まずは以下の表をご覧ください。これは、経済産業省が公開している「2022年版ものづくり白書」にて使用されている「業種別GDP構成比の変化」です。
グラフでは2010年から2020年の比較がされています。10年間で1%ほどの減少はしているものの、引き続きGDPの2割を占める重要な業種であることが分かります。 製造業は日本の主要産業です。
一方、「日本が『ものづくり大国』または『技術大国』と呼ばれていたのは過去の栄光である」との見方も広がっています。皆様もご存じの通り、ただでさえ複雑化していく製造業に、新型コロナウイルスの蔓延が大打撃を与えました。製造業における次世代不足、衰退化など、問題は一つだけではありません。
この記事では、製造業を取り巻く「今」に注目しつつ、最新のAR技術が製造業に効く理由、メリットをご紹介します。
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なぜ製造業にARが必要か 〜製造業を取り巻く「今」〜
「AR」というと近代的でテクニカルなイメージが強くあります。そのため「現場ありきな製造業には関係ない」「仮に必要でも、導入はARがもっと浸透してからで良いのでは?」と思う方もいるかもしれません。
しかし、製造業はGDPの2割を構成する重要な業界です。かつ問題が多様化・複雑化する製造業だからこそ、ARを早めに取り入れるべきです。なぜでしょうか。まずは、製造業を取り巻く「今」の状況について整理してみましょう。
社会情勢
日々大きな変化が起きている社会情勢ですが、製造業は社会情勢の影響を直に、かつ即座に受ける業界です。
既出の「2022年版ものづくり白書」にて、現在の製造業がいかに困難な状況に置かれているかを示している資料があります。
図を見ていくと、原材料価格の高騰や物流コストの上昇、為替変動など、日に日に悪化していると言える問題ばかり並んでいます。国内での情勢変化はおろか、近隣諸国の情勢変化にも影響される業界であることから、長期的な安定を求めるのが非常に難しい業界であることが分かります。この1年間で言えば、ウクライナ危機に関連した情勢変化も、製造業に少なくない影響を及ぼしているはずでしょう。
製造に必要な原材料が不足し、原材料自体があっても価格が高騰しています。一括解決が望めない以上、業界として現状にうまく付き合って対処していくしかありません。
人手不足と後継者不足
既出の図で上から3番目に挙がっていた「人材不足」ですが、人材不足問題は皆様にとってもかなり身近な問題ではないでしょうか。少子高齢化に伴って新規の若手は入りにくく、頼りにしていたベテラン社員は退職していき、会社としても業界としても労働人口の減少に歯止めがきかないのが現状です。
人手不足が慢性的になっているからこそ、ベテラン工たちが築き上げてきた技術やノウハウを貴重な次世代人材に漏れなく継承したいところです。これまでの日本の技術継承はOJT(On the Job Training)の手法が主流でした。しかし、新型コロナウイルスの蔓延によってリモートワークが推奨されたり、職場での3密回避が求められたりと、現場ありきな製造業にも働き方の変化が求められました。加えて、人材流動化時代の潮流の中で、DX化によって技術継承を行おうとする動きも強まってきています。
とはいえ、(製造業に限られた話ではありませんが)そもそもの人材不足によってDX化すら進まないのが実情です。人手不足であり後継者不足である製造業は、このままだと衰退していく一方になってしまいます。
製造業のグローバリゼーションが進む中、海外からは「日本の製造業は衰退している」と認識されている事実も無視できません。例えば、2016年に人民網に掲載された記事の内容は、中国が日本の製造業をどのように捉えているかが分かる事例です。「日本の製造業が衰退したのはなぜか」というタイトルで書かれた記事ですが、衰退の理由として挙げられている3つの理由は決して否定できない内容でした。
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製造業でARが活躍するシーン
一筋縄では対処できない問題が山積している製造業ですが、今の難しい状況を打破する方法の一つが「ARの活用」です。では、製造業でARが輝く具体的なシーンは何でしょうか。今回は以下の3つをご紹介します。
- 作業支援
- 点検・保守
- トレーニング
3つのシーンについて解説していきます。
作業支援
ARの活用により、各種作業を遠隔支援することが可能です。各作業や製品に精通している熟練工や技術スタッフからリアルタイムで指示を受けたり、教わったりしながら作業を進めていけます。最近では、AR機能搭載型スマートグラスの実用化に伴い、スマートグラス越しに作業工程やマニュアルを視覚情報として確認できる「ビジュアルサポート」の環境も整ってきています。まさに完璧な作業支援が見込めるのです。
点検・保守
点検や保守の分野では、多くの項目で確認を行ったり、不具合の原因を長時間かけて慎重に探し当てたりすることが求められます。時間も労力も必要なため、なるべく効率化をはかりたい分野ではないでしょうか。
ARがあれば、目の前の製品にデジタル情報を重ねるだけで、チェック項目や方法を効率的かつ正確に把握することができます。
トレーニング
若手不足、人材不足により思うようにできない技術継承やトレーニングですが、それらはまさにARが斬りかかることのできる問題です。
トレーニングの場でARを取り入れるなら、実践的なトレーニングの効果と効率を最大限引き上げることができます。現場作業で使用する製品や機材の画像に、手順やマニュアルを重ねることで、擬似的な実践環境をつくりだし、現場に近い環境でトレーニングを行えるからです。
また、ARの作業支援により、日本の技術継承の伝統であるOJTを実質デジタルで行うこともできます。若手のトレーニングには非常に効果的です。
▶参考情報:最新のAR遠隔サポートプラットフォーム「CareAR/Xerox」
設備保全をARで見える化する|CareARがかなえるDX - CareAR AI/AR遠隔サポートプラットフォーム |
製造業にARを導入するメリット
先程ご紹介したARが活用できる具体的なシーンを念頭に置きつつ、ここからは実際のメリットをご紹介します。主なメリットを4つに絞ってご案内しますので、皆様にとって魅力的だと感じるメリットがあれば嬉しい限りです。
- 作業員の安全確保
- コスト削減(人件費・移動費)
- 作業の効率化
- 若手人材を惹きつける
作業員の安全確保
製造業は、概して労災事故が多い業種です。厚生労働省の労働災害発生状況を見ていくと、死傷事故件数が最も多い業者は製造業であることが分かります。製造業の中のどの業種であろうと、作業員の安全確保は必須であり妥協も油断もできないということです。
「作業員が危険にさらされる機会そのものを減らす」という課題に対して、ARの作業支援は有効的です。
遠隔で指示出しや作業が行えることで、現場に向かう作業員の数を減らしたり、そもそも行かなくても良い状況を作り出せたりすることを期待できます。
スムーズな現場作業により、現場作業時間を最小限におさえることもできます。長時間の作業が危険に直結する場合(炎天下や)また、作業支援により考えられるリスクを事前に洗い出すことができ、リスクに対処するための策を講じれるかもしれません。
製造業には「危険」という負のイメージが付きもののようです。しかし、最新のAR技術により作業員の安全確保にも余念が無いことをアピールすることができれば、新規労働力の参入も見込めます。
コスト削減
「ARそのものが高いんじゃないの?」と思われる方は多いのではないでしょうか。しかし、ARによってコストが削減できる可能性についてはご存じでしょうか。しかも、「コスト」と言っても金銭的なコストだけではなく、時間や労力といったコストも含まれます。
繰り返しになりますが、ARを活用すると遠隔での作業支援が可能になります。出張の度にかさんでいく交通費や宿泊費は決して安くありませんが、遠隔で作業を完結できれば、作業員は一歩も会社から離れることなく作業を終えることができます。
もちろん、ARを導入したからと言って出張が0になるわけではないでしょう。しかし、出張に行く回数や距離を減らしたり、より効率よくスケジューリングをしたりすることができるようになります。
金銭的にも、時間的にも、労働力的にも最もリーズナブルであるのは、 ARでの遠隔作業支援を行っていくことと、出張に行き続けることのどちらでしょうか。
金銭的な側面から考えれば、製造業にとってコスト削減は急務です。「2022年版ものづくり白書」で「営業利益の減少要因」を見ていくと、「売上原価の上昇」と「コストの増加」が挙げられているからです。つまり、営業利益を回復させていくためには、コスト削減は絶対条件なのです。
作業の効率化
ARスマートグラスを利用するならば、現場作業者は常にハンズフリーで作業を行えます。ARが導入されていれば、製品や作業に関して何か確認する必要が生じたとしても、調査や確認のためのアイドリングタイムが限りなく短縮されます。これまで目視で一つ一つ確認していたことを自動で正確に行うことが可能なので、ヒューマンエラーの防止にも有効です。
ARの活用により作業が効率化されたことを示す例を一つご紹介します。ARスマートグラスを導入した東京冷機工業のお話です。東京冷機工業では、若手社員が行うと通常1~1.5時間ほどかかる作業を、ARスマートグラスにより約15分で終わらせることができました。実に約1/4の時間短縮です。ARにより作業が効率化したと言わざるを得ない例の一つです。
自己解決率向上
ARによるビジュアルサポートは、製品マニュアルやFAQに導入したり、必要なときにお客様が自由にビジュアルサポートを受けられる環境を整えたりする分野にも活かされます。期待できる効果は、お客さまの自己解決率の向上です。
もし製品担当者や技術者によるサポート必要する場合でも、お客さまを遠隔でサポートすることができるので、一時解決率向上と共に、顧客満足度や顧客体験の質の改善も見込めます。
若手人材を惹きつける
後継者不足という根本的な問題を解決できるのであれば、製造業の業界としても願ったり叶ったりです。ご存じの通り「AR」はこの1、2年でやっと日常生活に降りてきた最新の技術です。まだ「普及」や「浸透」と言う言葉を使い控えるほど、今後の発展を期待される技術です。同時に一番ホットで注目度の高い技術であるとも言えます。
2020年の時点で10代・20代のAR技術認知度は約4割でした(調査:テスティー)とはいえ、2020年からの2年間が、日本でのARが躍進した年でもあります。
つまり、いわゆるZ世代のAR認知度は確実に右肩上がりであるということです。まさにこれから製造業に欲しい人材です。
AR導入企業となれば、「トレンドに敏感で業界の先端をいく会社」というイメージをZ世代の人材にももってもらい、採用がしやすくなります。
イメージには「わかりやすさ」が必要です。AR技術の導入は、わかりやすさの点では文句なしと言っても大袈裟ではありません。
また、AR導入によるメリットをはっきり打ち出せていれば、製造業に抱かれがちな「きつい」「危険」のネガティブなイメージを早い段階で払拭できます。
最後に
長々とAR導入について語ってきましたが、ぜひ最後に一つの図をご覧ください。現在何かしらのデジタル技術を導入している(製造業の)会社は、実は67.2%にまで及んでいます。広義でデジタル技術により効果が出ているとされる分野のランキングが以下の図です。
もちろん、導入されたデジタル技術が全てARであるというわけではありません。しかし、ARを導入した際に見込まれる効果を、よりリアルにイメージする助けになる図ではないでしょうか。
デジタル技術活用に際して一つの課題となるのが、「デジタル技術導入の効果が分からない」という点です。ARが活用できるシーン、メリットについて自社の状況と比較検討しながら、日々変化と影響をもたらす社会情勢とうまく付き合っていきましょう。