「アウトソーシング」や「BPO」といったキーワードは、コールセンターの運営に関してよく見聞きします。同じくコールセンターの運営形態「インハウス」についてはご存じでしょうか。
この記事では、アウトソーシングが注目されてきた裏で、その価値を見直されている「インハウス」について説明します。
インハウスとは何か、インハウスとアウトソーシングそれぞれのメリット・デメリット、運営形態を選ぶ判断基準について解説していきます。最後には、「インソーシング」という新たな選択肢についても紹介しますのでご覧ください。
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コールセンターにおけるインハウスとは
そもそも「インハウス」とは何でしょうか。最近はとくに「アウトソース/アウトソーシング」が主流だったので、「インハウス」という言葉にあまり馴染みがないかもしれません。
「インハウス」とは、業務が企業内・自社内で内製化された状態のことです。
コールセンターの運営形態には、大きく分けてインハウスとアウトソーシングの2つがあります。「コールセンター白書2022」に基づいて、インハウスとアウトソーシングとの違いを簡単にまとめましょう。
アウトソーシング型:指揮・命令・人事を外部の事業者に委託する形態
→設備などのインフラは自社。運営のみ委託するか設備も含めてすべて委託するか(=BPO)は企業によって異なる
インハウス型:指揮・命令・人事などのマネジメントを自社で行う形態
→人材を自社契約(有期雇用/無期雇用)とするか、派遣社員に任せるかは企業によって異なる
この数年は圧倒的にアウトソーシングが目立っていました。では、今も変わらずアウトソーシングが主流でしょうか。
「コールセンター白書2022」56ページを見ると、「コールセンターの雇用形態」に関する最新情報を見ることができます。
データによれば、インフラと人材の全てを自社で調達する「完全インハウス」が42%を占めています。昨年度の同じ調査では38%でした。昨年から今年にかけて半数に迫る勢いで完全インハウスの比率が高まってきています。
BPOを含めた「アウトソーシング至上」の潮流の裏で、コールセンター運営のトレンドは明らかにインハウスへと移行しています。
では、なぜ今インハウスが注目されているのでしょうか。インハウスとアウトソーシングのそれぞれのメリット・デメリットについて解説します。
インハウス・コールセンターのメリット・デメリット
まずはインハウスのメリットを4つ、デメリットを2つ紹介します。
メリット1. ナレッジの蓄積・共有がしやすい
インハウス最大のメリットと言っても過言ではない要素です。ナレッジやノウハウといった財産がすべて自社内でスムーズに共有できます。アウトソーシングだと、ナレッジやノウハウが委託先の企業に蓄積されていくので、自社に蓄積・共有・活用していくことが困難です。
ナレッジが自社内で正確かつ円滑に蓄積・共有できていると、適切なチームや人材へのエスカレーションやトラブル対応へ迅速に対応できます。コールセンターの課題となりがちな「属人化リスク」にもアプローチが可能です。
メリット2. サービス、製品、業務の改善がしやすい
コールセンターをインハウスで運営していると、サービスや商品を熟知しているオペレーターが直にVOCを聞くことになります。そのため、より顧客のニーズに合ったサービス、製品への改善を図りやすくなり、業務の効率化や改善にも活かしていけます。
また、インハウスでこそオペレーターを自社で教育・サポートできるので、企業全体でサービスの品質をコントロールしていけるのも強みです。アウトソーシングでの運営と比べると、サービス品質の維持向上が効率的かつ容易になります。
メリット3. 問い合わせに柔軟かつスピーディーに対応できる
カスタマーサポートを実施するコールセンターでは、商品やサービスに関する専門的な知識が必要な問い合わせに遭遇します。インハウスのコールセンターであれば、アウトソーシングで起こりがちな「委託元へのエスカレーション」という工数が発生しません。
最初から商品やサービスについて知識豊富な自社オペレーターが対応しているので、お客さまが求める情報やサポートを的確かつ迅速に提供可能です。
また、上長に確認が必要となるような比較的難易度の高い対応にも柔軟に応えていけます。その場ですぐに適切なスタッフへ確認し、直接指示をあおげるからです。柔軟かつ迅速な電話対応は、顧客満足度の向上や信頼感の維持向上に直結します。
メリット4. コールセンター管理・運営に透明性がある
アウトソーシングには、「サービス品質などの細かい点が委託先でどのように管理されているのかわからない」「不明な点が多いので、具体的な提案依頼書を提示できない」という課題があります。
インハウスであれば、管理・運営に関するすべてが自社内で行われているので、高い透明性が期待できます。管理・運営が透明であることは、サービス品質向上の必要性を見きわめたり、より効率化できる業務を見つけたり、KPIの指標を再検討したりする際に効果的です。
デメリット1. コストと時間がかかる
コールセンターをインハウスで運営しようとすると、コストと時間がかかるとされています。アウトソーシングに比べると、具体的に以下のような「コスト」と「時間」が必要になります。
【コスト】
- 電話設備への投資
- システムの購入・維持費
- オペレーターの確保・教育費
- センター所在地の家賃
【時間】
- コールセンターの拠点選び
- 職場環境/周辺機器の準備
- オペレーターの採用や教育
とはいえ、これらの「コスト」と「時間」は、クラウド型コールセンターシステムの選択によってカットすることが可能です。
クラウド型コールセンターシステムを利用すれば、電話設備やセンター所在地の家賃といったランニングコストを削減していくことができます。「導入時間の短さ」や「コストパフォーマンスの高さ」が優れているシステムを選ぶことがポイントです。
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デメリット2. 繁忙期・閑散期の人材コントロールが難しい
アウトソーシングの運営であれば、繁忙期・閑散期に合わせて人材をコントロールできます。一方でインハウスの場合、繁忙期と閑散期でオペレーターの稼働状況を大きく調整していくことは困難です。
繁忙期に合わせてオペレーターを雇用すると、閑散期には余剰人員になりやすく無駄が発生しやすくなりますし、オペレーターのモチベーション低下のリスクが生じます。閑散期に合わせて常に最低限の雇用で抑えていると、繁忙期に十分な対応ができなくなり、顧客満足度の低下やオペレーターへの過剰な負荷による離職を引きおこしかねません。
人材コントロールがしやすいのは、座席数の増減がしやすいクラウド型コールセンターシステムです。
▶参考情報:拡張性がしやすいクラウド型コンタクトセンターシステム「Bright Pattern」
アウトソーシング・コールセンターのメリット・デメリット
続いてアウトソーシングのメリットとデメリットを3つずつ紹介します。
メリット1. 低コストで導入できる
インハウスに比べて設備投資や人件費などを大幅に削減できるので、全体的に低コストにて導入可能です。ランニングコストも抑えられるので、低コストで導入・継続的に運営したい場合はアウトソーシングの方が強いと言えます。
メリット2. オペレーター経験者に業務を任せられる
アウトソーシングの場合、オペレーターの人材教育をする必要がないので、導入当初から電話対応に慣れているオペレーターに業務を任せられます。スタート時点から丁寧でスムーズな対応が期待できるということです。
メリット3. BCP対策になる
コールセンターのアウトソーシングは、BCP(Business Continuity Planning)対策に役立ちます。
BCP(Business Continuity Planning)とは:
テロや災害、システム障害といった緊急事態において、企業や組織が事業を継続するための計画のこと。日本では2011年の東日本大震災をきっかけに、多くの企業でBCP対策が導入されている。
コールセンター業務をアウトソースすると、自社とは別の場所にて運営・管理されることになります。そのため、自社が何かしらのダメージ(災害やシステムトラブルなど)を受けてもコールセンター機能を維持することが可能です。リスクヘッジとして効果的と言えます。
デメリット1. 柔軟な対応力、スピード性、連携力に欠ける
とくにイレギュラーな事態やトラブル・クレームが起きた際に、スピーディーな対応や連携、柔軟な対応が難しくなります。委託元の企業へ対応を確認したり、指示を仰いだりしなければいけないからです。インハウスよりも個数が増え、エスカレーションに大きなタイムラグが発生します。
インハウスであれば可能な「融通を利かせた対応」も見込めません。アウトソーサーの側で勝手なサービス提供はできないからです。
柔軟さやスピード性、連携力が落ちると、お客さま対応が遅くなったり情報が二転三転したりする恐れがあります。結果的に企業への不信感が募り、顧客満足度やロイヤルティ低下を引き起こすリスクが高まります。
デメリット2. 情報漏洩のリスクがある
アウトソーシングする時点で、会社や顧客の情報を自社内でクローズできなくなります。外部から情報がもれたり悪用されたりするリスクを0にすることは不可能です。
アウトソーサーである企業は、当然ながら高い情報セキュリティを整えています。とはいえ、預ける情報に関するセキュリティ対策は、委託先に完全に一任するしかないので、すべてのリスクを完全に払拭することはできません。
デメリット3. ナレッジの断絶が生じる可能性がある
アウトソーシング先の会社が倒産、サービス撤退などをした場合、ナレッジを適切に引き継げない可能性があります。アウトソーサー側に蓄積されていた自社に関するナレッジが完全に断絶されるリスクです。
このリスクに関しては、アウトソーシングの契約締結時に、ナレッジ引き継ぎに関する流れを決めておく方が安心です。
「インソーシング」という選択肢
ここまでで紹介してきたとおり、インハウスにもアウトソーシングにもそれぞれ捨てがたいメリットがあり、無視できないデメリットがあります。「結局どちらが自社に向いているのか判断しにくい」と思われますか。
インハウス向きかアウトソーシング向きかの一判断基準を3つ紹介します。
- 社内に独自のナレッジやノウハウを蓄積していきたいかどうか
- とりわけ機密性の高い情報を取り扱っているかどうか
- 年間で繁忙期と閑散期の差が激しいかどうか
上の3つはあくまでも判断基準の一つです。他にもコスト面や利便性、コールセンターシステムと運営形態の親和性といった要素も考慮に入れるべきでしょう。
最後にインハウスとアウトソーシングのいいとこ取りができる選択肢も解説します。「インソーシング」です。インソーシングは、インハウスとアウトソースを組み合わせた「ハイブリッド型」のことを指します。
たとえば、以下のようにインハウスとアウトソーシングを使い分けることができます。
- コールセンター自体は自社内に設置して、オペレーターの派遣やセンターの運営などは委託する
- 平日の営業時間帯はインハウス、土日祝日のみアウトソース
- サービスの一次対応はアウトソース、二次対応はインハウス
コールセンターの運営形態の一つとして、「インソーシング」を検討してみるのも良いかもしれません。
最後に
これまでは「コールセンター運営といえばアウトソーシング」という流れが強くありました。しかし、アウトソーシングがトレンドだった時期はすでに過ぎています。コールセンターに求められる要素や、情報セキュリティに伴うリスクと技術の変化、ぶつかる課題などによってインハウスの価値が見直されてきているのです。
とはいえ、インハウスとアウトソーシングのそれぞれにメリットがあり、企業による向き不向きもあります。インソーシングという新たな選択肢も出てきました。決してトレンドにとらわれることなく、あくまでも自社にあった運営方法を選択してください。