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マシンカスタマーとは|新たな顧客接点の時代に備える

AI時代と呼ばれる2023年から、早くも1年半が経過しようとしています。そんな中、テクノロジートレンドには新たな動きが見られています。IoTとAIの浸透・活用によって、近いうちに人間以外の顧客が存在するようになると言うのです。

この考え方そのものは、10年ほど前から提唱されてきましたが、2023年始めにGartner社が「マシンカスタマー」という言葉と共にその可能性を大きく明示し、あらゆる業界で注目され始めました。

では、「マシンカスタマー」とは何でしょうか。「マシンカスタマー時代」が到来すると何が変わり、私たちはどうすれば良いのでしょうか。

この記事が解決するお悩み

最近目にする「マシンカスタマー」や「顧客ボット」というワード…一体なんなの?

マシンカスタマー時代に突入すると、カスタマーサービス部門はいらなくなるのではないか

顧客接点や、顧客体験をどう考えれば良いのだろう

「マシンカスタマー(顧客ボット)」とは

「マシンカスタマー時代」について検討する前に、「マシンカスタマー」という概念について確認しましょう。

「マシンカスタマー」とは、米Gartner社のドン・シャイベンライフ氏が提唱した概念です。ドン氏は、マシンカスタマーについて「支払いと引き換えにモノやサービスを自律的に交渉・購入できる、人間以外の経済主体」と定義付けています。

2023年1月にドン氏は、マーク・ラスキーノ氏と共に『When Machines Become Customers』を出版しました。この本では、「顧客は人間」というこれまでの前提が変化していることに焦点を当てつつ、マシンカスタマーを脅威ではなく、ビジネスの成長をもたらす存在として積極的に捉えています。その上で同氏は、「企業は今すぐ『人間ではない機械を相手に売る』戦略を考える必要がある」と強調しています。

まだ本格化していないマシンカスタマーについて、なぜ今から戦略を考える必要があるのでしょうか。Gartner社では、マシンカスタマーの未来ついて以下のような仮説を立てています。

上記に加え、ガートナージャパン リサーチ&アドバイザリ部門インフラストラクチャ&セキュリティ バイス プレジデント アナリストの池田武史氏は、「コールセンタージャパン」2024年4月号で「とりわけBtoBの領域では、部品や材料の定期的な発注は、自動化が急速に進むと考えています」と述べています。

マシンカスタマーが企業やビジネスに及ぼす影響の大きさがうかがえます。

では、マシンカスタマーは本当に私たちの生活に浸透するでしょうか。

AIが人間の行動を肩代わりする傾向は、すでに存在しています。AIが私たちの購入行動を肩代わりする身近な例としては、Amazon Echoによる音声ショッピングを挙げることができます。Amazon Echoに搭載されているAI「Alexa」は、ユーザーが製品を買い物かごに入れるところから会計をするまでの全てをサポートします。

日用品の自動定期購入や、保険の自動更新・支払いなども、購入行動が自動化されている一例です。

マシンカスタマーの本格化は、サブスクリプションや、定期購買、契約の自動更新による支払い、AI搭載の家電によるショッピングサポートと同じ文脈で浸透していくことが予想されます。すでに自動化されている購買行動を考えると、マシンカスタマーの活用シーンは、金額よりも購入するモノによって左右されると言えそうです。

ガートナージャパンの池田氏は、「コールセンタージャパン」の記事でマシンカスタマーの浸透によって「ビジネスが加速し、受注側と発注側、双方の競争力が向上する」と指摘しました。

マシンカスタマーが実現される可能性の高さや、ビジネス的影響力の高さを考えると、企業やカスタマーサービス部門は、この変化の予兆を無視することはできません。

「マシンがお客さまになるということは、顧客接点が実質なくなったり、カスタマーサービスが不要になったりするのではないか」と思われますか。

「マシンカスタマー」とはいえ、企業にとってお客さまであることに変わりはありません。お客さまがいなくなるわけではないのです。「新たな顧客」としてマシンカスタマーに柔軟に対応していくことが求められるフェーズが来るということです。そのため、顧客接点やカスタマーサービスには、マシンカスタマー向けのものが必要となってくるでしょう。

マシンカスタマー時代の到来で起きる変化

ここまでで、マシンカスタマーがどういったものかを紹介してきました。マシンカスタマー時代の到来を無視することはできないと言ったものの、具体的に今と何が変わるのでしょうか。

ここからは、お客さまが人間である場合を、マシンカスタマーに対してヒューマンカスタマーと表現しつつ、今後予想される2つの大きな変化について説明します。

マシンが顧客になる

「マシンカスタマー時代による変化なのだから、文字通りマシンが顧客になるのは当たり前だろう」と思われるかもしれません。

これまでは、「表向きの顧客が機械(AI)でも、すぐ裏には人間のお客さまがいる」という考え方と、それに基づいたマーケティング施策や購入行動の設計が成立していました。しかし、マシンカスタマー時代にあっては、裏も表もお客さまはAIになります。本当の意味でマシンがお客さまになるのです。

今後の企業は、常にマシンカスタマー向けと、ヒューマンカスタマー向けの二大柱でブランド・商品展開をしていく必要が生じます。ヒューマンカスタマー向けの施策を「発展させる」というよりは、マシンカスタマー向けの施策を「新規で作る」というイメージです。

たとえば、製品・サービスの質だけでなく、ストーリー性や感動を含めた「顧客体験」を売りにしていたブランドは、新たにマシンの「琴線」に触れる顧客体験を考えなければいけません。

人間的感情を未取得のAIの「琴線」はどこにあるでしょうか。

ひとつは、数字として比較検討できるデータです。たとえば、価格やレビューの数を挙げることができます。マシンカスタマーは、オンライン上にある膨大な製品・サービス情報の中から、もっとも金額の低いものやレビュー数の多いもの、あるいは評価の高いものを迅速かつ徹底的に比較・選定してくるでしょう。

現状のAIでは、各ユーザーの感情を含めたインサイトを汲み取り、価格やレビューに幅を持たせながら製品・サービスを選ぶ能力は未発達だからです。

もちろんAIは日々進化しているので、いずれユーザーの感情を分析あるいは連動した購入行動ができるようになるかもしれません。とはいえ最初のうちは、人間のように「今の気分」といった瞬間的で幅のある購入行動ではなく、あくまでも「どのお店が安いか、どのサービスがもっともレビュー数が多いか、今のトレンドは何か」といった「データ」による購入が主軸となるでしょう。そのため、まずは顧客であるAIに自社製品・サービスを見つけてもらうことを考えなければいけません。

企業は、「顧客」に対するマインドセットやアンコンシャスバイアスを根本から変革させる必要があります。ヒューマンカスタマーが今よりもマシンを活用して購入してくるのではなく、そもそもマシンが顧客になるのです。新たな属性の顧客が生まれるからこそ、新たなニーズに合わせた施策が必要になります。

カスタマージャーニーの再適応

ヒューマンカスタマーに対するカスタマージャーニーが、漏れなく全ての人に適応できるわけではないのと同様に、「対人」と「対マシン」のカスタマージャーニーが完全に一致する可能性は0に近いと言えます。

「購入行動が自動化される=自動で売れる」と考えたり、現状の成功しているカスタマージャーニーをマシンカスタマーに転用したりすることはあまり現実的ではありません

たとえば、マシンカスタマーが商品・サービスの選定・交渉にあたって企業とコミュニケーションをとる場合、誰と会話するでしょうか。おそらく、人間のオペレーターではなく、ボット同士で会話をするでしょう。しかし、ボット同士でコミュニケーションをとるためには、「会話」をするためのプラットフォームやシステムが必要になります。

顧客が変われば、顧客接点の在り方や種類、顧客接点のフロントに立つ存在も変わります。とはいえ、顧客接点そのものが消滅するわけではありません。そのため、マシンという新たな顧客に適合するカスタマージャーニーを再設定することがポイントになります。

加えて、しばらくの間は徹底的な検証と定期的なチューニングが求められます。細やかな検証と調整のためには、マーケティング部や営業部、技術部など、各チーム間のスムーズで密な連携が必要不可欠です。現在も各チーム間の連携は強調されますが、今以上にそれが重要になる時代が迫ってきています。

マシンカスタマー時代に向けて強化するべきこと

ここまでで、マシンカスタマー時代の到来において予想される変化について2つ紹介しました。次は、変化も踏まえて今強化しておくべき2つの要素を紹介します。

セルフサービス

CyaraのCEO兼共同創設者であるAlok Kulkarni氏は、マシンカスタマーの出現が新たなダイナミクスをもたらし、既存のサポート戦略を再適応させる必要性について以下のように指摘しています。

“This might include developing specific interfaces and communication channels tailored for interactions with machine customers,”(原文)
「マシンカスタマーとのやり取りに合わせた特定のインターフェイスや、コミュニケーションチャネルの開発が含まれる可能性がある」

出典:What to Know About Machine Customers

自己解決率向上を目的として、すでに多くの企業がセルフサービスの強化に注力しています。これからは、ヒューマンカスタマー向けだけでなく、マシンカスタマー向けのセルフサービス強化も求められるでしょう。

海外の別の分析を見ると、今後「マシンカスタマーが独立してサポートシステムをナビゲートし、問題解決までおこなう」ことが予想されています。一方で、この自立性を実現するには、ナレッジベース、直感的なインターフェイス、マシンカスタマーに対応するインテリジェントな検索機能が必要になるとされています。

とはいえ、これらは決してマシンカスタマー時代が到来するから必要になるものではありません。これまでもナレッジベースの活用や定期的な点検、エフォートレスなUIなどは、自己解決率や顧客満足度向上のために強調されてきたものです。

マシンカスタマー時代に備えるとはいえ、いきなり焦ったり気負ったりしないようにしましょう。

まずは対人のセルフサービスを見直し・再強化し、ヒューマンカスタマーの自己解決率を着実にアップさせることが、マシンカスタマー時代を生き抜く一番の近道になるはずです。

参考:Code as a customer: What the emergence of machine customers means for customer service

人間同士でおこなうカスタマーサービス

マシンカスタマーが台頭し、数年後には主流になるとは言ったものの、人間による購買、カスタマーサービス、コミュニケーションが淘汰されるわけではありません。そのため、AIの普及・進化とセットで生じる「人間の仕事がなくなるのではないか」という心配は不要です。

マシンカスタマーの初期段階では、ヒューマンカスタマーが「エネルギーをかけたくない」「人間的な繋がりを求めるほどではない」と思っている購入行動が真っ先に自動化されるでしょう。

逆に言えば、マシンカスタマー浸透の流れにおいても、製品やサービスを自ら選別・購入し、カスタマーサービスを活用する人は、そこでしか得られない顧客体験を期待していると結論できます。それこそが、寄り添いや提案、サポートなど、今現在も重視されているパーソナライズ対応です。

AI時代である現在もパーソナライゼーションが強調されていますが、マシンカスタマー時代においては、よりパーソナライズを意識した顧客体験を提供する必要があります。人間通しで営まれる購買行動に、さらなる付加価値を付けていけるかどうかが、マシンカスタマー時代を生き抜くカギを握るでしょう。

今以上にオペレーターや販売スタッフ、サポートスタッフから伝わる「人間味」こそが、企業のブランドイメージやブランド力を左右する大きな要素となるでしょう。

最後に

企業が無視できない「マシンカスタマー」と、マシンカスタマー時代に起きる変化について紹介してきました。「生成AIが出てきたかと思えば、今度はマシンカスタマーか…」と、このめまぐるしいテクノロジートレンドの変化に頭を抱えたくなるかもしれません。

マシンカスタマーが本格化すると、事前の想定以上に多くの変化が求められる可能性もあります。とはいえ、お客さまが完全に変わってしまうわけではなく、あくまでも増えるだけであることを忘れないようにしましょう。

今まで築いてきたものやこれから挑戦していくことが無駄になるわけではありません。むしろ、ヒューマンカスタマー向けのカスタマージャーニーやカスタマーサービス体制をどれだけ充実させ、安定させていられるかが、マシンカスタマー時代に柔軟に対応できるかどうかを左右するはずです。

いずれ来る「マシンカスタマー」の動向に注目しつつ、引き続き目の前のヒューマンカスタマーへ提供できるベストを尽くしていきましょう。

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