B2Bは、継続的な取引がある大口の顧客との関係を築き上げるのが大事。一方で、B2Cは販売だけでなく、様々な問い合わせにもすばやく、そして柔軟に対応する必要があります。
ナレッジレベル:B2Bのサポート担当者は、製品の詳細や専門的な情報をしっかりと把握している必要があります。だけど、B2Cの場合は、製品やサービスの基本情報を顧客に伝えることが中心です。
サポートにおける特徴:B2Bの対応は、じっくりとした深い会話が求められることが多いです。関係の構築や大きな取引、複雑な問題解決が必要な場面も。B2Cよりも時間がかかるケースが多い。
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ポイント4. B2Bのカスタマージャーニーに必要な5つのステージ
カスタマージャーニーとは、顧客が製品やサービスに課金する=購入するまでの道のりのことです。購入前、購入中、購入後の中で、次の5つのステージが存在しています。
1. 認知
このステージでは、顧客は初めてあなたの製品・サービスを知ることになります。直面している問題、課題やニーズに気づき、その解決策を探している段階です。
2. 検討
このステージで顧客は、複数のソリューションやサービスを比較・検討します。顧客はこのステージで、製品の特長やメリットをしっかりと理解する必要があります。B2B企業としては、ここで自社製品やサービスが選ばれる確率を高める必要があります。
3. 決定
顧客はついに、このステージで購入を決断します。価格やサポート、信頼性などの要因が大きく影響するこのステージでは、強力なセールスフォローや導入サポートが不可欠です。
4. 成長
購入後に顧客は、導入した製品やサービスを最大限に活用とします。このステージでは、アフターサポートや研修コース、アップセル・クロスセルの提案が行われます。顧客を最大限サポートすることで、信頼関係を強めることができます。
5. 満足(喜び)
このステージでは、顧客はすでに導入した製品やサービスの価値を実感しています。期待を超えるサービスや、特別なオファー・イベント、キャンペーンの展開により、顧客関係のさらなる深化が望めます。長期的な顧客ロイヤルティを育むことが主な目標となります。
解説
顧客が良好な経験を得られたと実感できるようにするためには、各ステージの重要性をしっかり理解している必要があります。カスタマーサービス部門は、このジャーニー全体を通じて、常にサポートとして顧客企業に寄り添っている必要があります。
「成長」や「満足」のフェーズはとくに、カスタマーサービス部門が中心となって動くステージです。一部の企業はこれらのステージの重要性を見過ごすことがありますが、それによって顧客の維持率が下がってしまうというリスクがあります。したがって、これらの時期にしっかりとしたカスタマーサービスが提供されていることが必要です。
「成長」ステージでは、チームが顧客をサポートし、その価値をより高める役割を果たします。この期間中、顧客の製品利用の詳細を深く探ることで、新しいビジネスの機会を見つけることができます。ただし、「成長」ステージは単にサポートを提供すれば良いわけではありません。この時点で、カスタマーサービス部門はさまざまな方法を使って、顧客との関係をさらに深化させることができます。
一方、「満足」のステージは、カスタマーサービスが主役となるステージです。目的は、顧客企業との強固な関係を構築し、長期的な信頼を勝ち取ること。このステージでは、スピーディーかつ適切なサポートが欠かせません。カスタマーサービス部門は、直接のコミュニケーションや特典提供など、顧客の満足度を高めるためのさまざまな活動を実施します。
カスタマージャーニーを知ることは、B2B向けコンタクトセンターの価値を把握する際の鍵となります。カスタマージャーニーは、購入前から購入後までの顧客の経験・行動を体系的に捉えるものです。5つのステージを把握することで、顧客がどの時点でどのようなサポートを求めているかが一目瞭然となります。
B2Bでは多くの場合、複数のステークホルダーが関わっています。そのため、各ステージにおいて密なコミュニケーションが必須となります。ここでコンタクトセンターがその機能を最大限に発揮します。適切なタイミングでの的確なアプローチは、信頼の構築に直結します。
とくにB2Bの世界では、アフターサポートの質が極めて重要です。一度の取引での金額が大きかったり、長期的なパートナーシップを築いたりするケースが多いため、生じた問題や疑問への迅速な対応は、顧客の信頼を維持し、リピーターの取得や新たな潜在顧客の紹介を受けるための基盤となります。
カスタマージャーニーを知ることで、顧客の現在の立ち位置やニーズを正確に掴むこともできます。B2B向けコンタクトセンターは、このジャーニーを全体的にサポートし、ビジネスの成長と深い信頼関係の構築をサポートする重要な役割を果たすことになるのです。
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ポイント5. B2Bカスタマーサービスのベストプラクティス
B2Bのビジネス環境において、顧客やパートナーとの関係の深化は欠かせないファクターです。そのためには、先進的なカスタマーサービスの提供が必須となります。以下のベストプラクティス案が今後の参考になるかと思います。
プロアクティブなサポート:先進的なツールやソリューション、技術を取り入れ、顧客のニーズの先取りを狙います。適切な調査や定期的なモニタリングを行うことで、顧客の潜在的な問題を早期にキャッチし、顧客のニーズや需要に合った解決策の提供を目指します。
セルフサービスの拡充:顧客自ら問題を解決する手段として、ナレッジベースやFAQ、コミュニティフォーラムなどを提供できます。これにより、顧客は基本的な問題を自力で解決できるため、スペシャリストのサポートは本当に必要な時に集中させられます。
パーソナライズ:顧客はパーソナライズされた経験を求めています。データとツールを最大限に活用し、各顧客に合わせたサポートを実現したいところです。
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最後に
顧客のロイヤルティの向上と収益の最大化に、コンタクトセンターは不可欠な存在です。とくに今の時代、DXやAIといった技術革新の波の中で、迅速かつ高品質なカスタマーサービスが必須となってきました。
B2Bビジネスも例外ではなく、これらの技術的イノベーションに対応できるだけのソリューション選択が、自社の競争力を高めることのカギとなってきています。
高機能で使い心地の良いソリューションを導入することで、顧客との関係性はさらに強固となり、企業の成長や展開において新しい可能性が広がるはずです。