ハイパーパーソナライゼーションは、顧客一人ひとりの状況や行動をリアルタイムで分析し、最適な対応を提供するという仕組みです。
顧客接点でこのハイパーパーソナライゼーションが実現すると、どんな効果があるのでしょうか。ハイパーパーソナライゼーションが顧客と企業にもたらす7つの効果について見ていきましょう。
NetflixやSpotifyを始めとするB2C企業の事例や、SalesforceやHubSpotといったB2B企業の事例も紹介します。各企業が今できることも具体的に説明するのでご活用ください。
※ハイパーパーソナライゼーションについての詳細は前回の記事をご覧ください。
海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、18年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニューが解説します。
この記事が解決するお悩み
AI時代に顧客体験を「再定義」したい
リピート顧客の獲得が難しい
複数のチャネルで一貫した顧客体験を提供したい
次のパーソナライゼーション!?CXを変えるハイパーパーソナライゼーションとは - TPIJ by CBA |
ハイパーパーソナライゼーションの7つの効果とは
まず、ハイパーパーソナライゼーションが顧客と企業にもたらす7つの効果について見ていきます。
1. CXの圧倒的向上
リアルタイムのニーズに応じた最適な経験により、顧客に「自分のことをよくわかっている!」と感じてもらう顧客体験を提供することができ、顧客満足度が向上する。
2. 顧客エンゲージメントの向上
顧客の趣味嗜好、ニーズから離れた、いわばオフ・ザ・ターゲットな広告が少なくなり、顧客が今まさに求めている情報や提案をピンポイントで届けられる。たとえば、「過去に視聴したようなジャンルの映画をサジェスト」ではなく、「週末の夜、今の気分に合う作品を提案」という形で実現される。そのため、「今ちょうどこれが必要だった!」という、顧客のニーズに刺さる瞬間を生み出すため、エンゲージメントが自然な形で向上する。
3. 顧客の維持とロイヤルティの向上
ハイパーパーソナライゼーションにより、「自分の好み・ニーズをしっかりと理解したブランド」と認識されるようになり、継続したサービス利用が望める。たとえば、「過去の宿泊データをもとに、同じプランの割引オファー」という一律的なものから、「滞在中の行動を分析して、次回は好みにあったアメニティ付きプランを提案」することで、リピート率が改善できる。
4. オムニチャネルでの一貫した体験の実現
現代の顧客は、オンライン・実店舗・アプリ・SNSなど、さまざまなチャネルで企業と繋がろうとするため、どのチャネルにおいても一貫したパーソナライズ体験を提供できるハイパーパーソナライゼーションにより、企業ブランドの統一感が強化される。たとえば、「ECサイトで購入履歴を記録」する従来メソッドから、「リアル店舗へきたときに、アプリを見れば過去の購入履歴に基づいたおすすめ商品を教えてくれる」というように、オンライン・オフラインのボーダーを解消し、シームレスな顧客体験が可能となる。
5. 売上の向上とコンバージョン率の改善
AIによるターゲティング最適化により、関心の高い顧客により効果的なオファーをすることができる。また、需要と個々の購買意欲に応じたプライシングの設定が可能となる。たとえば、「過去の購入履歴をもとに商品をおすすめ」するだけだったのが、「カートに入れた商品を放置しているユーザーに、期間限定の割引をリアルタイムで通知」すれば、顧客のタイミングに刺さることでコンバージョン率が向上。
6. 業務効率の向上とコスト削減
AIとオートメーションの組み合わせにより、オペレーションコストを削減できる。たとえば、「顧客が問い合わせてきてから過去の履歴を参照して対応」するより、「問い合わせ前に、AIがFAQの最適解を提示し、自己解決を促す」ことで、オペレータの負担を軽減して顧客満足度を向上することが可能。
7. ROIの最大化
不要な広告配信を減らし、最適な顧客にリーチすることができる。よって、ターゲットにマッチしたメッセージを届けることができ、効果的なコンバージョンが期待できる。
ハイパーパーソナライゼーションがもたらす変化は、単なる便利さではありません。「個々の顧客にとって、最適な体験を提供できる」というところにあります。
次世代のカスタマーエクスペリエンスとも言えるでしょう。さまざまな企業で、ハイパーパーソナライゼーションの導入が進んでいます。
カインズも取り組むカスタマーエクスペリエンスマネジメント(CXM)とは - TPIJ by CBA |
ハイパーパーソナライゼーションの事例
ハイパーパーソナライゼーションの導入事例もチェックしておきましょう。B2CとB2Bの事例を紹介します。
B2Cの事例
- Netflix:視聴履歴だけでなく「どこで停止したか」まで分析して、最適なコンテンツをレコメンド
- Starbucks:モバイルアプリで、顧客の購入履歴や位置情報に基づいた、個別化されたオファーや商品を提供
- Amazon:過去の購入履歴や閲覧履歴を基に、リアルタイムで商品をレコメンド
- Spotify:「あなた専用のプレイリスト」をAIが自動生成
B2Bの事例
- Salesforce:AI「Einstein」が商談履歴を分析して、「次に取るべき最適なアクション」を営業担当に提案
- Zendesk:カスタマーサポートのFAQを、顧客ごとに最適化して、自己解決率を向上
- HubSpot:企業サイトの訪問者行動をトラッキングし、訪問者に対してパーソナライズされたコンテンツやオファーを提供し、リード獲得やナーチャリングを効率的にサポート
消費者向け企業でも企業向けソリューションプロバイダーでも、ハイパーパーソナライゼーションがカスタマーサポートのあり方を再定義しています。このアプローチをどのように取り入れるか?が、2025年のキーポイントになるはずです。
未来を見据えたハイパーパーソナライゼーション戦略―今できること
自社の顧客接点、カスタマーサービス、そしてカスタマーエンゲージメントをイノベートするためにハイパーパーソナライゼーションを導入することは、今後、市場における競争力の維持を左右する重要な戦略です。
実現するためには、高度化されたデータ活用、AI技術、また継続的な最適化プロセスが必要となります。未来を見据えて、ハイパーパーソナライゼーションを軸とした顧客対応を成功させて自社の成長につなげるために、今企業がすべきことは何なのか、具体的に解説していきます。
AIと機械学習の活用:顧客の次の行動を予測する
ハイパーパーソナライゼーションの中核を担うのが、AIと機械学習によるデータ分析。機械学習により、AIは顧客の過去データから行動パターンを割り出し、顧客が次に求めるものを予測していく。
- 音楽ストリーミングサービスにおいて、ユーザーの再生履歴や時間帯を分析し、最適なプレイリストを生成
- ECサイトにおいて、閲覧履歴や購入履歴をベースに、次に必要となる可能性の高い商品をレコメンド
- AIの活用により、単なるレコメンドを超えた、「今、最適な提案」を行える仕組みを構築
リアルタイムデータの分析:「その瞬間」を切り取る
従来のパーソナライゼーションが過去データに依存している反面、ハイパーパーソナライゼーションの基盤となるのはリアルタイムデータ。その活用により、顧客が今行っている行動や今身を置いている環境に即した最適な対応を提供することで、より関連性の高い体験を構築して提供できるようになる。
- ウェブサイトで、ユーザーの現在の閲覧ページやマウスの動きを解析して、最適なポップアップやオファーを表示
- 旅行アプリで、現在地情報をベースに、付近の観光スポットや人気レストランをリアルタイムでレコメンド
- 顧客の行動をその瞬間で切り取り、そこに刺さる=パーソナライズされた提案・オファーを通じてよりエンゲージメントの高い体験を提供
オムニチャネル統合:すべての顧客接点(チャネル)で顧客体験を損なわない
顧客はさまざまなチャネルを利用して企業とつながりを持つため、どのチャネル・接点でも一貫した体験を提供することが大切。
- ECサイトにおいて、カートに入れた商品を後からメールでもリマインドする
- 店頭で商品を手に取った顧客に、アプリを通じてクーポンを配信するような方法で、店舗とアプリがシームレスに連携したサービスを提供
- 顧客がどのチャネルやどの顧客接点を利用したとしても、一貫した顧客体験の質を維持できる環境が重要
顧客データプラットフォーム(CDP)への投資:データの一元管理を実現させる
顧客データの統合と、一貫したカスタマープロファイルの構築が不可欠。顧客データプラットフォームの活用により、各チャネルからのデータを統合してより正確なターゲティングが可能に。
- ERMやEC、アプリなど散在している顧客データを一元化
- AIフレンドリーなため、分析が容易になるだけでなく、パーソナライゼーションの精度も向上
- 統一された顧客情報が提供されるため、すべてのチャネルで一貫した対応が可能に
基本属性(デモグラフィック)に頼らないセグメンテーション:行動や価値観で細分化
これまでの、年齢や性別、地域などの基本的な情報に基づいたセグメンテーションではハイパーパーソナライゼーションは実現できない。顧客のニーズを十分に把握することもできない。行動データや価値観、心理的要因なども包含したきめ細かなセグメンテーションにより、パーソナライゼーションの精度は一層向上していく。
- Netflixのレコメンドは、「40代男性」だけでなく、「過去に***を視聴し高評価をつけたユーザー向け」といった分類に基づいている
- ECサイトにおけるターゲティング広告において、たとえば単に「スポーツ好きのユーザー」ではなく「ジョギングを週3実施している人向け」のようにもう一段解像度のレイヤーを落とした形で最適化する
- 顧客の行動やモチベーションに基づくセグメンテーションにより、的確なメッセージを生成し届けることができる
行動トリガーの活用:適切なタイミングで適切なアクションを
顧客が行動を起こした瞬間が、最適なオファーを提供するチャンスになる。
- カート落ちした顧客に対し、「あと**時間以内なら10%オフ」というクーポンを即時送信
- 航空券を購入した直後、続けて現地のホテルやレンタカーをレコメンドする
- 適切なタイミングで提供される提案は、顧客に「わかってるな」と思わせることができる
プライバシーとセキュリティの強化:顧客からの信頼を勝ち得るために
多くのデータを扱うハイパーパーソナライゼーションが基盤となっている顧客体験において、顧客からの信頼を得るために不可欠なのが、データの適切な管理と透明性の担保。プライバシーへの配慮が感じられないと、顧客は不安になるだけでなく、ブランドからの離脱が目立ってしまう。信頼を得るための対策を講じる必要がある。
- GDPRやCCPAといったデータ保護規制の遵守
- どんなデータを提供する必要があるかを顧客が選択できる仕組み
- データの匿名化+暗号化の徹底
- 顧客が安心してデータを提供できる環境の構築が長期的な顧客維持・ロイヤルティの向上につながる
AI x データ x 顧客の声(VoC)で成り立っているハイパーパーソナライゼーションは、企業の競争力を高めるだけでなく、顧客体験にこれまでにないイノベーションをもたらします。AI x データ x VoCを中心とした、未来に向けた戦略を設計していきましょう。
最後にーこれからの変化を見据えて
これまでのパーソナライゼーションは、顧客を特定のグループやセグメントとして捉え、その属性に基づいたレコメンドやサジェストを提供するアプローチがメインでした。しかしこの手法では、企業からのオファーが「刺さる」顧客もいればそうでない顧客もいるわけで、企業が提供するものすべてが全顧客に響くとは限りませんでした。企業側からすれば、ある程度は顧客に寄り添って顧客対応しているつもりであるという一方で、顧客側からすれば、「刺さらない」オファーやレコメンドは無意味であり、認識もしない存在となってしまいます。
しかしハイパーパーソナライゼーションはリアルタイムデータを活用し、顧客の「今」に迫ったアプローチを可能にします。その結果、顧客一人ひとりが「自分に合った提案を受けている」実感できるようになり、貴重ご顧客の関係性がより深まる顧客体験が実現します。
そしてこの革新的なアプローチが可能になったのは、AI技術やビッグデータ解析の飛躍的な進歩によるものです。とくに、2025年、エージェンティックAIやAIエージェントの台頭により、企業の顧客対応のあり方がさらに変化することが予想されています。この流れの中で、企業はどのようにAIと向き合い、「人の役割」はどのように再定義していくべきなのでしょうか。
テクノロジーが発展してますます顧客・企業間コミュニケーションが変容していく中で、最も重要なのは「人を中心に捉えたパーソナライゼーション」です。
AIがどれほど高度化して進化しようと、最終的に顧客が求めるのは「自分という存在が大切にされている」という実感です。TPIJでは、こうした技術の発展や市場の変化をトラッキングしつつ、「人を大切にした視点」を常に軸として、市場や社会の変化をこれからも追い続け、情報発信していきます。