「メタバースの成熟期」と言われる2030年まで残り6年半。メタバースが話題になってからのこの数年、確かにメタバースの普及率は高まっています。とくに、対面でのイベントや集まりが制限されたコロナ禍では、メタバースのプラットフォームが活用されました。その背景もあってか、2022年の12月時点でメタバースの認知率は83%を記録しています。
メタバースの発展は想像に難くありませんが、カスタマーサポート…とくにコールセンター業界にとってメタバースはどのように関係してくるのでしょうか。
今回は、近いうちに大きくなるメタバースの波に、コールセンター業界としてどのように乗っていくかを解説します。メタバース上でコールセンター業務を行う際に関係するバーチャルオペレーターのメリット・デメリットや、今後の展望についても紹介するので、ぜひ最後までご覧ください。
海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、17年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニューが解説します。
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メタバースの現状
まず、メタバースの現状について整理しましょう。メタバースが世界的に注目されていることや、今後のデジタルチャネルの一つになるであろうことはご存じの通りです。しかし、メタバースの市場規模予想を見てみると、メタバースに関するビジョンがよりスケールの大きな物になるかもしれません。
三菱総合研究所が発表したリポートによればメタバースの日本国内市場は2025年には4兆円程度になり、2030年には約24兆円にまでなるとされています。
また、総務省情報通信白書で世界的な市場を見ると、同じ2030年には78兆8,705億円まで拡大すると予想されています。
この6年半での急激な市場拡大が国内外問わず見込まれていることは明らかです。
国内におけるメタバースの活用事例
さまざまな業界がメタバースを積極的に導入・利用し始めています。日本国内でメタバースがすでに活用されている例、これから活用される例についていくつか紹介します。コミュニティ、アパレル、観光業、教育、自治体といった分野での活用例です。
高齢者向け交流サービス
熊本県苓北町がparalreal株式会社と連携し、メタバースを活用した高齢者向け交流サービスの実証をすると発表。高齢者の閉じこもりによる心身の健康不安の解消を目的としており、「外に出て人と会話しようと思う前向きな気持ちの醸成」に繋げていく企画。
メタバースファッションウィーク
2022年の3月に1回目のメタバースファッションウィークを行い、今年の3月に2回目を開催したイベント。1回目2回目共に、DOLCE&GABBANAやCOACHといったラグジュアリーブランドを始め、adidasやTOMMY HILFIGERといった有名ブランドが参加している。デジタルファッションショーならではの演出や、グローバルな参加者との自由なコミュニケーションが特徴。
街なかメタベース(山形県)
山形県のDX化推進や、デジタル技術を活かした地方創生の一環として、「街なかメタベース」を構築。「街なかメタベース」(山形グランドホテル内)の専用ヘッドセットから、山形の観光地や特産物を360°動画やパネルで視聴することができる。
参考情報:https://www.yamagata-np.jp/dnews/news/?id=kj_2023030100023
NAKED GARDEN -ONE KYOTO-
2022年9月から12月にかけて、「NAKED GARDEN -ONE KYOTO-」という次世代型街歩きプロジェクトが開催。京都をひとつの庭に見立て、市・城・寺・神社・展望台・大学といった様々なジャンルの垣根を越えて、京都の歴史的建造物を舞台としたバーチャル体験で、京都の文化をアートやエンタメを含めて世界へ発信した。全イベントの動員数は約30万人、京都エリアには約50億円の経済効果も発揮してきている。
参考情報:https://naked.co.jp/works/18718/
DOOR Academia EXPO
2023年の3月に行われた教育メタバースイベント。有名大学を含む14大学が参加し、高校生は各大学の担当者と会話・相談、主催の明光義塾担当者への進路相談、著名人によるトークイベントや職業体験ブースといったコンテンツを体験できる。
参考情報:https://door.ntt/web/academiaexpo2023_spr/index.html
サークル新歓オリエンテーション
東京大学の東京大学バーチャルリアリティ教育研究センターは、活動の一環として2022年度のサークルの新歓オリエンテーションをメタバース上で実施した。
参考情報:https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/articles/z0114_00004.html
鳥取県「メタバース課」
鳥取県は、県庁内に架空の組織である「メタバース課」を設立し、日本初となる自治体オリジナルAIアバターを職員として採用した。「メタバース課」は、メタバース空間内での情報発信を通じて「メタバース関係人口」を創出することを主な目的としている。また、AIアバターの採用により、24時間365日、メタバース空間を通じて世界中から鳥取県に興味を持つ人と、コミュニケーションをとっていきたいとしている。
参考情報:https://www.pref.tottori.lg.jp/309184.htm
地域合同婚活イベント(千葉県)
千葉県かずさ地区(木更津・君津・富津・袖ケ浦)へ在住、在勤の人や、移住を検討している人を対象に、メタバース上で開催する婚活イベント。アバターを通して1対1の会話や自己PRを行い、マッチング後はメタバース上か合意の元でのリアルデートへと発展できる。かずさ4市の活性化および少子化対策を目的とした企画。
メタバース内のコールセンターで働くオペレーターの需要
さまざまな業界のメタバース活用例を紹介しましたが、本題であるコールセンター業界はメタバースの波にどのように乗れば良いでしょうか。「メタバースが主流になってくると、コールセンターはどうなるのか」「オペレーターたちは不要になるのか」と心配されるかもしれません。単刀直入に結論から言えば、コールセンターもオペレーターも引き続き必要です。
とはいえ、コールセンターの規模や働き方、拠点が変わっていく可能性は非常に高いでしょう。というのも、コールセンター業界がメタバースの波に乗る具体的な策としては、現在コールセンターが担っているカスタマーサポートをメタバース上で展開したり、コールセンターそのものをメタバース上に構築したりする(=バーチャルコールセンター)ことだからです。
カスタマーサポートをメタバース上で行うとなると、最近の人材不足や自動化を背景に、「バーチャルオペレーター」の需要が高まるでしょう。
現在稼働しているバーチャルオペレーターで有名なのは、JR山手線や官公庁施設などに導入されている「AIさくらさん」です。
これまではAIを活用した無人のものも多かったようですが、最近では遠隔で人間のオペレーターがアバターを操作するという例も増えています。このようなバーチャルオペレーターを活用してカスタマーサポート業をするとなると、オンラインサポートとコールセンターでのサポートのスキマを埋めることができます。
音声でのサポートに限られがちなコールセンターと、顔を写せるとはいえ写したくない顧客またはオペレーターもいるオンラインサポート。この埋められそうで埋められない絶妙なスキマは、メタバースを活用したバーチャルオペレーターによるカスタマーサポートで埋めることが可能です。
ここで、バーチャルオペレーターのメリットとデメリットについて簡単に紹介します。
バーチャルオペレーターのメリット5つ
ブランドイメージやサポートの質がぶれない
コールセンターの場合、マニュアルやFAQの整備によってサポート内容の品質を統一することは可能です。「AさんもBさんも良いオペレーターだけど、よりブランドイメージに近いのはAさん」ということはありませんか。それは声や話し方といった「オペレータースキル」とは別のものが要因になっているかもしれません。
バーチャルオペレーターの場合は、声や話し方を統一することが可能です。そのため、企業にとって理想とする声や話し方、雰囲気を設定することができます。もちろん、従来通りオペレーター自身の声でサポートをすることも可能です。
当たり前ですが、顧客とオペレーターのそれぞれに見えている姿はどちらもアバターなので、素顔を見られたくない/出したくないといった顧客とオペレーターどちらのニーズにも応えられます。
いずれにせよ、音声も見た目も企業のブランドイメージに合わせてアバターを作れることは、メタバースにおけるカスタマーサポートの最大の強みと言えるでしょう。
労働場所を選ばない
リモートワークのメリットと通ずるところがありますが、メタバース上でカスタマーサポートを行う場合、従来のリモートワーク以上にオペレーターの労働場所が障壁とはならなくなります。根本的に異空間へと移動してからの業務となるからです。メタバースでのバーチャルコールセンターが当たり前になれば、現在の在宅コールセンターやハイブリッドコールセンターの方が「当たり前」になるかもしれません。
どこからでもオペレーター業務を行えるとなれば、妊娠・出産、育児、介護といったライフステージによる変化を経験する女性たちもより働きやすくなります。ワーク・ライフ・バランスを大事にする人材にとっても願ったり叶ったりのパラダイムシフトです。結果的に人材不足へのアプローチにも繋がることが期待できます。
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AIの活用で24時間365日のサポート体制が作れる
バーチャルオペレーターは、有人でも無人でもアバターを動かすことができます。通常、コールセンターを24時間365日稼働させ続けるためには、オペレーターの人数が必要になりますし、オペレーターからのシフト協力が欠かせません。
しかし、バーチャルオペレーターであれば、普段は有人でのアバター遠隔操作、夜中や休日にはAIでのアバター操作といった切り替えが可能です。オペレーターたちに負荷をかけることなく無休のコールセンターを実現できます。
自社キャラクターや人気キャラクターとのコラボによる話題性、顧客ロイヤルティの獲得が可能
バーチャルオペレーターはアバターなので、見た目やキャラクターを作り込むことが可能です。ですから、各企業がシンボルとなるような自社キャラクターを作ったり、人気キャラクターとコラボしたりすることができます。自社キャラクターが人気を獲得できれば、そのキャラクター自身も一種のブランドとなりますし、キャラクターへのファンがつき、コミュニティが形成される可能性があります。
人気キャラクターとのコラボが実現すれば、そのキャラクターのファン層に自社を認知してもらうことも望めます。どのような自社キャラクターにして欲しいか、どんなキャラとコラボして欲しいかといったアバター作成のためのアイディアを顧客に求めてみるのも良いでしょう。
企業と顧客がコミュニケーションを取る機会となり、顧客の意見が企業に実際に届くという証明にもなります。自分たちの意見が反映されていくのを見ると、顧客ロイヤルティも獲得できます。「バーチャルオペレーターがキャラクター」という特異な性質を持つからこそ、話題性の獲得、ファンの獲得、ファンによるコミュニティの作成・拡大が見込めるのです。
人間以外のオペレーターも選択可能
バーチャルオペレーターであればこそ、「もしもオペレーターが犬や猫だったら…」が実現できます。もちろん、リアルな犬や猫だけでなく、ご当地キャラやデフォルメされたオリジナルのキャラクターなどにするのも良いでしょう。
人間ではないものをオペレーターにするのは、コールセンター業務で付きものな「カスタマーハラスメント対策」にも効果が期待できます。実際、アメリカのある企業では、アバターを動物に変えただけでカスタマーサポートへの誹謗中傷の数が大幅に減少したとの例があります。
バーチャルオペレーターのデメリット2つ
競合他社との差別化が難しくなる
アバターによって企業ごとの個性を表現できるとはいえ、それはあくまでもメタバースでのアバターメイキングにかなりの自由度が出てきてから有効になるメリットです。最初のうちは、どの企業も既存のパターン化されたアバターを活用していくことになるでしょう。
そうなると、競合他社との差別化がかえって図りにくくなり、「従来のコールセンターと同じくサポートの質勝負をしているほうが良い」とすら思えるかもしれません。しかし、メタバースに早期対応することは決して無駄ではありません。
「メタバースにおける価値創造(マッキンゼー・アンド・カンパニー)」を見ると、「アーリーアダプターの89%が5%を超えるプラスの営業利益率を報告している一方、メタバースに関与するかどうかをまだ検討中の企業の21%はマイナスの営業利益を報告している。」とあります。他社との差別化が難しくなるというリスクは、早くにメタバースへ対応しようとする企業全てが平等に負うリスクです。そのリスクを回避するためにメタバースへの対応を遅らせる方が、かえって営業利益をマイナスするリスクがあります。
感情的なサポートが難しい
「感情労働」とも言われるオペレーター業務は、バーチャルオペレーターでは難しいと思われるかもしれません。バーチャルコールセンターではなく、コールセンターが担っているカスタマーサポートをメタバース上で提供しようとする場合はとくにそうでしょう。お客さまもオペレーターと同じようにアバターだからです。
お客さまの感情を、アバター越しに正確かつ素早く感知することができない可能性があります。とはいえ、このリスクも技術の発展と共に解消されていくはずです。現状ではまだ不完全かもしれませんが、現時点でもすでにアバターの表情精度をあげる技術は国内に出てきています。
参考情報:https://www.kddi-research.jp/newsrelease/2022/022801.html
メタバースにおけるコールセンターの実例と展望
ここまでで、メタバースを取り巻く現状と、コールセンター業界がメタバースに参入した際にニーズが高い「バーチャルオペレーター」に関するメリットとデメリットを解説してきました。最後に、バーチャルコールセンターとしての実証実験に入っている事例を一つ紹介します。
トランスコスモス株式会社とNTTコミュニケーションズ株式会社(NTT Com)は、2022年8月からコールセンターをメタバースの仮想空間に構築し、「バーチャルコンタクトセンター」として運営する実証実験を行っています。同実証の中で、メタバースでのコミュニケーションが、リモートワークの孤立感の解消につながるか、メタバース上での情報共有やエスカレーションによって、管理人員を減らせるかを検証していくようです。さらに、同センターのオペレーションルールの最適な設計や、オペレーターの利用端末や環境の最適な構成を検証していくともしています。
参考情報:https://it.impress.co.jp/articles/-/23720
コールセンタージャパン2023年3月号 38ページには、トランスコスモス株式会社の光田刃氏のインタビュー記事が掲載されており、紙面では「メタバースはひとつのチャネルと捉えています。(中略)分散した拠点のマネジメントをメタバース上で行うことも考えています」と語っています。
メタバースは浸透する途上ですが、先進的な企業はメタバースの各プラットフォーム上に以下のような役割を付与しています。
- オフィス
- イベント・展示会場
- コミュニティの場(ファンミーティング、企業研修など)
- ショップ
- 観光地
メタバースでは各分野で、データによる意識や行動の見える化が可能です。
企業のリモートワークの課題としては「見えない従業員のマネジメント」が挙げられがちですが、メタバースによるバーチャルオフィスを利用すれば、声、テキスト、動き方、表情といったデータを元に、従業員の働き方や組織との関わり方なども把握、分析していけます。メタバースの本格活用によって、私たちの働き方にも大きな変化が求められるでしょう。
現在では企業内の業務やBtoCの分野で使われやすいメタバースですが、徐々にBtoBでのニーズも生まれているといいます。具体的には、ビジネスイベントの開催や、販売デモンストレーションといった領域でのサポートです。BtoB特化型のメタバースプラットフォームもすでに存在・活用されています。
参考情報:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000131.000047162.html
2022年には、メタバース上で開催されたBtoBイベントも多くあります。今後もますますBtoBでのイベントが増えていくはずです。
メタバースを活用したBtoBイベントの例
・農フェス!クボタバーチャル展示会:https://agriculture.kubota.co.jp/special/virtual-exhibition-2022/
・設計製造・AI・IoT・DX バーチャルオンライン展示会 2022 秋:https://jpn-expo.com/
とはいえ、メタバースのビジネス活用に興味を持っている国内企業はまだまだ少ないのが現状です。
しかし、逆に言えば競合他社との差別化を図る絶好のチャンスであるとも言えます。PwCコンサルティング合同会社が2022年3月に日本企業を対象として実施した調査によると、メタバースのビジネス活用を検討しているのはわずか10%です。
しかし、ビジネス活用を検討している企業のうち半数は、1年以内での本格導入を検討しており、内11%はすでに具体的な動きを取り始めています。メタバース活用のパイオニアを目指すのであれば、のんびりはしていられないということです。
メタバースが浸透し主流になればなるほど、生身の人間によるサポートへの期待値や価値、ニーズのコア度は上がることが予想されます。バーチャルとリアルの境目が曖昧になる分だけ、全員が認識できる「紛れもないリアル」に付加価値がついていくのです。
ですから、拠点がメタバースへと移行し「バーチャルコールセンター」になったり、メタバース内でのカスタマーサポートと並行運用してコールセンターの規模を縮小したりといった変化は求められるかもしれませんが、コールセンターが完全にいらなくなることはないでしょう。
これまで通りのカスタマーサポートを行うコールセンターとオペレーターには、アバターには求めきれない「これまで以上にハートフルでパーソナライズされた接客」が期待されていきます。
その中でもオペレーター個人のスキルに依存しすぎないようにするには、今まさに多くのコールセンターが取り組んでいるような、「テクノロジーの力でオペレーターをバランス良く支援する仕組み」が必須になります。
参考情報:オペレーターの支援に向いているコンタクトセンターシステム「BrightPattern」
【厳選比較】AVAYA・Genesysだけじゃない!?コンタクトセンターシステム6選 - オムニチャネル・クラウド型コンタクトセンターシステムBright Pattern |
メタバースが今後どの分野でどれだけ活用されるとしても、コールセンターが現在持っていたり今取り組んでいたりする技術や人材は、引き続き…そして今以上に重要になるはずです。
最後に
メタバースは「明日にでもメインのデジタルチャネルにはなる」ということはなくとも、近いうちによく使われるデジタルチャネルの一つにはなると予想されています。いざそうなってからだと、バーチャルコールセンター運用のための準備にリソースを割かれて、サポートそのものの分野が弱くなってしまうかもしれません。
それを予防するためにも、今のうちからメタバース上でのバーチャルコールセンター構築を見据えたコンタクトセンターシステムの選択、人材採用・活用、ナレッジ共有といった具体的な行動を取っていくことが大切です。
今のうちからバーチャルコールセンターのための地固めができていれば、コールセンターがもつノウハウや人材は、即戦力としてそのまま活かすことができ、今までの蓄積が無駄になるどころか、強力なアドバンテージになります。