「コールセンター白書2024」では、「コールセンター運営の基本は『予測呼量に応じて、対応できる人材を配置するリソースマネジメント』にある。しかし、採用難・人手不足でその難易度は上がっている」と指摘しています。
コールセンターのSVやマネジメント職の皆さまは、まさに「クラウド化やオムニチャネル化の浸透により、WFM(ワークフォース・マネジメント)が難しくなっている」と感じていませんか。
人手不足が慢性化している現在、「人員配置をいかに効率よく最適化していくか」はコールセンターにとって死活問題です。
この記事では、WFMを取り巻く現状と、AIを活用したマネジメントのメリット、そしてWFMシステムの選定時に押さえておきたい3つの機能について解説します。
海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、19年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニューが解説します。
【この記事が解決するお悩み】
- 人員配置が最適化できていない
- コールセンターをインハウス運営していきたい
- SVの負担を軽減しつつ、WFMをより柔軟で精度の高いものにしたい
顧客接点の最前線であるはずのコールセンター。しかし、解消されない人手不足や削減されない呼量、オペレータのスキル不足が継続的課題となっています。結果として「つながりにくいコールセンター」「つながっても解決しないコールセンター」となってしまい、もはや顧客接点として機能・成立しないケースも否定できません。カスタマージャーニーにおいては「大トリ」であり、顧客体験や顧客満足度へ直接的な影響を及ぼす部署です。コールセンター次第で、それまでの顧客体験を覆すこともできるほど重要なポジションと言えます。しかし... 「つながらない」を解消:コールセンター管理職のワークフォースマネジメント最適化術 - TPIJ by CBA |
コールセンターのWFMを取り巻く今
コールセンターにおけるWFMを難しくしている原因は、冒頭で言及した採用難・人手不足の他にも存在しています。二つの要素に注目しましょう。
オムニチャネル化の影響
現在多くの企業が、多様化する顧客ニーズへの対応と生産性向上を目的に、チャットやボイスボットを導入・活用し始めています。とはいえ、これまで電話で受けていた問い合わせ数が、チャットやボイスボットにそっくりそのまま分散・シフトするわけではありません。つまり、チャネルを拡充すればするほど、チャネルごとの業務量やピーク予測が必要になってくるのです。
場当たり的なオムニチャネル化は、かえってWFMを複雑化させるリスクがあります。
採用難や人手不足によってリソースが限られている今、オムニチャネルに対応しながら高品質な顧客体験を維持していくことは容易ではありません。
インハウス運営を志向するセンターでは、リソース最適化のハードルはより一層高まります。そのため、チャネルをまたいで管理していくことが大切になります。
② AI活用に関する理想と現実
「コールセンター白書2024」の調査として下の数値を見ると、多くのセンターがExcelで呼量予測をしている現状がわかります。
- 過去の呼量データと現場のマネジメントがExcelなどを利用して行っている:54%
- 過去の呼量データとビジネス概況(会員数・売り上げなど)をもとに、現場のマネジメントがExcelなどを利用して行っている:22%
これらによる予測精度について、32%が「予測値±10%以内だが、時間帯によっては大きく外れることがある」と回答しています。
予測値を大きく外れた時間が長引いたり、大幅なズレが頻繁に起こったりする場合、その度に顧客満足度の低下あるいはコストの浪費が生じている可能性が高いので、楽観視できない結果です。
同書の調査で、「(コールセンターにおいて)生成AIの活用成果で期待したい点」には、「SVやセンター長などマネジメント職の自動化や省力化」(21.2%)が上がっている一方、呼量予測について「WFMシステムを導入しシステム化」していると回答したのはわずか6%でした。
AIによるSV業務の支援という「理想」に熱視線が向けられる反面、AIによるWFMシステムが導入・活用されているケースは少ないという「現実」が伺える結果となっています。
多くのセンターにおいて、呼量予測やそれに基づいたシフト作成はSVが担っています。人手でWFMを最適化しようとすると、かなりの労力と負荷がSVにかかってくることは明らかです。
「コールセンタージャパン2025年5月号」では「多忙な状態を放置すれば、優秀なSV/リーダーほど退職するリスクは高い」と指摘しています。
SVの負荷を軽減しつつ、WFMを最適化していくことは喫緊の課題です。
2021年の後半頃から人手不足が深刻化し、早2年と少しが経とうとしています。コールセンターの採用時給の高騰や採用難、離職率の高さといった問題は後を絶ちません。コロナ前に見られた人手不足とは違い、今回の人手不足は解消の要素がほぼ存在しません。そのため、限られたリソースをいかに有効活用でき、オペレーターを離職させない(=リソースを減らさない)かが、現在のコールセンターの運営課題となっています。つまり「リソースマネジメント」です。この記事では、改めてなぜリソースマネジメントが必要なのかを明確にしつつ、具... 【人材不足解消!?】コールセンターでリソースマネジメントを行う4つの方法 - TPIJ by CBA |
AIによるWFMシステムのメリット4つ
AIによるWFMシステムがもたらす4つのメリットについて見ていきましょう。
SV/リーダーの負担軽減と属人化の解消
Excelを使った手作業による管理から、AIによる自動管理へシフトするなら、SVの定常的な負荷を大幅にカットしつつ、業務の効率化と最適化が図れます。
AIによって大量のデータを瞬時に分析し、最適な予測とシフト作成が可能となるからです。呼量予測時に処理できるデータが多ければ、予測値からの大幅なズレの軽減・解消も期待できます。
AIによる業務支援・置換が実現できると、SVの時間的余裕の創出につながります。これにより、現代のSV/リーダーたちに求められる「時代の変化に合わせた改革推進力」「サービス設計力」「業務改善の施策提案力」などの成長支援や、戦略業務へ注力できるでしょう。
結果として、SVの離職要因とされる「業務過多」や、課題とされる「SVのための教育・研修」へアプローチするチャンスとなります。
コスト削減と高品質なサービスの両立
AIによってWFMを最適化することで、最小限の人員で最大限のパフォーマンスを実現できます。
「最小限のオペレータ数で業務を行いたいものの、イレギュラーな呼量増加への対応を考えていくと結局のところ余剰人員が発生してしまう。余剰人員を回避して人件費を減らしつつも、オペレータに負担をかけずに顧客満足度を維持していきたい」といったジレンマを解消できます。
オペレータが働きやすい環境の整備
AIによるWFMなら、オペレータ一人ひとりの細かな勤務希望や事情を反映しやすくなり、以下のようなメリットが生まれます。
- 勤務希望の反映漏れリスク低下
- 先々の予定が予測できる
- 急なシフト変更や過剰な負担を最小限に抑制
これらのメリットがあれば、育児・介護・在宅など多様な働き方にも対応していけるので、「働きやすいコールセンター」を実現できます。
従業員満足度向上により、離職予防やリファラル採用の強化をしていけるでしょう。
複数拠点のリソースと複数チャネルの一元管理
複数拠点をもつセンターにとっては、一元管理による柔軟な人員活用が大きなメリットとなります。
拠点をまたいだリソース管理が実現すると、人員が不足しているチームにオペレーターを派遣したり、余剰人員を研修に充てたりすることができます。
各拠点での視点ではなく、センター全体としての視点で人員を活用することが可能です。より広い視点でリソースを活用していけると、インハウス運営の継続・実現の強力な後押しとなります。
オムニチャネル化にあっては、「拠点」だけでなく「チャネル」をまたいだ視点での管理も重要です。
AIによってチャネル別の対応件数やピーク予測ができると、複数チャネルをまたいだ人員の最適化に対応できます。チャネル間の業務量バランスや、オペレータのスキルに応じたルーティングができることで、より効率的かつ柔軟な運用が実現します。
▶参考情報:AIによるWFMシステムの例「BrightPattern」
長年問題視されている、コールセンターの人材不足。それにも関わらず、コールセンターのニーズは拡大し、対応しなければならない業務の多様性も増すばかり…。いたちごっこのようにすら感じることもあるのではないでしょうか。しかし、実は、今が人材不足の解決に乗り出す絶好のチャンスであるとをご存じでしたか。「月刊コールセンタージャパン」の2022年2月号の調査によると、コロナ禍でのシフト減少を理由に、一般の転職希望者がアンケート回答者の半数を超えているのです。そのうち8割が、今とは異なる職種を希望しています。つまり... コールセンターの人材不足|女性の転職希望者をターゲットにして解消!? - TPIJ by CBA |
WFMシステムに求めたい3つの機能
WFMシステムに求めたい3つの機能とは何でしょうか。
① 高精度な呼量予測機能
AIによって過去のデータに基づいて曜日や時間帯、シーズンごとに分析や予測ができる機能は必要不可欠です。くわえて、市場動向や顧客行動の分析が可能なら、より高精度な予測が期待できます。
これにより、より正確なニーズに合わせて人数を調整できるので、オペレータの過不足が発生するリスクを抑えられます。
② オペレータ情報の登録
各オペレータのスキルや勤務状況、応対履歴および品質を登録することができると、人員不足が発生した際や、緊急対応時にも適切なスキルマッチングやルーティングが可能です。
くわえてオペレータのシフト希望なども登録できるなら、オペレータの勤務希望との整合性を確保しやすくなります。
③ リアルタイムモニタリング
AIによってWFMを最適化できているとはいえ、常に不測の事態に柔軟に対応できるようにしておくことは、顧客満足度を低下させないために必要不可欠です。そのため、リアルタイムでのモニタリング機能やアラート管理、再予測の機能が付いているかどうかは、AIによるWFMツールを選ぶ上でポイントとなります。
必要に応じた迅速な対応ができると、お客さまを長時間待たせたり、焦らせたりといった顧客満足度低下をまねく事態の回避に直結します。
WFMの遵守状況をモニタリングできることも大切です。
チームや個人での遵守状況を確認できると、「現場とのズレ」を最小限に抑え、従業員満足度と顧客満足度の両方をキープできるからです。コスト削減にも貢献するので、プロフィットセンターとしての位置づけをより明確にできるでしょう。
▶参考情報:AIによるWFMシステムの例「BrightPattern」
近年、カスタマーサービスの分野で注目されている考え方が「カスタマーエクスペリエンスマネジメント」です。略して「CXM」と言われることがあります。顧客のニーズが多様化し、サービスも多様化する時代に、企業が収益を確保し続けるためには必要不可欠な手法です。実際、カインズをはじめカスタマーサービス業界の各社が、カスタマーエクスペリエンスマネジメントに取り組んでいます。今回はカスタマーエクスペリエンスマネジメントとは何なのか、この手法を実践するために注力すべき3つの分野とはどこなのかについて解説します。失... カインズも取り組むカスタマーエクスペリエンスマネジメント(CXM)とは - TPIJ by CBA |
最後に
人手不足の時代において、WFMは単なる「業務上の調整や効率化」ではなく、経営戦略に直結する重要な要素です。
顧客と従業員それぞれの満足度を高め、SV/リーダーたちが今とこれからに求められるスキルの獲得・強化を実現していくには、いまこそWFMの見直しと最適化が求められています。