若干古い調査で恐縮ですが、2023年にガートナーが実施したアンケート調査によると、回答者の38%が生成AI投資先として、顧客体験向上・顧客維持の分野が有効だと考えているとのことです。
収益成長(26%)、コスト最適化(17%)、事業継続(7%)などを抑えて、1位が顧客体験の向上・顧客維持という結果でした。
もう少し遡って2022年のCMSWireによる「デジタル・カスタマー・エクスペリエンスの現状レポート」では、回答者の25%が「自社のCXツールにAIアプリケーションはない」と回答していることを考えると、生成AIの台頭が著しかった2023年がいかにAI飛躍の年だったかがわかります。非常に大きな飛躍です。
AIと言えば生成AIとまで言える状況を作り出した2023年以降、生成AIが中心的な役割を担っているのは明らかではありますが、実はその前から登場している別のAI形態があります。それが、「対話型(カンバセーショナル)AI」で、CX戦略という部分では中心的なAIでした。
対話型AIか、生成型AIか。コンタクトセンターという顧客接点においては、どちらがより業務最適化や効率性の改善にフィットするのか。対話型AI vs. 生成型AI…という図式で良いのか。…っていうようなトピックを、今回のエントリでは考えていきたいと思います。
対話型AIと生成AIの違いとは?顧客接点における4つの対話型AIのメリット - TPIJ by CBA |
対話型(カンバセーショナル)AIとは
そもそも、対話型AIって何なのか、ちょっとおさらいしましょう。
対話型AIとは、人間とコンピュータが自然な会話をすることを目指した技術です。このタイプのAIは、人間の言葉を理解し、必要な情報を引き出し、さらには感情を読み取ることも可能です。
たとえば、AlexaやSiriといったスマートアシスタントがその代表例です。日常生活をサポートするこうしたアシスタントは、ユーザーに友達と話しているかのような体験を提供します。
また、企業のウェブサイトに設置されているチャットボットも対話型AI技術を活用しています。お客さまの質問に即座に回答したり、問題解決の一助を担ったりするなど、人間のオペレータとやり取りしているかのようなスムーズなコミュニケーションを実現できます。
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対話型AIのよくある事例
対話型AIは、データから多様なアウトプットを新たに生成することに重きを置く生成AIとは異なり、人間と機械の対話を強化・コミュニケーションを向上させ、カスタマーサービス業務を自動化する部分に重きが置かれています。
この技術により、チャットボットのようなソリューションが強力になり、より自然で効果的な会話を人間・機械間でできるようになるだけでなく、タイムリーな顧客支援を提供できるようになります。
顕著な例として、Google アシスタントなどが挙げられますが、以下のような分野でも活用されています。
金融業界
金融機関では、パーソナライズされた金融商品やファイナンスに関連するアドバイスを顧客に提供していますが、その方法の一つとして、対話型AIを活用しています。
たとえば、対話型AIを搭載したチャットボットにより、口座の詳細に関するお客さまからの問い合わせに答えたり、お客さまの傾向から金融商品を提案したり、資金計画の支援をしたりすることができます。金融業界における対話型AIの活用により、顧客エンゲージメントを高められるだけでなく、金融アドバイザーの業務効率を改善することもできるようになります。
保険業界
保険会社では、対話型AIモデルを活用することでお客さまとのやり取りを最適化し、保険金請求処理を自動化している企業もあります。
たとえば、自社カスタマーサービス業務に対話型AIを統合し、チャットまたは音声インターフェースで保険金請求登録、保険契約に関する問い合わせ、更新プロセスを処理します。お客さまに必要なステップを案内することで保険金請求処理を迅速化し、問い合わせにリアルタイムで回答し、顧客満足度と業務効率性を向上します。
医療現場
医療現場においては、患者との対話により顧客体験を改革できます。
たとえば、対話型AIを活用したバーチャルアシスタントにより、予約のスケジューリング、投薬のリマインダー、処置やケアに関する情報の提供により、患者をサポートします。看護師やケアスタッフは、問い合わせに時間を割く変わりに、より複雑な対応が必要な患者のケアに集中することができます。
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対話型AIのメリット・デメリット
対話型AIには、数多くのメリットがありますが、同時にデメリットも存在しています。
メリット
- 365日24時間対応
- 複数のチャネルで365日24時間対応可能なサービスの構築が可能となります。お客さま側からすれば、時間に縛られることなく情報を取得したり問題解決に臨んだりできます。
- パーソナライズされたインタラクション
- 過去の対応内容やリアルタイムの感情や意図を分析することで、対話型AIは、お客さまひとりひとりに合ったカスタマイズされた対応を実現できます。
- 業務効率の向上
- タスクの自動化を通じて業務効率を向上させます。
- 運用コストの節約
- オペレータの業務が改善され、効率性が向上することで、業務負荷が軽減され、結果として運用コストの節約に繋がります。
- ビジネスインサイトの最適化
- ビジネスインサイトを最適化し、戦略的な意思決定を支援します。
- 柔軟な拡張性
- チャネルを超えた顧客対応を実現します。
デメリット
- ニュアンスの理解不足
- 対話型AIは、従来のチャットボットに比べるとたしかに高度ではありますが、複雑な言語のニュアンスや要求に対応するのが困難になることがあります。特に、顧客の「アクセント」そして、「ユーモア」や「皮肉」の理解が難しいことがあります。
- プライバシーとセキュリティ
- 顧客データの収集・処理の必要性上、プライバシーとセキュリティのリスクとは常に背中合わせとなります。適切なセキュリティ戦略を策定する必要があります。
生成型(ジェネレーティブ)AIとは
生成型AIとは、基本的なプロンプト(指示文)に基づき、新たに文章や画像、動画などを生成する人工知能の一種です。
ディープラーニングやニューラルネットワークを使用し、高度にクリエイティブな回答やリクエストに応じたコンテンツを生み出します。
この技術は、対話型AI同様、すでに様々なビジネスフィールドで一般的になっており、コンタクトセンターもその一つと言えます。生成型AIは、トレーニングセットからデータを取得し、そのパターンや特性に基づいて新たにデータを生成することで、人間の思考を模倣し、新たなコンテンツを作り出します。分析や解析、要約など、強みは多岐にわたります。
生成型AIのよくある事例
生成型AIのよくある事例についても見ていきましょう。
金融業界
ある大手金融機関では、生成AIを利用して顧客にパーソナライズされた金融商品に関連したアドバイスを提供しています。また顧客データを解析することで、AIシステムを通じてカスタマイズされた投資戦略や貯蓄プランを生成し、顧客満足度の向上を図っています。
保険業界
生成AIをベースとしたツールにより、各種保険金請求等の業務を自動化できます。また、過去のデータを解析し、意思決定プロセスの迅速化・人為的ミスの低減を実現できます。より正確なリスク評価・保険料設定につながります。
医療現場
患者一人ひとりに応じてパーソナライズされた治療計画や予測診断を生成することができます。AIを使用して病歴や遺伝子情報を分析し、患者の遺伝子マーカーや健康状態に合わせた治療を実施することで、健康状態の改善や医療資源の効率的な活用につなげられます。
製薬・創薬業界
創薬・製薬での生成AIはすでに重要な役割を演じ始めています。高度なアルゴリズムを活用することで、薬物相互作用等のシミュレーションを迅速化することが可能です。最終的に、医薬品開発プロセスに関連する時間とコストを節約することができます。
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生成型AIのメリット・デメリット
同じように、生成型AIのメリット・デメリットも見ていきます。
メリット
- 生産性と創造性の向上
- アイデア出しや分析・要約などを通じて、チームの生産性・創造性を大幅に向上させます。
- 反復的タスクの自動化
- テキストに起こされた対応内容の要約など、反復業務を自動化することで、効率性を高めます。
- トレーニングコンテンツの簡素化
- トレーニング用コンテンツ作成プロセスを簡易化し、教育プロセス全体を効率化します。
- 自動応答の生成
- お客さまの問い合わせに対する自動応答を生成し、迅速な対応を実現します。
- 個別のインサイトによる対話の改善
- インサイトを抽出し、顧客との対話のパーソナライズに活用します。
デメリット
- セキュリティとコンプライアンスリスク
- 大量のデータにアクセスするため、データの保護とコンプライアンスをしっかりと確立させる必要があります。
- ガバナンスの問題
- 顧客対応チームがLLM(大規模言語モデル)の動作やくせを十分に把握しておく必要があります。顧客対応チームには、生成AIを使用するための一連のトレーニングや教育が必要となります。
- ハルシネーション
- 生成AIは万能ではありません。「わからない」と回答することはなく、代わりに類似した情報に基づいた、正確ではないコンテンツを生成することがあります。
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対話型AI vs. 生成型AI…?
生成型AIと対話型AIは、どちらもわたしたち人間が機械とより自然にやり取りできるようにする素晴らしい技術です。とはいえ、両者には大きな違いがあります。
生成型AIは、新しいアイデアやコンテンツを創り出すことに長けている一方で、対話型AIは、まるで人間と話しているかのような対話を実現します。
生成型AIはディープラーニングやニューラルネットワークを利用して、大量のデータから学習し、新しいテキストや画像を生成します。ChatGPTやDALL-Eがその代表例です。対して対話型AIは、自然言語処理(NLP)や機械学習ベースに人間の言葉を理解し、適切な返答行います。
生成型AIはクリエイティブなプロセスを自動化し、新しいコンテンツを生み出すことで、メディアやデザインの分野で革新をもたらします。一方、対話型AIはリアルタイムの会話を円滑にし、ユーザー体験を向上させるのに最適です。
生成型AIは創造性を引き出す力を持ち、対話型AIは直感的なコミュニケーションを強化するため、それぞれ異なるアプローチで顧客・企業間コミュニケーションを円滑化し、変革しています。
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最後に
と、ここまで、対話型と生成型の違いや強みなどを見てきましたが、そもそも両者を戦わせる必要はあるんでしょうか?対話型 vs. 生成型という図式に押し込めるのは、ちょっとナンセンスかもしれません。なぜなら、それぞれ異なる強みをベースに、協力して顧客体験を向上させることが可能だからです。
たとえばMicrosoft Copilot for Sales は生成AIモデルだと考えられていますが、実際には対話型AIも活用しています。コンタクトセンターというフレームワークでは、対話型AIボットがバックエンドの生成型AIからのインサイトを利用し、顧客の問い合わせにより良い回答を生成することが可能となります。また対話型AIアシスタントは、インバウンドのチケット情報を分析し専門的な生成型AIモデルに問題を割り当てたり、生成型AIが顧客対応記録データから分析・抽出したFAQ・ナレッジベースに関するインサイトを引き出したりすることで、顧客サービスやオペレータ業務を強力にサポートできます。
したがって、対話型AIと生成型AIを組み合わせることで両者の特徴が強力なシナジー効果を生み出し、業務効率性や生産性を大幅に向上することができる…そんなシナリオのほうが夢を感じられるだけではなく、今やすでに現実的なのではないでしょうか。