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コンタクトセンターのボトルネックを解消?―AIで再設計するACWがもたらす「5つの価値」とは

長らく、「次の顧客対応にはいる前」や「電話対応の合間」に片付けるべき「避けて通ることのできない事務処理」として、コンタクトセンターに君臨し続けてきた「後処理業務」(アフターコールワーク=ACW)。オペレータにとっては、次の入電に向かう前にこなすべきルーティーンワークでした。

しかしコンタクトセンターを取り巻く環境や市場は、目下大激変中です。増大し続ける呼量、応対内容の複雑化、そしてとどまるところを知らない顧客の期待値。こうした変化の中で、かつては裏方業務の筆頭だったACWが、センター全体の効率性と顧客体験(CX)を左右する極めて重要な役割を担うようになっています。

激変する市場、変わりゆく時代の流れ。技術もますます高度化する中で、これまでオペレータが主に手動で行ってきたACWは今や、ドラスティックな変化期を迎えています。現在、先進的なコンタクトセンターでは、AIを活用してACWを劇的に簡素化し、業務のあり方を根本的に変革しています。

本記事では、AIがどのようにこの「通話後の業務」を再定義し、それがなぜ現代のセンター運営において戦略的な鍵となるのかを紐解いていきます。

海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、19年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニューが解説します。

この記事が解決するお悩み

「後処理に追われて、電話を取れる人が足りない…これ以上どうすればいいんだ」

「オペレータごとに履歴の書き方が違って、正直、使えるデータになっていない」

「ACWってコストにしか見られないけど、本当はもっと価値があるはずなんだよな…」

 

 

ACWの「再定義」―なぜ必要?

ACWとは、通話終了後にオペレータが行う一連の業務のことです。主に以下の要素が含まれるとされています。

これらはすべて、顧客の目に触れることはありません。

いわば、顧客対応の裏で行われている作業です。そしてこの作業がオペレータの稼働、データの正確性、顧客対応のスムーズさ、そしてセンターのパフォーマンスに直接的な影響を及ぼしているのです。

表に出てこないACWがCXを直撃する

なぜ今、ACWをこのタイミングで再定義する必要があるのか。それは、これまでの「手動」によるACWでは、現代のコンタクトセンターに求められるスケールと品質に「追いつけなくなっている」からです。

ACWは、主に以下の三つを通じてCXに影響を与えます。

オペレータの可用性:ACWに時間がかかればかかるほど、オペレータが次の顧客に相対するまでに時間がかかってしまいます。わずかな時間の積み重ねが、センター全体の待ち時間の増大、サービスレベル、パフォーマンスの低下に直結します。

データの正確性と一貫性:記憶に頼った不完全な記録は、将来的な顧客対応に混乱を招きます。その対応の経緯が正しく引き継がれなければ、顧客は同じことをもう一度説明する羽目になります。結果、センターへの信頼が揺らぐ…これは避けたいところです。

シームレスなCXの維持:顧客は基本的に、自分の情報がすべてのチャネルで一貫して管理・活用されていることを無意識のうちに期待しています。ブツブツ途切れる情報は、スムーズなカスタマージャーニーを阻害する最大の要因です。

運用面でスケールアップを試みる際、ACWにおける小さな非効率が大きな摩擦を生むことになります。

ACWはもはや単なるオペレータの手に頼った事務作業ではなく、CXを次につなげるためのコアプロセスとして再定義されるべきだと言えます。

「手動ACW」がボトルネックとなる理由

オペレータがいかに優秀であろうと、手動のプロセスが残っている限り、そこには必ず「摩擦」が存在します。そしてその摩擦により、現場は以下の4つの限界に直面する可能性が高くなります。

奪われる時間

時間は有限です。オペレータがACWに費やす1分は、いわば「次の顧客に向き合えない1分間」でもあります。センター全体で見れば、この数分の積み重ねが応答率を下げ、顧客の待ち時間を増大させます。現場がどれほど早く次の電話を取らなければと焦ったとしても、手動プロセスがその足を引っ張っているのが実情です。

一貫性を失うデータ

人手に頼る記録は、オペレータ個人のスキルやその時の状況に依存します。いわゆる、属人化です。

情報の粒度にばらつきがあると、管理者やQAチームが状況を正確に把握することが困難になります。また、次回対応するオペレータも「履歴がよくわからない」というストレスを抱えることになります。

疲れる心

オペレータの認知負荷は、意外と見落とされがちです。感情的な顧客への対応や、複雑な技術的トラブルの解決など、心理的にハードな通話を終えた直後、「正確な事務処理モード」へ脳をスイッチしなければいけません。このサイクルを一日に数十回繰り返すことは、想像以上の精神的疲労を生み出し、バーンアウト(燃え尽き)のリスクを高める要因となります。

高まるプレッシャー、漏れるフォロー

単なる記録にとどまらず、約束した次回アクションの起点でもあるACW。入電が重なって現場が急かされる状況では、折り返しコールの約束、他部署へのエスカレ、確認メールの送付といった次に繋げるアクションが漏れたり、遅れたりするリスクが常に存在しています。一つの忘れられた約束が、顧客の信頼を致命的に損なうことになりかねません。

AIで再設計するACWの姿

手動ACWで直面する現場の限界は、努力や根性といった精神論でクリアできるものではありません。むしろ、こうした構造的な課題を放置したままだと、センター全体の成長にブレーキを掛けてしまうことになります。

今求められているのは、ワークフローそのものを人手、つまり人間が記憶して書き込む・処理する形から、テクノロジーが理解し、整理する形へと根本的に切り替えることです。ACWの概念をアップデートするのが、やはりAIです

AIは、オペレータの手を止めることなく、どのように「通話後」を書き換えていくのでしょうか。AIが得意とする5つのポイントを見てみましょう。

通話要約

通話が終了するやいなや、AIが会話内容を分析し、「問い合わせ理由」「実施した対応」「未解決の課題」を整理してサマリーを自動生成します。オペレータがゼロから文章を考える必要はありません。画面に表示された下書きを確認して、必要に応じて微調整・保存するだけ。これにより、数分かかっていた要約作業がわずか数秒に短縮されます。なんという時短!

自動分類とタグ付け

コールリーズンや最終的な応対結果のコード選択も、AIが会話のコンテキストから判断して自動で付与。「請求に関する問い合わせ」「解約の相談」といったカテゴライズをAIが客観的に行うことで、オペレータごとの判断のブレがなくなり、組織全体のレポート精度が飛躍的に向上します。

ネクストアクションの検知とリマインド

AIは会話の中から「折り返します」「メールを送ります」といった約束を自動で検知。通話完了後に「要フォローアップ」とシステムがフラグを立て、タスク化を促すため、忙しくても重要なアポが漏れにくくなります。

CRMへの自動入力

複数システムへの転記や入力も解消。会話の中から抽出された顧客の新しい電話番号や住所、特定の要望事項を、AIが直接CRMの該当フィールドに流し込みます。システム間を行き来する煩わしさが大幅に軽減されます。

認知負荷が減り、対話への集中度が深まる

実はこの部分がAIにより最大のメリットとなります。記録することへのプレッシャーからオペレータを解放します。何を書くかを考えながら話す必要がなくなるので、オペレータは目前の顧客との対話にフォーカスすることができます。これは応対品質の向上だけでなく、仕事に対する満足度やEX(従業員体験)改善にも直結します。

そしてその先にあるのは、5つの価値です。

AIで再設計するACWがもたらす「5つの価値」

AIによってACWが再設計された先にあるのは、単なる「時短」ではありません。そのインパクトはセンターのキャパ、データの信頼性、そして顧客と従業員のエンゲージメント強化にまで及ぶのです。

人的リソースに頼らずにキャパを最大化

ACWにかかっていた時間が短縮されることで、オペレータが顧客対応に割ける実質的な時間が増加。一人ひとりのラップアップタイム(後処理時間)が数分から数秒に減るだけで、センター全体のサービスレベルは改善します。追加の採用コストをかけずに、より多くの入電に対応できる「弾力性のある組織」への進化が可能となります。

意思決定を支える高品質データの蓄積

記録の粒度を標準化するのが、AIによる要約やカテゴリー判定です。個人の癖や主観が排除されたクリーンなデータが蓄積されることで、QA(品質管理)やコーチングの精度が向上。また、VOC分析において、AIが生成した一貫性のあるログは、経営層が正しい判断を下すための「信頼できる根拠」となります。

CXのシームレスな継続

ACWの質が上がれば、顧客が「二度同じ説明をさせられる」というストレスを解消できます。正確な履歴と迅速なフォローアップにより、前回の担当者に依存することなく、コンテキストを理解した一貫性のある対応が可能です。これは初回解決率(FCR)を向上し、長期的な顧客ロイヤルティを築く一歩となります。

燃え尽きない従業員エンゲージメント

単調な事務作業や、次の電話に追われるプレッシャーは、オペレータを含むセンターのスタッフの離職を進める大きな要因です。AIが事務的な重荷を肩代わりすることで、オペレータは本来の仕事である「顧客に向き合うこと」に専念できるように。精神的な余裕が生まれることで燃え尽きを防ぎ、スタッフが定着する「安定した職場環境」が実現します。

真の見える化

一貫したデータが得られるようになると、センター内の課題やトレンド、傾向などがリアルタイムで取得できるようになります。「どの種類の問い合わせに時間がかかっているのか」「どのプロセスでボトルネックが生じているのか」を正確に把握できれば、改善活動がピンポイントで可能に。CXの目標値と日々の運用が、データによって強固に結びつくことになります。

最後に:AI時代のセンターは「記録」ではなく「対話」に集中する

速記者ってご存知ですか?国会や地方議会、裁判所、ビジネスセミナーやシンポジウムなどで活躍する、速記を駆使して正確に文書化する専門家のことです。速記者は、会話を聞きながら、一般的な筆記速度の十倍くらいの速さで書ける速記文字を駆使して、会話や会議を記録します。

コンタクトセンターのオペレータも一種の速記者であることをこれまで強いられてきました。顧客の言葉を聞きながら、同時に指先はキーボードの上を滑り、走り、そして次のシステム入力や提供すべき情報を頭の片隅で計算する。でも、記録という事務作業に意識を割いている時、同時に進行している対話から「温度感」や「共感」は薄れて、そして失われていくのではないでしょうか。

AIによるACWの再設計は、単なる時短の手段ではありません。オペレータをデータ入力担当という役割から解放し、本来のプロフェッショナルである「顧客体験デザイナー」へと舞い戻らせるプロセスとなるのです。

次の電話ではなく、次の体験のために働く。これが「顧客体験デザイナー」です。

かつては、「いかに早く通話を終え、次の入電に応答するか」という処理スピードが正義でした。かたやAI時代。もうその正義は通用しません。今は「各対話がいかに深く理解され、正確にデータ化され、次の顧客体験に活かされるか」、それが意味を持つ時代です。

AIが「記録」と「記憶」を担うことで、人間は「今、ここに迎えている顧客との対話」に集中することができます。

ACWの再設計は、こうした人間らしさという価値を最大化する強力な戦略投資となります。

AIと人間が役割をしっかりと分担して、それぞれが最高のパフォーマンスを発揮する。そんな環境を整えることこそが、これからのコンタクトセンターが目指すことのできるゴールではないでしょうか。

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