コンタクトセンターを、一つの大きなオーケストラと考えてみたとします。
オペレーターは、楽器の代わりにヘッドセットを手に取り、お客さまは待望の観客として登場します。このオーケストラが調和のとれた美しいシンフォニーを奏でるか、それとも不協和音が混じるかは、センターの「パフォーマンス」によって決まります。
コールが迅速に対応され、オペレーターが問題を円滑に解決できるか、そして最も重要なのは、お客さまが私たちのサービスを再び利用したいと感じるかどうか。これらはすべて、応答時間、初回解決率、顧客満足度、オペレーターの効率、そして呼び出し量の管理などの指標によって測定されます。
コンタクトセンターのパフォーマンスを適切に管理することは、センター全体の効率とサービス品質の向上に直結します。この記事では、その重要性と最適化の方法について深く探ることにしましょう。
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コンタクトセンターのパフォーマンス管理とは
コンタクトセンターのパフォーマンス管理とは、読んで字のごとく、コンタクトセンター全体のパフォーマンスを監視し、測定し、改善していくことを指します。それには、メインとなるKPIやメトリクスを設定すること、データを収集して分析すること、オペレーターに的確なフィードバックや指導を行うこと、また顧客満足度(CSAT)と初回解決率(FCR)を向上させるために戦略を策定し、実施することが含まれます。たとえば、以下のような要素が重要になります。
- 目標の明確化:オペレーターが自らの役割と目的を理解し、その上で効果的に業務を遂行できるよう、明確な目標を設定し、責任を明確にします。
- 継続的な見守り:ダッシュボードレポートを活用して、各オペレーターの業績をリアルタイムで見守り、必要なサポートを提供します。
- 定期的な評価:設定されたKPIやメトリクスに基づき、オペレーターの業績を定期的に評価し、フィードバックを行います。
- 優れた業績の認識:優れた業績を上げているオペレーターを定期的に表彰し、そのモチベーションを維持・向上させます。
- ギャップの特定と対応:オペレーターの業績にギャップが見られる場合、その原因を特定し、適切なコーチングやサポートを提供します。
- 向上トレーニング:業績が低調なオペレーターに対しては、特別なトレーニングやサポートを提供し、業績を向上させる取り組みを行います。
パフォーマンス管理が重要な理由
コンタクトセンターのパフォーマンス管理が重要なのは、シンプルに、それが企業成長やビジネスサクセスにおいて中心的な役割を果たしているからです。
カスタマーサービスQAの専門家集団であるSQM社によると、対応後に実施される顧客アンケート調査を取り入れたパフォーマンス管理システムを採用している企業は、FCRとCSATで10%の改善を実現しています。
それだけでなく、大規模コンタクトセンターを擁する企業でさえ、こうした改善をわずか一ヶ月足らずで達成しているケースも見られるとのことです。
同社のベンチマークによれば、1%のFCR向上が年間で約28万6000ドルの運用コスト節約が期待できるという試算もあります。とくに注目すべきは、顧客アンケートの調査データを取り入れたパフォーマンス管理システムの採用です。パフォーマンス管理システムは、FCRとCSATの迅速な向上に効果的な方法の一つとして多くのセンターで採用されています。
■参考情報:「パフォーマンス管理がしやすい」とSVから評価されているコンタクトセンターシステム「Bright Pattern」
パフォーマンス管理がもたらすベネフィットを簡潔にまとめると、以下のようになります。
- FCRおよびCSATの向上
- 個々のオペレーターの生産性向上(例:平均対応時間、対応全般、応対コール数など)
- オペレーターが必要とするコーチング・トレーニングの洗い出し
- リードコンバージョン率と売上の改善
- 投資対効果の改善
したがって、コンタクトセンターのパフォーマンス管理は、企業の競争力を高めるための鍵となる要素です。では、どんなポイントに注目してパフォーマンス管理を実践できるか見ていきましょう。
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コンタクトセンターのパフォーマンス管理に必須なポイント10選
コンタクトセンターにおけるパフォーマンス管理の主な目的は、コストに配慮しつつ顧客サービスとオペレーターの生産性を最適化することです。そのために重要となるポイントを10個、見ていきたいと思います。
1. 目標設定
パフォーマンス管理を成功に導く鍵と言っても過言でないのが、この「明確で測定しやすい目標」の設定です。センターのミッションや、組織全体の目的とビジョンに合わせて設定する必要があります。平均対応時間、初回解決率、顧客満足度スコア、品質保証、販売目標などが目標として含められます。
目標の設定は、オペレーターが会社から何を期待されているのかはっきりと理解するために重要です。オペレーターが自らの役割と責任を明確に理解すれば、パフォーマンス改善と業務に対するモチベーションが大幅に向上します。
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2. KPIとメトリクスの設定
主なKPIとメトリクスを設定することで、センターのパフォーマンスを的確に把握して評価することにつながります。典型的なKPI・メトリクスとして、以下の要素が考えられます。
- 初回解決率:お客さまの問題や質問が最初の通話だけで解決される割合
- 顧客満足度:お客さまがサービスやサポートにどれだけ満足しているかを示す指標
- サービスレベル:所定の時間内に通話応答される割合
- ネットプロモータースコア:お客さまが他者に推薦する確立を示すスコア
- 顧客維持率:お客さまが継続してサービスを利用している割合
- 品質保証スコア:サービスの品質を評価するためのスコア
- 通話あたりのコスト:一つの通話を処理するための平均コスト
- 平均対応時間(AHT):オペレーターが通話を処理するのにかかる平均的な時間
- オペレーターの欠勤率:オペレーターが予定されている勤務時間に出勤しない割合
- オペレーターの離職率:オペレーターが辞める割合
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3. データ収集と分析
コンタクトセンターのパフォーマンスを最適化するためには、関連データを収集することがまず必要となります。通話録音、顧客アンケート、システムレポートを通じて得られるデータからは、オペレーターのパフォーマンス、お客さまの動き、そして運用にまつわるトレンドについて、有用なインサイトが得られます。
さらに、業界の標準、他社、そして最も重要な点として、世界クラスのコンタクトセンターとの比較において、FCRやCSAT、平均対応時間、エージェントの離職率、欠勤率などの指標やKPIをベンチマークすることが重要となってきます。なぜなら、お客さまが比較するのは、世界クラスのセンターやカスタマーサービスだからです。
4. モニタリングと評価
オペレーターのパフォーマンスを最大化するには、設定された指標やKPIを定期的にモニタリングすることが必要です。センター管理者やSVは、通話のモニタリング、品質保証の評価、顧客アンケート、パフォーマンスのレビューを通じて、オペレーターを評価することができます。
多くのコンタクトセンターでは、パフォーマンス管理システムを使用してモニタリングや評価を実施しています。オペレーターやSV、管理者は、ダッシュボードからリアルタイムで各オペレーターのパフォーマンスを確認できる必要があります。
■参考例:コンタクトセンターシステムのモニタリング画面
5. オペレーターパフォーマンスのランク付け
多くの場合、センター運用の年間コストにおいてオペレーターが占める割合は60%から75%となっています。さらに、目標FCRが未達になる原因として、オペレーターが挙げられます(40%)。
したがって、オペレーターが原因となる再架電の発生をわずかでも抑えることで、コスト面で大きなリターンが得られるだけでなく、顧客の他社への流出を防ぐことにつながります。
多くのコンタクトセンターでは、高いパフォーマンスを誇るオペレーターと低いパフォーマンスのオペレーター間で、FCRにおける相違点やそれがどんな影響をコストに与えるかを認識されていないのが現状です。
オペレーターのパフォーマンスはセンター運用のコストや顧客サービスの品質に直接的な影響を与えるため、オペレーターのパフォーマンスをしっかり把握して改善することが、組織全体のパフォーマンス向上に不可欠なのです。
■参考例:オペレーターの評価とサポートに必要なスーパーバイザー機能
6. ダッシュボード管理
ダッシュボードを導入することで、指標やKPIを通じたデータが可視化されるため、センター管理者やSV、そしてオペレーター自身もパフォーマンスをチェックできます。ダッシュボードを通じたデータの可視化により、パフォーマンス向上の施策を実施する時間を短縮できます。
またダッシュボードは、KPIの傾向やベンチマーク、問題のある領域を表示するように設計されています。これにより、顧客サービスの品質保証や他のKPIの強みと弱点を把握できます。サービスの回復や、オペレーターのコーチングのタイミングでアクションアラートを提供することも可能です。
■参考例:コンタクトセンターシステムのダッシュボード画面
7. フィードバックとコーチング
オペレーターを評価し、それに基づいて的確なアドバイスやトレーニングを与えることは、サービスの質を高めるために欠かせません。とくに、コンタクトセンターが初回解決率や顧客の満足度を向上させるためには、オペレーターのミスを減少させることが最も効果的な手段となります。実際、多くのセンターで発生する問題の40%は、オペレーターのミスが原因です。
8. トレーニング
オペレーターのスキルや知識を高めるためには、継続的なトレーニングが欠かせません。オペレーターに対するトレーニングには、コミュニケーションの方法や難しい顧客への対応なども含まれます。
実際、オペレーターの6人に1人以上が、トレーニングの改善を望んでいるという調査もあります。そして、しっかりとしたトレーニングが実施されるコンタクトセンターでは、オペレーターが継続的に働くという傾向があります。
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9. 認識とモチベーション改善
優れた業績を上げたオペレーターを表彰し、報酬を与えることで、やる気を引き出し、チームの士気を高めることができます。ボーナスやゲームのような報酬システムがあれば、オペレーターが的確に評価されていると感じる環境を構築することが可能です。
10. 継続的な改善
パフォーマンスやVOCに基づき、サービスやプロセスを見直すことは大切です。これには、ワークフローの改善や技術の最適化が含まれます。
Gartnerの調査によれば、顧客の意見を収集している95%の企業のうち、その意見を基に業務改善を実施するのは10%しかなく、実際にどのような対応をしたのかを顧客に伝えるのは5%だけとのことです。
お客さまがご意見をくださった場合、それに応える行動を起こす必要があります。つまり、意見を受け取ったら、それをもとにサービスを改善することが大切になります。VOCを大切にし、それをもとに改善へと向けて動くことで、より良いサービスの提供につながります。
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パフォーマンス管理で直面する7つの課題と解決策
コンタクトセンターのパフォーマンス管理は、顧客サービスの質や効率性を最大化するための不可欠な要素です。しかし、これを適切に実施するとなると、さまざまな課題が表面化してきます。とくに、技術の進化や顧客の期待の変化、業界の動向など、さまざまな要因が絡み合う中での管理は容易ではありません。以下では、コンタクトセンターが直面する課題7つと、それを乗り越えるための具体的な解決策について解説していきます。
1. パフォーマンス指標の選定
パフォーマンス管理成功の鍵は、正確な業績指標の選定にあります。しかし、どの指標が最も効果的なのかを判断して設定するのは難しい。
解決策:全体のビジネス戦略を再評価し、それに基づいて最も関連性の高い指標を選定する。
2. データの品質管理
パフォーマンス評価の正確さに直結するため、質の高いデータを収集したい。
解決策:高品質のデータ収集ツールを導入し、定期的なデータクリーニングを行うことで、データの一貫性と正確性を確保する。
3. リアルタイムの監視
障害や問題発生時に迅速な対応が取れるか否かは、顧客満足度の維持に密接に関連します。センターの状態をリアルタイムで監視できないと厳しい。
解決策:リアルタイムでの監視を可能にする先進的なモニタリングシステムを導入し、問題を即座に特定・対応する。
4. オペレーターからの反応
新しいシステムやツールの導入は、オペレーターの抵抗を引き起こす可能性があります。スムーズにシステムトランジションを完了したい。
解決策:オペレーターの意見を取り入れるワークショップを開催し、新しいシステムのメリットや目的を明確に伝える。コミュニケーションが大切。
5. 効果的なフィードバック
オペレーターには常にスキルアップに励んでほしい。
解決策:定期的なレビューセッションを設け、オペレーターの強みと弱みを明確に伝える。
6. 外部要因の影響
予期せぬ外部要因が影響を及ぼすことがある。
解決策:外部要因を定期的に分析し、それに対する適切な対策を練る。
7. 継続的な改善
変化するビジネスや市場にはしっかり対応しないといけない。
解決策:業界の最新トレンドを常に注目して、新しい技術や手法を取り入れることで、システムを最新の状態に保つ。
最後に
企業とお客さまをつなぐ顧客接点として、重要な役割を果たすコンタクトセンター。記事の冒頭でコンタクトセンターをオーケストラになぞらえてみましたが、レストランにも例えられるかもしれません。
つまり、ウェイターはレストランの顔として、お客さまとレストラン(企業)の間の直接的な接点となり、そしてその対応やサービスがレストランの評価やイメージに大きく影響します。
個人的に思い返してみても、お気に入りのレストランというのは、美味しい料理はもちろんなんですが、サービスを提供してくれるスタッフの質や人間性の高さといった要因も、そのレストランがお気に入りリスト入りするかどうかに深く関わっています。したがって、良いレストランの体験は、美味しい料理だけでなく、スタッフの質やサービスにも左右されます。
コンタクトセンターも同じで、センター全体の品質を維持・向上させるための戦略的な取り組みが求められます。この取り組みとは、適切な業績指標の選定、オペレーターのトレーニング、そして継続的な改善活動です。
また、季節やトレンドに応じてレストランがメニューを更新するように、コンタクトセンターも変わる顧客のニーズや外部の状況に柔軟に対応する必要があります。センターとしての全体的な品質を維持・向上させるため、正確な業績指標やKPIの選定・設定、オペレーターの積極的な参加と管理側からの的確なフィードバック、そして継続的な改善が欠かせません。一方で、外部要因や変化する顧客ニーズにも柔軟に対応する必要があります。
コンタクトセンターのパフォーマンス管理は、単なる業績評価のツールではありません。むしろ、顧客との関係を深化させ、企業の成長をサポートするための戦略的な取り組みです。この視点を持ち、日々の運用に取り組むことで、コンタクトセンターは顧客接点として真の価値を発揮することになるはずです。