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AI急進の今考える、コールセンターにおけるVOC分析データを経営資産化する方法 

SNS、ユーザーアンケート、ユーザーインタビュー、営業や店舗での対面接点など、企業には多様なVOC収集チャネルが存在します。

その中でも、コールセンターは顧客と双方向のコミュニケーションを通じて「深い声」を継続的かつ安定的に収集できる唯一のチャネルです。問い合わせやクレームの背景には、顧客の感情や、商品・サービスへの期待と現実とのギャップが含まれています。これらは単なる通話データではなく、企業変革の起点となる情報です。

だからこそ、コールセンターで得られるVOCは「宝の山」と言えます。しかし、その価値が広く認められつつある一方で、VOC分析の「活用フェーズ」は十分に進化しているとは言えません。多くの企業で、価値あるデータが眠ったままになっているのが現状です。

本記事では、AIが急速に進化する今だからこそ、コールセンターにおけるVOC分析をどのように経営資産へ昇華させるかを整理します。

海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、19年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニューが解説します。

【この記事が解決するお悩み】

 

 

生成AIによるVOC分析の実態

近年、生成AIを活用したVOC分析は急速に広がっています。

IDEATECHが提供するリサーチデータマーケティング 「リサピー」調査「生成AIでのVOC分析に関する実態調査」によると、AIを活用したVOC分析に対して87.6%が「満足」と回答しています。満足の理由は、主に作業効率の向上や分析スピードの改善です。

一方で、AIの分析結果を「改善提案の作成(20.4%)」や「意思決定支援(7%)」といった、ビジネス成果に直結する領域まで活用できている企業は、約27%にとどまります。

さらに、以下のような課題も挙げられています。

つまり、生成AIは「効率化」には成功しているものの、ビジネスの意思決定支援や経営戦略の資産として活用できている企業は限定的と言えます。

コールセンターでも、VOC分析を「活用」の段階まで引き上げることに苦戦しているケースが少なくありません。

その主な理由は3つあります。

改善に向けた具体策の不足

音声認識技術の向上により、VOCの量と質は大きく向上しました。全件分析も可能になり、VOCデータの可視化は容易になっています。

しかし、レポートが作成されても、「何を変えるのか」「どの施策を優先するのか」まで踏み込めていないケースが多く見られます。分析はできても、実行までの設計が弱いのです。

VOCを活用する組織的仕組みの不足

コールセンター内部の改善は、比較的迅速に行えます。しかし、顧客の不満や要望の多くは、商品設計やシステム、物流、マーケティングなど他部門に起因しています。

そのため、VOCを横断的に活用できる組織的仕組みがなければ、全社的な改善や経営レベルの意思決定にはつながりにくくなります。

経営層とのつながりの弱さ

もう一つの大きな壁が、「経営層とのつながりの弱さ」です。

このようなセンター関係者の声は珍しくありません。

どれだけ質が高く有用なVOC収集と分析を行っても、経営判断のテーブルに乗らなければ、経営資産にはなり得ません。問題は「VOCの量や質」ではなく、「経営層に活用してもらえる仕組みや形式になっているか」なのです。

VOC活用は、「収集」「分析」「活用」の3つのフェーズに整理できます。

収集:

音声認識や文字起こしの精度向上は著しいものです。さらに、最新のAIは顧客の声音や言い回し、文脈などから感情や心理、背景にある真因の把握まで分析することができます。収集フェーズは今後ますますAIの強みが発揮される領域です。

通話のテキスト化、感情分析などを実現しているコールセンターシステムの例:Bright Pattern Contact Center(ブライトパターンコンタクトセンター)

分析:

VOCの分類や要約はAIに任せることで、大幅な効率化が可能です。これにより、従来の課題だった「VOCの拾い漏れ/抜け落ち」や「膨大な負荷」は大きく軽減されます。

最新のVOC分析ソリューションである「QANT VoC」では、AIで要約やタグ付けを行い、すべての通話を可視化することができます。それだけでなく、レポートのようなアウトプットを「見る人の属性や目的」に合わせて設計することが可能です。たとえば、経営層には俯瞰的な集計を見せ、サポートの現場にはFAQ改善につながる具体的な要素を提示するといった設計です。

カテゴライズや要約といった「VOCを可視化する作業」だけでなく、AIから改善提案や示唆を得ることも、いまや現実的な選択肢となっています。

「現状の生成AIは、人間でも気づくレベルの示唆だ」という指摘がある一方で、「ようやくAIに任せられる水準に近づいてきた」という評価もあります。AIエージェントの進化により、VOCのテキストデータは数値化、ポジティブ・ネガティブ分析、感情傾向の把握など、多様な形で活用できるようになりました。

だからこそ、今改めて問われるのは「AIをいかに使いこなすか」という点です。

AIによるVOC分析を経営資産へと昇華させるためには、AIによる改善提案を「そのまま採用する答え」ではなく「施策のヒント」として捉えることが重要です。最終的な解釈や意思決定は人間が担うのです。これはAIと人間の役割分担、すなわちヒューマンインザループの実践と言えます。

現場にいるからこそ、提示されたヒントの妥当性や効果性を判断し、自社に合わせて調整・具体化することができます。とくに顧客接点を多く持つコールセンターは、示唆を「施策」へと変換できる重要なポジションです。

AIに分析を任せるからといって、分析フェーズのすべてを委ねる必要はありません。これまでは「収集」から改善案の作成までに膨大なリソースを必要とし、分析自体が十分に行えないケースや、改善案の有効性について判断できず、実行に移せないケースも少なくありませんでした。

しかし、AIが分析の第一段階を効率的かつ迅速に担うことで、人間はよりビジネス成果に直結する意思決定、実行設計に時間とエネルギーを集中できるようになります。

活用:

VOC活用のフェーズには、「分類・分析・レポート化ができても活用されない」というオペレーション的な課題が残ります。

活用フェーズについては、「auじぶん銀行」の取り組みを参考にしてみましょう。

VOC活用の実践例として挙げたいのが、「auじぶん銀行」の取り組みです。

auじぶん銀行のCS本部は、2024年末からAIを活用したVOC活動を本格化させました。VOC分析ソリューションを導入し、VOCのカテゴライズはもちろんのこと、改善の示唆にも活用しています。

それまでは、担当部署がVOCを受け取って、改善案を企画するまでにかなりの時間を要していましたが、AIからの提案や示唆を受けることで、迅速に行動できるようになったといいます。

お客さまの不満を能動的に拾うことを目指した同社では、収集したVOCを日々全社に共有しています。経営層から現場まで同じデータ基盤を共有し、「収集→分析→共有→実行」のサイクルを回すようにしているそうです。

これにより、どの部門の誰もが同じ情報を基に議論できるようになり、改善スピードの向上や、VOC活動を「全社の取り組み」として拡張することに成功しています。

CS本部が中心となって改善策への声を上げるものの、マーケティングや経営企画などの部門を横断しながら実行する仕組みが定着。「顧客体験をどう良くするか」という視点が社内文化として浸透してきています。

auじぶん銀行の事例から「活用」フェーズについてどんな点を考察することができるでしょうか。

コールセンターにおいてどれだけAIを使いこなし、完璧なVOC収集と分析ができたとしても、活用されなければ意味がありません。

しかし、「センター発」の提案がどこまで他部門や経営層に受け入れられるかという問題が立ちはだかります。冒頭でも触れたとおり、「現場の肌感だけでなく、VOCデータを基に改善案を提案しているのに、他部門や経営層になかなか聞いてもらえない」「改善策の実行までに時間を要しすぎて、センターからの提案をないがしろにされている気がする」。このような悩みを抱えるセンター関係者は少なくありません。

この現状を打破するためには、auじぶん銀行のような「VOCを生かすための組織作り」がカギを握ります。

コールセンタージャパン2025年11月号」では、AIによるVOC分析と、それに基づく活用に成功している企業の共通点は、「サポート部門を超えた組織のあり方」だと分析されています。

顧客接点の横断組織を設け、経営直下で推進していくなら、VOCを前提にした改善案にも説得力が増し、他部門にも受け入れてもらいやすくなるでしょう。

生成AIの発展やAIエージェントの進化により、コールセンターにおけるVOC分析の技術的ハードルは大きく下がりました。これから問われるのは「AIを導入したか」ではありません。「AIが示唆し、人が意思決定する仕組みを全社的に設計できているかどうか」が問われています。

AIとヒューマンインザループの実践によって、VOC分析を経営資産へと昇華させることこそが、AI急進の今求められている視点ではないでしょうか。


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