「既存のお客さまはいるけれど、継続して購入してもらえていない」
「購買データは蓄積されているものの、顧客のインサイトまでは見えていない」
「顧客情報を一元管理するシステムを導入しても、各部署の連携が取れず、お客さまとの関係づくりがうまく機能しない」
顧客との関係において、こうした課題に直面している企業は少なくありません。背景にあるのは、お客さまとの接点が多様化していることです。また、従来のCRMが前提としてきた「深く狭い1対1のアプローチ」も変化してきています。
この変化の中、注目を集めているのが「マイルドCRM」という考え方です。
本記事では、マイルドCRMとは何か、なぜ注目されているのかを説明したうえで、実践方法と失敗しないためのポイントについて解説します。
海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、19年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニューが解説します。
【この記事が解決するお悩み】
- 既存顧客との関係性を強化したい
- 優良顧客を獲得したい
- アプリやメディアなどの顧客接点で、より豊かな顧客体験を提供したい
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マイルドCRMとは
「マイルドCRM」とは、電通デジタルが提唱するCRMの考え方です。従来のような狭く深い1 to 1のアプローチではなく、多くのライトな顧客層をセグメントしながらファン化を促進していく手法を指します。
企業がCDP(※)を構築していなくても、SNSなどを活用することで比較的簡単に始められる点も特徴です。
たとえば、LINEを活用したマイルドCRMでは、商品購入者だけでなく、購入前の見込み顧客にアプローチできます。低コストでスタートしやすく、運用のハードルが高すぎないことも、多くの企業から注目される理由の一つです。
※CDPとは: Customer Data Platform(カスタマーデータプラットフォーム)の略で、 バラバラに散らばった顧客データを一人ひとりにひもづけてまとめる仕組み
次のパーソナライゼーション!?CXを変えるハイパーパーソナライゼーションとは - TPIJ by CBA |
マイルドCRMが注目される背景
では、なぜ今マイルドCRMが注目されているのでしょうか。主な背景を3つ紹介します。
1. カスタマーリテンションが利益に直結する時代
CRMは単なる顧客情報の整理ではありません。
- 顧客満足度の向上
- 顧客との個人的で長期的な関係の構築
- 顧客ロイヤリティの促進
といった経営成果に直結する重要な施策です。
Sobotの調査によれば、CRMの活用によってカスタマーリテンション(※)は平均27%向上するとされています。
※カスタマーリテンションとは:一度利用してくれたお客さまに、継続して使い続けてもらうこと
さらにGitnux社の調べでは、リテンションを5%改善するだけで、利益が最大25〜95%増加する可能性があると報告されています。
つまり、カスタマーリテンションの向上は企業の収益基盤を強化する重要な取り組みなのです。
そして、マイルドCRMの実践は「リテンションマーケティング」(※)の一環として捉えることもできます。
※リテンションマーケティングとは:顧客との良好な関係維持を目的としたマーケティング活動のこと
2. 一貫した顧客体験が競争優位になる
現在の市場では、商品やサービス単体での差別化が難しくなっています。機能や品質だけでは優位性を築きにくい時代になっているからです。
そのため顧客は、「自分にとって最適で快適な情報や体験」を提供してくれる企業を選ぶ傾向が強まっています。
▶参考情報:https://geniee.co.jp/cx-navi/marketing/customer-experience-cx-strategy/#CX-2
3. 顧客との関係が「管理」から「共創」へ
近年は、web3時代に代表される「顧客主体」の価値観が広がっています。企業が顧客を囲い込むのではなく、顧客自身が共感できるブランドを選ぶ時代になりました。
この変化により、顧客との関係は従来の「管理型」から「共創型」へと移行しています。
顧客共創を進めるうえでは、多くのユーザーが日常的に利用しているSNSの存在が欠かせません。SNSを起点に継続的なコミュニケーションを図るマイルドCRMは、こうした時代の潮流とも非常に相性が良いと言えます。
カインズも取り組むカスタマーエクスペリエンスマネジメント(CXM)とは - TPIJ by CBA |
マイルドCRMの主軸として選ばれるLINE
マイルドCRMを実践する企業の多くが、顧客接点としてLINEを採用しています。
たとえば、サントリー戦略推進・CRM部の宮元尚哉課長は、LINEについて「利用者が多い上、LINEミニアプリなどを活用すれば、ネイティブアプリと遜色ない体験提供が可能だ」と述べています。
また、コスモヘルス株式会社が発表した「シニア層のSNSに関する実態調査レポート」では、シニア層の70.8%がSNSを利用しており、その中でもLINEの利用率は82.4%に達しています。LINEは若年層だけでなく、シニア世代にも深く浸透した接点だと言えるでしょう。
昨年の「LINEヤフー BIZ Conference 2025」において電通デジタルの松林哲也氏は、LINEの優位性として次の4点を挙げています。
- 圧倒的な普及率
- レスポンスの良さ
- デュアルファネル
- One IDの統合
こうした特性から、LINEはマイルドCRMの基盤として非常に有効なツールと考えられています。
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マイルドCRMにおけるLINE活用の注意点
一方で、LINE活用には注意するべき点があります。それは「コンタクトセンターシステムとLINEが適切に連携できるか」という点です。
連携が不十分な場合、次のようなリスクが生じる可能性があります。
ツールの分断
電話、メール、LINEなどを別々に管理していると、情報の一元化が難しくなります。その結果、たとえば複数のオペレータが同一顧客へ重複して返信してしまうなど、対応の非効率化を招く恐れがあります。
稼働率の低下
ツールを横断した対応ができない場合、ツールごとに担当者を分ける運用になるケースは少なくありません。結果として、ツールが増えるほど人員が必要になる可能性があるのです。
本来であれば、入電数が少ない時間帯にメールやLINE対応を行うといった柔軟な運用が可能ですが、分断された環境ではそれが難しくなり、稼働率の低下リスクが発生します。
レポート分析機能やモニタリング機能の不足
レポート機能のカスタマイズ性が低いと、問い合わせ内容や件数の詳細を分析することが困難になります。結果として、オペレータの経験や勘に依存した判断が増えてしまいます。
また、コンタクトセンターシステムによっては、LINE対応のモニタリング自体ができないケースもあります。それは品質管理の観点でリスクになります。
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マイルドCRMを機能させるための4つの運用要件
マイルドCRMを成功させるためには、現在利用しているコンタクトセンター環境を見直すことが重要です。とくに次の4点はチェックしておきたい要素です。
- 電話・メール・LINEなど各チャネルを一元管理できる
- マルチタスク化できる
- 豊富なレポート機能
- 充実したモニタリングシステム
LINEで外商!? タイパ重視のZ世代に寄り添うチャネルとは - TPIJ by CBA |
▶LINEを軸にマイルドCRMを実現できるコンタクトセンターシステム:Bright Pattern Contact Center(ブライトパターンコンタクトセンター)
▶LINEを活用したコンタクトセンターの事例:LINE連携で応答率&業務効率UP!カスタマーサポートのCXを改善したティーライフ社の成功事例
ボイスボットのメリット5つ| Bright PatternのIVRなら LINEコールPlusと連携可能 - オムニチャネル・クラウド型コンタクトセンターシステムBright Pattern |
サントリーの事例から見る、マイルドCRMの実践
前述の要件を満たした企業は、どのような成果を上げているのでしょうか。
サントリーホールディングス株式会社では、売り上げ拡大・ブランドに対する「共感獲得」を目的として、マイルドCRMを採用してきました。主軸にLINEを据えて、LINE公式アカウント「おとなサントリー」を通して緩やかなファン化を促しています。
具体的なところとしては、次のような施策を行っています。
ビンゴキャンペーン:
過去の飲用履歴に基づき、各ユーザーに最適化されたビンゴカードが自動生成。ビンゴの列がそろうように対象商品を購入し、応募すればPayPayポイントが当たるというキャンペーン。これによりキャンペーンを体験したユーザーの46%が「普段買わない商品を買うきっかけになった」と回答し、23%が「これもサントリーの商品かと気づきになった」と回答。ファン化を大きく促進する企画となった。
LINEミニアプリ「ノンデネ」:
200種類以上のスタンプとともに、サントリー商品を贈れるギフトサービス。贈られた相手は、対象商品の中から好きな商品をコンビニエンスストアで受け取れるようになる。選べるスタンプには「お世話になりました」「おめでとうございます」などの一般的な挨拶の他に、「出張お疲れ様です」「リスケしてすみません…」などのビジネスや生活シーンで活用できるようなものもある。これによりユーザーからの共感を獲得し、想定以上の利用実績を記録したという。
オフラインイベントとの連携:
イベント開催エリアのLINEユーザーに事前告知をし、来場者にはLINE登録で割引を提供。イベント後にもLINE配信でサンプリング情報などを配信し、継続的なコミュニケーションを図りながらリピート飲用への仕掛けを作っている
ほかにも、
- 自社キャラクター「アンクル」の起用
- ブックマーク機能の独自開発
といったユーザーとのフレンドリーなコミュニケーションや利便性を実現するための取り組みを実施してきました。
また、LINE公式アカウントとAIエージェントを組み合わせた取り組みにも着手しています。年末の忘年会シーズンなどを対象に、ユーザーとの会話によって最適な飲食店を紹介し、乾杯の挨拶まで考える機能をLINE公式アカウント内に追加する施策も進んでいます。
サントリーの取り組みから見えてくる成功要因は、主に以下の3つです。
- 顧客接点をLINEに集約
- データを活用
- 継続的なコミュニケーション
これらを実現するうえで重要なのが、LINEとコンタクトセンターの高度な連携です。接点を増やすだけでなく、それらを統合し、顧客理解へとつなげる仕組みがカギを握ります。
▶参考情報:「サントリーが実践 LINEを中心とした新CRM戦略とは」
LINE連携で応答率&業務効率UP!カスタマーサポートのCXを改善したティーライフ社... - AIコンタクトセンターシステムBright Pattern |
最後に
マイルドCRMを機能させる上で重要なのは、顧客接点を分断させないことです。顧客との関係は、一度限りの接触で築けるものではありません。日常的な接点を通じて緩やかにつながり、その中で信頼を育てていくことが求められます。
LINEのような身近なツールを活用しながら、それらを統合的に管理できる環境を整えることが、これからのCRMにおいてますます重要になるでしょう。マイルドCRMは、企業と顧客の関係をより自然で持続的なものへと進化させる可能性を秘めています。
まずは、自社の顧客接点が分断されていないかを見直すことから始めてみてはいかがでしょうか。LINE連携をはじめとした統合的な顧客接点の構築が、マイルドCRM成功の第一歩となります。
