日本の基幹産業である製造業。近年は、業界をとりまくビジネスモデルの変化や社会情勢、環境への配慮といったさまざまな影響により、業界としての大きな変革を求められています。
しかし、問題は決してひとつではなく、複数の問題が絡み合って複雑化しているため、包括的なアプローチが必要となっています。
そこでこの記事では、「変化が求められる製造業に今必要なこと」という観点で、ARマニュアルに注目し、ARマニュアルのメリットや必要性、具体的なツールについて紹介します。
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この記事が解決するお悩み
人材不足と向き合いながら、業務を効率化したり生産性を向上させたりするのが難しい
マニュアルのペーパーレス化/デジタル化が進まず、どうしたら良いのか分からない
製造業が直面している課題
冒頭で、「現在の製造業は複数の問題が絡み合って複雑化している」と述べましたが、製造業が実際に直面している問題とは何でしょうか。一例として、以下のような問題が挙げられます。
- 慢性的な人手不足
- 新人教育
- 工程管理
- 多言語対応
- 属人化
- マニュアル作成
人に関わるものから業務へ直結するもの、製造業特有のものなど、多種多様なものが山積しています。加えて、列挙したような問題はいずれも関連し合っていて、連鎖的に慢性化していくものばかりです。
「人手不足ゆえに新人教育に力を入れられず、ベテランに属人化しがち…工程管理やマニュアル作成に避けるリソースは限られていて、思うように効率化が進まない…」といった具合です。
しかし、その中でも新規事業の立ち上げや、新たな市場への参入、海外進出を目指す企業は少なくありません。
2023年に実施された日本能率協会の調査によると、製造業の約7割は新規事業開発に注力しています。とはいえ、新規事業における目標の達成度は、「目標に満たない」と回答する企業が約7.5割となっており、結果は期待通りではありません。
一方、「新規事業に力を入れられていない」と回答する企業からは、最大要因として「人材不足」が叫ばれます。人材不足に端を発して事業の拡大や、企業のさらなる展開が困難になっていることは明らかです。まさに多様な問題が連鎖的に慢性化していると言えます。
ARマニュアルで「見える」なら展望も「視える」
あらゆる問題が人材不足に端を発しているとなると、「人材不足をすぐに解消することはできないので、これではお先真っ暗。現時点で人材が豊富な企業しか今後は生き残れない」と思われるかもしれません。
しかし安心してください。人材不足は製造業全体として直面している問題のため、多少の程度の差はあれど、基本的にはどの企業も人材不足に悩み、それゆえの影響を経験していると言っても過言ではないからです。
そのため、「現状の人材不足とどのように向き合い、どのような具体策で問題へアプローチしていくか」が、競合他社との差別化を図る上でのポイントとなってきます。
人材不足解消のためにできること
では、人材不足と向き合いながら何ができるでしょうか。
まずは業務を「見える化」することです。「見える化」といっても、ただマニュアルや作業手順書があれば良いというわけではありません。
可視化するべきは、熟練スタッフが持つノウハウやスキルといった暗黙知です。暗黙知が「見える化」されるなら、新人教育や属人化防止、業務効率化と品質向上に大きく役立ちます。
暗黙知を「見える化」する方法
次に考慮するべきなのは、「どのように可視化するか」という点です。
製造業の現場では、設計図や製造指示書などを含む業界特有の資料が多くあったり、口頭での指示や紙での記録が行われていたりするために、紙文化が根強く残っているケースが珍しくありません。
しかし、社会的にはペーパーレス化が強く推奨されています。ペーパーレス化のための労力やコストを懸念する声はなくなりませんが、ペーパーレス化にはさまざまなメリットがあることは事実です。そのため、暗黙知を可視化するのと同時に「デジタル化」へ取り組むなら、より効率的に複数の課題解決へ踏み出すことができます。
マニュアルのデジタル化というと、紙マニュアルのデータ化あるいは動画マニュアルが思い浮かぶかもしれません。しかし、最近では動画マニュアルからさらに一歩進んだ「ARマニュアル」が注目されています。ARマニュアルによって既存のマニュアル・作業手順書、暗黙知を「見える化」するなら、人材不足を含む多くの課題へとアプローチすることが可能です。
では、動画ではなくARで「見える化」することにはどのようなメリットがあるのでしょうか。代表例として以下のようなメリットがあります。
- 視覚的ガイドがより強力になる
- 若手の自主学習を促進できる
- 技術伝承が効率的になる
- マニュアルの定期的なアップデートが容易になる
- スキルレベルの差を埋めやすい
- 安全性とコンプライアンスを強化できる
- 時間的、人的、金銭的コストのカットが実現できる
- 遠隔でも空間を共有しながらリアルタイムでサポートでき、パーソナライズできる
- 「その場限定」であるはずのOJTをデータとして残し、繰り返し活用できる
上記のメリットが実現するなら、既存の業務や事業をより安定させることができ、若手人材の安定的育成を軌道に乗せることが可能です。
調整すべきコストやリソースを知ることもできるので、新規事業へ注力する余裕が生まれます。「見える」ようにすることで、企業の発展・拡大といった展望を「視る」ことができるのです。
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製造業の「サービタイゼーション」
最近の製造業では、製品の保守やサポートを含むサービス化(サービタイゼーション)が顕著になっています。そのため、製造業も「顧客接点」や「顧客満足度」などを考慮する必要性が生じているのです。
ARマニュアルは、業務効率化や生産性の向上に役立てられる一方で、効率的でストレスフリーな顧客体験を提供する上でも役立ちます。
視覚情報に基づき直感的に使えるマニュアルとなるので、専門知識をもたないお客さまでも製品の操作やセットアップが可能となるからです。
また、ビジュアルサポートを主とするARだからこそ、言語の壁を越えやすく、日本語を母語としないお客さまに対するヘルプツールとして効果的です。
製造業においてARマニュアルが活用しやすいのは以下の分野です。
- 新製品のセットアップ
- トラブルシューティングのためのガイド
- 正確なメンテナンス手順の提供
- 検査
- 技術スタッフを現場へ派遣する前の検査
製品がますます精密で複雑化していく中、よりストレスフリーでユーザーフレンドリーな顧客体験を提供していくには、見ただけでわかるようなシンプルなマニュアルが重要となります。
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ARマニュアル作成ツール4選
ここまでで、ARマニュアルのメリットや活用シーンの一部について紹介してきました。最後に、業界で注目されているARマニュアル運用ツール4つをご案内します。
CareAR
製造業への導入実績があり、つい先日にはANAエンジンテクニクスが導入して話題となったデジタルツイン型サービスプラットフォーム。
テキスト、画像、動画、3Dモデル、およびARエレメントを使用して機器の操作手順をわかりやすくガイドしてくれます。
デジタルマニュアルはノーコードで作成可能です。
さらに、現場作業を行うエンジニアやスタッフが、遠隔地にいる熟練技術者や専門家から指示やアドバイスを得ることができます。
Scope AR
国内外を問わず大手企業への導入実績を持つソリューション。総合プラットフォームとして主に以下の2つの機能を備えています。
① アプリを介したリモートアシスタント
② ゴーグルを着用しながら利用できるAR指示書の作成
MicrosoftのHololens 2やApple Vision Proなどの主要なARウェアラブルだけでなく、主要なiOS、Androidスマートフォンやタブレットを含む幅広いデバイスに互換性があります。
Meister AR Suite
東芝デジタルソリューションズ株式会社が提供するサービス。「ストーリデザイナー」と「ストーリービューア」の2つがパッケージ化されており、特別なマーカ無しでARコンテンツを簡単に作成できます。システム構築が不要で、オフラインでも利用可能という特徴をもちます。
MISTERINE STUDIO
プログラミング知識なしで使用できる、ARマニュアル作成・編集ツールです。作成したARをサーバーへ公開後、発行されるQRコードをデバイスアプリで読み取るだけで、いつでもどこでもARマニュアルを再生できます。さまざまな産業での導入実績をもっているので、自社での導入イメージを膨らませやすくなっています。
ツール選定において、価格や機能面をチェックするのはもちろんのこと、どのようなCRMツールと連携できるのかも確認するようにしましょう。サービタイゼーションが進む製造業において、ARマニュアルをただ作成するだけで終わらせないようにしてください。ARマニュアルの利活用が、顧客接点の強化や改善につながるかどうかは、競合他社との差別化において重要な要素となるからです。
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最後に
紙文化が根強く、人材不足や後継者問題が懸念される製造業において、いきなり「ARマニュアルを活用しましょう」と言われても、すぐには魅力的に思えないかもしれません。老舗製造業であればあるほど、デジタルマニュアルの作成・移行には、ハードルや抵抗感を感じやすいことでしょう。
しかし、老舗であればこそ、まだ可視化されていない貴重な暗黙知がたくさん眠っているはずです。それを確実に「見える化」し、次世代の人材に伝統的なスキルやノウハウを繋げていくなら、変化と課題の多い製造業で安定的に事業を継続し、10年先や100年先を期待することができます。それだけでなく、新規事業の立ち上げや市場開拓といった新しい展望を「視る」こともできるのです。