コンタクトセンター業界において、DXによる業務効率化やCRMの活用がコモディティ化し始める中、競合他社との差別化は日に日に難しくなっています。そのような中、差別化を図る要素として「ホスピタリティ」を掲げるセンターは少なくありません。
また、現在のコンタクトセンターは、電話だけでなくチャットやメール、SNS、ビデオなど、さまざまなチャネルでカスタマーサービスを提供しています。そのため、チャネルに左右されない「平準化」が必須となっています。
「AI元年」と言われた2023年からは、コンタクトセンターにおいてもAIの活用が本格化されました。効率的かつモダンなカスタマーサービスが脚光を浴びる中、「人間ならでは」または「人間味」のあるサービスとクオリティの維持向上が求められています。
コンタクトセンターがホスピタリティや人間味、平準化を強化して行くには、「クオリティマネジメント」が欠かせません。この記事では、コンタクトセンターが行うべきクオリティマネジメントについて、たった一つの分野に絞って紹介します。
コンタクトセンターにおいてSVやQAの役職についている方におすすめの記事です。
この記事が解決するお悩み
クオリティマネジメントとして何を重視するべきか迷っている
クオリティマネジメントをしながらカスタマーサクセスに繋げたい
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コンタクトセンターで今行うべきクオリティマネジメント
最近のコンタクトセンターは、AIの導入検討、自動化、セルフサービスの強化、ホスピタリティの強化…など、速やかに着手するべきことがたくさんあります。やりたいこと・やるべきことが多いゆえに、クオリティマネジメントでは無意識に「維持」を重視してしまいがちです。現状の高いクオリティを維持することは重要ですが、差別化の観点からすれば常に「向上」を意識していたいものです。
クオリティマネジメントが不十分だと、「顧客満足度の低下」として影響が表面化します。AI導入などの画期的で新たな取り組みに成功したとしても、その間に顧客離れが起きてしまっていては本末転倒です。そのため、今の品質管理は今後を左右する重大な要素と言えます。
では、コンタクトセンターが行うべきクオリティマネジメントとは具体的に何があるでしょうか。一般的にコンタクトセンターが行うべきとされる品質管理には、大きく以下の4つがあります。
- 応対品質…顧客とのコミュニケーション品質
- 接続品質…電話などのつながりやすさみ見られる品質
- 運用品質…オペレーターの離職率や欠勤率などから見られる運用に関わる品質
- 処理品質…顧客応対にまつわる作業品質
この記事で注目するのは、①の応対品質です。応対品質とは顧客とのコミュニケーション品質のことを指しますが、ひとことで言えば「顧客に満足してもらえる対応を行えているか」を管理していきます。マネジメントしていく中で指標となる代表的な項目は以下の通りです。
- 顧客のニーズにあっているか
- 適切な言葉づかいができているか
- 顧客に合わせたスピードでコミュニケーションができているか
- 顧客に共感できているか
- 伝える情報は正確で過不足がないか
- トークスクリプトやマニュアルに沿った対応をしているか
上に挙げた指標から分かるとおり、応対品質は他の品質管理に比べると数字的に可視化されにくく、マネジメントが難しい分野です。「感性」をもつ人間だからこそ評価し得る品質項目と言えます。くわえて、顧客のニーズは流動的かつ変化のスピードが早いので、応対品質は「維持」ではなく「向上」と「適正化」をつづけることがポイントです。
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応対品質向上のメリット4つ
コンタクトセンターが行うべきクオリティマネジメントには4つありますが、とくに応対品質に注目するのはなぜでしょうか。
応対品質を向上させる4つのメリットを短く説明します。
ロイヤルカスタマーを増やせる
コンタクトセンターは顧客接点の最前線です。そのため、コンタクトセンターから提供される顧客体験こそが、お客さまからの企業イメージや評価を左右します。良質な顧客体験が提供されれば、一般顧客がロイヤルカスタマーとなる可能性が上がります。
ロイヤルカスタマーが増えるなら、お客さまが友人や家族に製品あるいはブランドを「口コミ」として広めてくれるでしょう。
企業イメージの維持向上
誰でもSNSを使っており、「口コミ時代」となっている最近では、カスタマーサービスに対する評価は、企業イメージとしてすぐに拡散されます。良い顧客体験ができれば良い口コミとして広がり、不満の残る顧客体験となればネガティブな口コミが広がります。口コミの内容によっては、コンタクトセンターのみならず企業全体のイメージを著しく下げるリスクがあります。
応対品質を良い状態で管理できていれば、現在企業が獲得しているポジティブなイメージを維持向上させることができ、マイナスイメージ発生のリスクを最小限に抑えることが可能です。
業務改善につながる
応対品質のマネジメントに取り組んでいると、業務プロセスやオペレーター対応において改善できる点が見えてくるかもしれません。改善点を把握しつつ、コンタクトセンターの課題が見えてくれば、早い段階で課題解決に着手することができ、より効率的かつ迅速に業務改善を図っていけます。業務改善が適正になされていれば、顧客満足度の向上へとつながっていくので、メリットは連鎖していきます。
カスタマーサクセスが実現できる
応対品質に関するクオリティマネジメントは、カスタマーサクセスの実現と密接に関係しています。「顧客に満足してもらえる応対ができているか」を突き詰めると、お客さまがトラブルを抱えて問い合わせてくる前に解決できるよう働きかけたり、そもそもお客さまが困り事を抱えないよう予防したりするでしょう。
それこそがカスタマーサクセスであり、応対品質の適正化です。カスタマーサポートがより能動的に顧客に働きかけるなら、応対品質の向上と適正化に取り組むことができ、カスタマーサクセスの実験が可能となります。
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応対品質の向上のためにできること4つ
二つ前の見出しで、クオリティマネジメントにおいては「応対品質の向上と適正化がポイント」だと言いました。では、応対品質の向上と適正化を図るために、具体的にどんなことができるでしょうか。具体案を4つ紹介します。
モニタリング
モニタリングには「リアルタイムのもの」と「録音や履歴を振り返るもの」と2種類の方法があります。
リアルタイムでモニタリングをする場合、オペレーターと顧客のやり取りを確認しながら、必要に応じてオペレーターへ指示を出すことが可能です。オペレーターを手助けできると同時に、クレーム対応へいち早く対応できたり、オペレーターをカスタマーハラスメントから守ったりできる強みがあります。とくに新人オペレーターの教育に向いている方法です。
録音データや履歴のモニタリングについては、まさに応対品質のマネジメントをするのに効果的な方法です。モニタリング作業を通して、お客さまが求めていた情報を正確にお伝えできているか、良い印象を持ってもらえているか、オペレーターがトークスクリプトを守れているかなどを確認できます。確認して気づいた内容については、必ずオペレーターへフィードバックするようにしましょう。良かった点や修正できる点を具体的に伝えるなら、各オペレーターが自分の強みと課題を認識することができ、各自の応対品質改善に努めることができます。
▶参考情報:SVからモニタリングしやすいと評価されているコンタクトセンターシステム「Bright Pattern」
ミステリーコール
クオリティマネジメントをQA(クオリティアシュアランス)やSVが行うセンターは少なくありません。ミステリーコールとは、QAやSVのようなコールセンター関係者あるいは外部の調査会社が、第三者を装って実際に応対を体験し評価するというものです。
ミステリーコールにより、よりリアルで顧客目線に近い評価をすることができます。
アンケート調査
アンケート調査は、サービスの印象や品質についてお客さまに直接尋ねる絶好の場です。多くの場合、カスタマーサービスの終了直後か後日に自動でアンケートを送付または架電しつつ回答を得ます。
経験や状況に基づいた「推察」の域を出ないモニタリングに対し、アンケート調査はお客さまからの生の声を聞けることが最大の強みです。顧客ニーズの変化をいち早くキャッチできるので、応対品質を適正化していく際に役立ちます。お客さまが次に困りそうなことを予測する際にも活用できるので、クオリティマネジメントを行いつつ、カスタマーサクセスの実現も可能になります。
KPIの設定、周知、見直し
応対品質は可視化しにくいとはいえ、数値的なデータがないと、感性のみで品質管理をする「感情的なコンタクトセンター」になってしまいます。そのため、適切なKPIの設定は重要です。応対品質の管理に有効なKPIをいくつか紹介します。
- 顧客満足度
- モニタリングスコア
- ありがとう率
- クレーム率
- NPS(ネットプロモータースコア)
- CES(カスタマーエフォートスコア)
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KPI設定の注意点
どのようなKPIを設定するとしても、注意するべき点があります。ひとつは、KPIの達成率や成果主義になってしまわないようにすることです。
もしもSVや管理職が数字主義あるいは成果主義になってしまうなら、センター全体も数字/成果主義の傾向に陥ってしまいます。すると、応対品質の向上に欠かせない「顧客へのホスピタリティ」をオペレーター間で醸成する余裕がなくなります。むしろオペレーターのストレスが増加してしまい、応対品質だけでなく運用品質を落とすリスクが発生します。
クオリティマネジメントのためにKPIを設定し、達成率などの数字的推移を見守るものの、それでセンター全体やオペレーター個人を評価していくようになると、数字重視の風潮が生まれてしまうかもしれません。KPIの取り扱いにはバランス感が求められます。
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注視するべき2つ目の点として、KPIも顧客ニーズの変化に合わせて柔軟に調整するようにしましょう。
「KPIをコロコロ変えるのはあまり良くないのではないか。」と思われるでしょうか。無意味にコロコロと変えるのは、かえってオペレーターのモチベーションを下げてしまう上、目標を正確に把握できなくなるので危険です。
しかし、市場や顧客ニーズに合っていないKPIを使い続けるなら、コンタクトセンターや企業が打ち出す施策が全て的を外れる恐れがあります。モニタリングやアンケート調査と並行して、定期的にKPIの内容を見直すようにしましょう。
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クオリティマネジメントの好例:株式会社ココナラ
ここまでで、クオリティマネジメントとして優先的に着手すると良いのが応対品質であることや、応対品質を向上させるメリットと具体策について紹介してきました。最後は、顧客応対におけるクオリティマネジメントで成功している企業の実例を紹介します。
「応対品質向上のためにやるべきことはわかっているけど、特にフィードバックの時間を取る余裕がない」と感じている方は、ぜひ参考にしてみてください。
ビジネスからプライベート利用まで、個人のスキルを気軽に売り買いできる日本最大級のスキルマーケット「ココナラ」を運営する株式会社ココナラの例です。
ココナラでは、「利用継続」をミッションに掲げつつ、「サポート対応満足度」を最重要KPIとして設定しています。
提供しているサービスの特性上、寄せられる問い合わせの4割がユーザー間トラブルにまつわるものです。そのため、いわゆる小売業とは少し異なり、カスタマーサポートは「アドバイザー」として介在しながらトラブルの抑制に努めています。カスタマーサクセス部カスタマーサポートグループgroup managerの駒井翔一氏は、「サポートメンバーには、トラブルごとの状況やユーザーの心情を見きわめて仲介したり、的確にアドバイスしたりするという高度な対応が求められている」と語っています。
オペレーターの高度な対応の下支えとなっている一つが、「顧客満足(不満足)評価コメントの全員共有」です。顧客対応の後に自動送信される顧客満足アンケートの評価結果をもとに、「どのような言葉が満足につながったのか」あるいは「追加でこんな案内をしたほうがいいね」といったフィードバックが行われています。
共有とフィードバックは、日頃からコミュニケーションで使用している「Slack」にて行われ、リアクション機能の活用により、情報だけでなく感情も共有できているようです。
「全体への共有とフィードバック」と聞くと、定期的に全員で集まる時間を作って、共有事項や今後の改善点をまとめて…と想像してしまいがちです。しかし、SVや各オペレーターもそれぞれが忙しいので、なかなかまとまった時間が取れないという課題はありませんか。ココナラのように、普段から使っているコミュニケーションツール上で簡易的かつスピードを重視して共有できるなら、もっと気楽にチャレンジできるかもしれません。
駒井氏は、全員共有の取り組みによって「グループ全体で業務状況や困りごとなどをオープンに情報共有する文化が根付いている」と語っています。ココナラのように、日頃からオペレーターたちのコミュニケーションが活発に行われていれば、的確なクオリティマネジメントをより迅速かつ円滑に行うことが可能です。
また、ココナラではトラブルを未然に防ぐ観点で、購入評価が低い出品者への個別アドバイスにも取り組んでいます。「マイナス体験の“芽”を摘む」ことがカスタマーサクセスに直結するとの考えです。
ココナラはさまざまな取り組みが評価された結果、2023年3月には「HDI-Japan」が主催するHDI各付けベンチマーク「問い合わせ窓口(メール)部門」において、最高評価の「三ツ星」を獲得しています。
BPO事業者が業界で勝ち抜くために必要なコールセンターシステムとは? - TPIJ by CBA |
最後に
現在のコンタクトセンターは、本当に目がまわるほどたくさんの課題や取り組むべき新たな分野を抱えています。その中でお客さまへのホスピタリティ醸成やサービスの平準化、人間味の強化をしていかなければいけません。
これらをお客さま視点で評価し、維持向上、適正化していくには、応対品質におけるクオリティマネジメントが必要不可欠です。
応対品質におけるクオリティマネジメントは、少なからず時間や人的リソースを必要としますが、カスタマーサクセスの効率的な実現へと直結します。声高に叫ばれるAIの活用についても、応対品質管理のための「余裕」を創出するサポーターとして活用していくなら、クオリティマネジメントを効率的に進めていけるでしょう。顧客ファーストの姿勢を忘れず、常に応対品質を柔軟にレベルアップさせていきたいものです。