これまでBPOはクライアント企業のノンコア業務を取り扱ってきました。今は次世代のBPOと呼ばれるBPaaSが注目されています。実際に、トランスコスモス株式会社、日本アイ・ビー・エムなどBPO各社がBPaaSに取り組んでいます。
BPaaSとは、Business Process as a Serviceを略したもので、人間による労働力とSaaSを組み合わせた次世代BPOともいえるサービスです。
現在、BPaaSは経理や総務などの事務業務の分野で提供されていますが、これからはコールセンター業務でも提供されていくでしょう。今回はBPO各社がBPaaSに今取り組むべき理由と、BPaaSがコールセンターに与える影響について解説していきます。
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BPaaSとは
BPaaS(Business Process as a Service)とは、人間による労働力とクラウド上の最先端ITシステムを組み合わせたサービスを提供することです。BPOが提供する最先端ITシステムには、以下のものが含まれます。
- AI
- RPA
- クラウドストレージ
- 仮想マシン
- オンラインアプリケーション
- データベースサービス
- セキュリティサービス
SaaSとして提供される上記のシステムを、労働力と共に企業へ提供していきます。
BPaaS、BPO、SaaSの違い
BPaaSの説明で必ず出てくる用語は「BPO」「SaaS」です。それぞれの用語にはどのような違いがあるのか整理しておきましょう。
BPOとは、クライアント企業にノンコア業務を行う労働力を提供します。ノンコア業務には以下の内容が含まれます。
- カスタマーサポート
- バックオフィス
- 広報・マーケティング
- 人材育成・採用
次にSaaSとは、上記のノンコア業務を行うためのクラウド上にあるシステムのことです。
そして、BPaaSとは上記の二つを組み合わせたものです。労働力とクラウドシステムがセットで提供されるため、企業はクラウド上で委託する業務と、委託しない業務を細かく決めていけるのです。
これまでBPOはクライアント企業の業務プロセスをそのまま請け負って、人件費が安い地域で行っていました。そして業務を行いつつ、徐々に業務プロセスを標準化していき、効率化していくという手法でした。
しかしBPaaSでは、労働力とシステムを一括で引き受けられるので、業務のオフショア化と業務プロセスの標準化を同時に行えるようになります。BPaaSは業務の最適化のスピードが一気に加速する手法なのです。
これまでBPOは人手不足やコスト削減のために守りの施策として利用されてきました。しかしBPaaSは企業を強化するための攻めの施策として注目されています。
BPaaSに今取り組むべき理由
2021年09月23日に発表されたKenneth Research社による「BPaaS(サービスとしてのビジネスプロセス)市場:世界的な需要の分析及び機会展望2030年」によると、BPaaSの市場の拡大について「2022年に769億ドルの市場価値から2030年末には1389億ドルに達するだろう」と予測されています。
コールセンタージャパン2023年2月号にもBPaaSについてのコメントが掲載されていました。
デロイト トーマツ ミック経済研究所の竹田啓一氏は、「現在、BPO市場では、コールセンター以外の事務系業務に対し、システムとオペレーションをセットで提供するBPaaSというサービス形態が注目されている。新たなベンダーとして、SI企業やコンサルティング会社などが参入しており、いずれコールセンター領域にも進出してくる可能性がある。テレマ各社は、いまから何らかの対策を講じておく必要がある」と説明した。
コールセンタージャパン2023年2月号
バックオフィスなどの分野でBPaaSの手法が評価されれば、コールセンターやカスタマーサービスの分野に進出してくることは十分考えられるでしょう。上記のコメントにあるように、テレマ各社、またはコールセンターBPOは今から何らかの対策を講じておかなければなりません。
事実、BPaaSは成長が期待できる市場ということで、大手SI企業、コンサルティング会社、テレマーケティング会社、人材派遣会社が続々と参入してきています。
カスタマーサービスにおけるBPaaSのメリット
BPaaSがカスタマーサービスにもたらすメリットは5つあります。
- コスト削減
- BPOが培った知見の提供
- 高度な技術
- 拡張性
- データ・ナレッジの蓄積
それぞれのメリットについて解説していきます。ここで解説するメリットはBPaaSを利用するクライアント企業が得られるものです。
企業側のメリットを知ることで、BPOがこれからBPaaSによってどのようなサービスを提供できるか、自社の価値をどうカスタマーサービス業界に還元していけるか考察する参考にしてください。
1. コスト削減
企業はBPaaSを利用することで、自社で必要とするコールセンター設備やオペレーターを管理する費用を削減できます。
クラウドサービスと労働力をセットで委託するため、繁忙期は委託する業務の量や分野を増やしたり、閑散期は減らしたりと調整することが可能です。
さらにBPaaSは人間の労働力以外にも、AIやRPAを活用します。そのため人件費が安くなるため、委託コストを抑えられます。
業務プロセスが標準化されているクラウドシステムを使用するので、コスト管理がしやすくなります。要件定義、マニュアル制作、設備管理費などがすべて込みの価格で委託できるので予算管理が簡単です。
2. BPOが培った知見の提供
BPaaSではクラウドサービスの提供だけを受けるわけではありません。BPOの労働力も提供されます。
つまり「クラウドサービスと労働力を使いながら業務を遂行する」という従来のBPOが培ってきた知見、業務プロセスを効率的に実施するノウハウを同時に利用できるのです。
コールセンターBPOがこれまで培ってきたカスタマーサービスにおける知見を得られるメリットがあります。
BPaaSを利用する企業は、新しいクラウドシステムの導入・運用に四苦八苦することなく、いきなり最適なオペレーションを利用できるようになるのです。
3. 高度な技術
BPaaSでは、高度な技術や最新のプラットフォームを利用できます。企業単体では自社で新規技術を開発することが難しくても、BPaaSを利用すればすぐに最新技術をカスタマーサービスに導入できます。
AR遠隔サポート、AIチャットボット、ボイスボットなどをすぐに運用できるのです。
クラウドベースのシステムですので、セキュリティも最新の状態に自動更新されます。安心して高度な技術を活用していけます。
4. 拡張性
BPaaSは、ビジネスの成長や変化に対応する拡張性が高いことが特徴です。企業の成長に合わせてコールセンターの席数を自在に増やしていけます。
顧客の多様化に合わせて、問い合わせチャネルの種類を増やすことが可能です。
5. データ・ナレッジの蓄積
「BPOに業務を委託してしまうと、データやナレッジが自社に蓄積されない」と心配する企業がいます。カスタマーサービスのデータやナレッジは企業にとって貴重です。情報が蓄積されるからこそ、プロダクトの改善、新規プロダクトの開発が進むことがあるからです。
もちろん従来のBPOも定期的にデータの提供はしてくれたことでしょう。しかし業務過程のデータや、業務をこなすことによって身に着けられる暗黙知などのナレッジは提供されません。
一方、BPaaSではクラウドサービス上で業務プロセスが行われるため、すべての業務データやナレッジがリアルタイムで共有されます。すべてのデータがクラウドに蓄積、整理されるため、ナレッジの検索を簡単にどこからでも行えます。企業に貴重な情報の蓄積、管理、活用が効果的に行えるのです。
BPaaSがコールセンター業務に与える影響
BPaaSによってコールセンター業務はどのように変わるのでしょうか。変化する4つの点を見てみましょう。
業務プロセスの自動化
BPaaSを利用することで、コールセンターの応対プロセスを自動化できます。たとえば、自然言語処理技術を活用した音声認識や自動応答システム、チャットボットを導入することで、顧客が問い合わせる内容に応じた自動応答を柔軟に行えます。
トランスコスモス株式会社では、チャットボットを活用したサポートの自動化サービスを提供しています。チャットボットが初期対応を行い、オペレーターへ引き継ぎます。オペレーターは対応後に、応対記録や対応方法をデータ登録し、チャットボットに学習させます。ボットは時間とともに賢くなり、自身の対応品質を自動で向上させていきます。
▶参考情報:https://www.trans-cosmos.co.jp/bpo/it-business.html
株式会社イデア・レコードでは、BPaaSにIVR機能を含めています。IVRで飲食店の予約を自動化させます。次いで、クラウドシステムで予約管理、台帳の更新、配席、予約数に応じた在庫設定を自動化していきます。店舗への電話が込み合ってつながりにくい時間に、お客さまが希望の時間に折り返し電話を予約できるコールバック機能も搭載されています。結果、店舗従業員への負担は軽減され、より高品質な顧客サポートを提供していけるのです。
▶参考情報:https://gate-series.com/
業務の効率化
大きな企業では、各部署に業務が分散してしまいます。部署ごとにアウトソーシング先が異なっていることもあります。これでは業務の効率化は進みません。
BPaaSではアウトソーシングされる業務がひとつのBPO、ひとつのシステムに集約されます。業務プロセスは標準化され、より効率の良いプロセスへ改善することが容易になります。どこにAIやRPAを活用したら効果的かも検証しやすくなるでしょう。
高度なデータ分析
BPaaSは、コールセンター業務において、データ分析や予測分析などの機能を提供できます。コールセンターには大量のデータが蓄積されており、これらのデータを分析することで、顧客の行動パターンや傾向を把握し、改善点を見つけ出していけます。
クラウドシステムが得意なリアルタイムのデータ分析、データの見える化が業務の最適化に貢献します。さらに、予測分析を行うことで、将来の需要予測やコスト削減などに役立てることができます。
コールセンターBPOが今すべきこと
これまで見てきたとおり、BPaaSがクライアント企業にもたらすメリットはいくつもあります。BPaaSの市場規模は今後さらに大きくなっていくでしょう。
コールセンターBPOはカスタマーサービス分野におけるBPaaSに本格的に取り組んでいかなければなりません。今何ができるでしょうか。
今すべきことの一つは、BPaaSに必要な最新クラウドサービスを導入しておくことです。
国内外のコールセンターで注目されている最新クラウドサービスは次の4種類です。
- オムニチャネル対応コンタクトセンターシステム
- AR遠隔サポートプラットフォーム
- AI問い合わせ管理システム
- テキスト・音声チャットプラットフォーム
導入期間が短く、運用が簡単で、拡張性が高いクラウド型オムニチャネル対応コンタクトセンターシステムは注目されています。とくにKINTONE、Salesforceと連携がしやすいシステムや、LINEやメールなどのチャネルを増やしやすいシステムが人気です。
保守業務や設備保全サービスをARで効率化させるAR遠隔サポートプラットフォームも注目されています。現場への技術スタッフの派遣回数を減らせるからです。AR遠隔サポートプラットフォームは、マニュアルテキストやマニュアル動画をすべてクラウド化し、カスタマーサポートを効率化できるという特徴も評価されています。
他にもAI問い合わせ管理システム、テキスト・音声チャットプラットフォームなどコールセンターが注目している最新クラウドサービスはいくつもあります。最新システムを導入し、運用の知見を今から蓄積していきましょう。
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最後に
トランスコスモスをはじめBPOが取り組むBPaaSとは、労働力とSaaSを組み合わせた次世代BPOのかたちです。BPaaSの市場規模は、2030年末には1389億ドルに達すると予測されています。
企業がカスタマーサービスにおいてBPaaSを利用するメリットは、コスト削減にとどまりません。最新の技術を安全に利用したり、コールセンターBPOの知見を得られたりするメリットがあります。
コールセンターBPOは、BPaaS提供に向けて今どのように取り組めるでしょうか。カスタマーサービスを革新させる最新クラウドシステムを導入し、最適な運用方法を学んでいくことができるでしょう。AR遠隔サポート、ボイスボット、メッセージングなどを積極的に運用するようにしてください。
BPaaSによってカスタマーサービス業務のコストをスリム化するメリットだけでなく、生産性やサービス品質の向上も提供していきましょう。