顧客体験の向上や顧客ロイヤルティの醸成において、ホスピタリティの重要性が再三強調されてきました。しかし、「ホスピタリティ」とは意外と広義な言葉であり、具体的にどのようにしてホスピタリティを示していくのかが課題となります。
ホスピタリティ強化のメリットが説明されることは多いですが、「具体的にどのような技術、サービスとしてホスピタリティを落とし込んでいくか」のアイディア出しは、企業側へ全面的に任されがちです。
そこで今回は、コンタクトセンターにおけるホスピタリティの一例として、「オンライン接客」に注目します。今ホスピタリティの重要性が高まっている理由と、オンライン接客でホスピタリティを示す4つの方法について紹介していきます。
この記事が解決するお悩み
ホスピタリティの重要性は理解しているものの、落とし込み方に悩んでいる
社内に顕在するホスピタリティを、もっと表面に出していく方法が知りたい
どのようにオンライン接客でホスピタリティを実現するか検討中
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なぜ顧客体験にホスピタリティが必要なのか
ホスピタリティを強化するメリットはたびたび目にしますし、時間の経過で大きく変化することもありません。しかし、ホスピタリティの必要性については変化しやすいものです。最近はとくに必要性が上がっていると言えます。
日本のGDPにおいて第三次産業(=サービス業)は、約73%とかなり高い割合を占めています。お客さまは日頃からさまざまなサービスに触れているので、サービスに対して目が肥えていて、多様な顧客体験を蓄積しているということになります。
そのため、一般的に「良いサービス」とみなされてきた「丁寧で迅速なサービス」は、コモディティ化の一途をたどっています。従来のマニュアル通りの接客では、感動をともなった顧客体験にはつながりにくくなっているのです。
マニュアル通りのサービスによって得られるスピード感や正確性・明瞭性は、今後AIに求められる要素となっています。急速に市民権を得た高性能で多様なAIたちは、すでにサービス業の現場において居場所と役割をもっています。そのため、人間である私たちには、お客さまの心を動かせるような踏み込んだ応対スキルが求められます。
「踏み込んだ応対」として必要になるのが「ホスピタリティ」です。
従来のサービスのコモディティ化とAIの実用化にともなって、ホスピタリティを前提とした「適応型サービス」や「コンサルティング型営業」などのパーソナライゼーションが重要度を増しています。
企業あるいはオペレーターの「ユニークスキル」とも言えるホスピタリティは、ブランドとしての付加価値の付与と強化において必要不可欠と言っても過言ではありません。ビジネスのニュアンスが強い従来の「サービス」に対して、人と人のつながりや感情が伴う「ホスピタリティ」は、企業のブランド力を高める重要な要素です。
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オンライン接客で示す4つのホスピタリティ
ホスピタリティは「おもてなし」と表現されることの多いキーワードです。
パーソナライズされたおもてなしをしていくには、顧客接点の種類に関わりなく、お客さまの状況をリアルタイムかつ正確に把握することがポイントになります。
とはいえ、窓口や店頭でのオフライン接客を除けば、顧客接点の多くはオンラインです。お客さまとスタッフはお互いの顔が見えず、声や文章のトーンで感情や状況を推察していくしかありません。手軽さや自由度の高さといったオンライン特有のメリットはあるものの、パーソナライズされた顧客体験を提供するには難しさが残ります。
オンラインのメリットを活かしつつ、よりオフラインの接客に近い体験を提供するには、「オンライン接客」が有効です。オンラインとオフラインの良いところ取りをできるオンライン接客は、ホスピタリティ実践との親和性が高いと言えます。
オンライン接客では具体的にどのようにホスピタリティを示せるでしょうか。
顧客接点における「ホスピタリティ/おもてなし」と聞くと、オペレーターの対応態度と関連付けられやすいものです。ホスピタリティはオペレーターの対応態度や一連の応対の流れに表れやすく、もっとも表出しやすい側面であることは間違いありません。
しかし、ホスピタリティには「外向き(=お客さま向け)のホスピタリティ」と「内向き(=スタッフ向け)のホスピタリティ」があります。
感動の伴うより良い顧客体験を提供していくにはどちらも欠かせません。ここからは、それぞれのホスピタリティでできることを2つずつ紹介します。
外向きのホスピタリティ
「外向き(=お客さま向け)のホスピタリティ」の実践方法を見ていきましょう。
1. 「おもてなしスキル」のレベルアップをはかる
コンタクトセンターに寄せられる問い合わせには、ある程度のパターンが存在し、場合によってはマニュアルを読み上げるだけで解決してしまうようなものもあります。そのため、対応の内容だけで差別化を図ることは意外と難しいものです。
内容以外でおもてなしする方法のひとつに、応対スキルを磨くことが挙げられます。
オンライン接客はこれまでの顔が見えない接客とは異なり、オペレーターの表情や雰囲気の変化、所作などがお客さまへ見られることとなります。
しかし、逆に言えば「ホスピタリティ」を可視化することができるのです。「見せられる」という事実を踏まえて、たとえば以下のようなスキルを磨いていけます。
- 表情に気を遣う
- お客さまにとって聞き取りやすい声量・声質・トーンで話す
- 身だしなみや姿勢に配慮する
- お客さまに見せられる資料を用意する
応対スキルが磨かれれば、各オペレーターがもっているホスピタリティ精神を技術によってお客さまに伝えることができます。
「ホスピタリティが大事と言われても、結果的には各オペレーターの心持ち次第だと思う」と考える方がいるかもしれません。
たしかに、ホスピタリティという精神の醸成そのものは、最終的にオペレーター個人の心持ちによるところが大きく、企業としては企業理念の周知や目標に対する意識のすりあわせといった働きかけが限界となりがちです。その上、働きかけに対してオペレーターが狙い通りのリアクションをしてくれるかは、やってみなければ分かりません。
しかし、もともと高いホスピタリティをもっているオペレーターが、技術不足によってホスピタリティを発揮しきれていないのであれば、企業側のサポートによって状況を変えることができます。ホスピタリティを技術としてお客さまに伝えることはひとつのスキルであり、「おもてなしスキル」であると言えます。
先に挙げたようなスキルについては、特化型のセミナーや講座などが開かれています。社内・社外に関わりなく積極的に活用していくなら、オペレーター全体の「おもてなしスキル」のボトムアップが見込めます。
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2.顧客データを活用して先手を打つ
すでに商品やサービスを利用済みで「顧客」になっている人や、コンタクトセンターへの問い合わせにおけるリピーターについては、センターにCRMデータが蓄積されています。
CRMデータを活用すれば、それぞれのお客さまがぶつかりやすい問題や、好みの対応方法などを事前に確認することができます。
蓄積された情報を、オンライン接客時の対応に活用するなら、ただサポートの質を上げるだけでなく、オンライン接客によるカスタマーサクセスの実現が可能です。カスタマーサクセスが成功すれば、企業として「お客さまに困って欲しくない」「より快適に商品/サービスを利活用してほしい」というホスピタリティを伝えることができます。
▶参考情報:CRMデータが活用しやすいコンタクトセンターシステム「Bright Pattern」
内向きのホスピタリティ
続いて、「内向き(=スタッフ向け)のホスピタリティ」の実践方法についても考えていきます。
3.アバター接客に対応する
お客さまに対するホスピタリティを意識するあまり、オペレーターへのホスピタリティを忘れてしまわないよう気をつけましょう。
とくにこれまでコールセンターとしての役割が大きかったセンターにおいては、オペレーターはオンライン接客における「顔出し」に強い抵抗感を感じるかもしれません。
「業務内容は変わっていくものなので、顔出しについてはオペレーターに慣れてもらうしかない」と思われますか。
たしかにオペレーター側にも柔軟さは求められます。しかし、顔出しに強い抵抗を感じているにも関わらずオンライン接客を継続するなら、オペレーターが本来もっているホスピタリティを発揮できなくなるリスクが生じます。
たとえば、自分がカメラに写っているという事実から来るストレスによって、目の前のお客さまのリアクションや言葉に集中できないかもしれません。場合によっては、かえってホスピタリティと顧客体験の低下を招き、逆効果になってしまいます。
オンライン接客においてアバターを導入すれば、顔出しへの抵抗感を軽減することが可能です。しかし、「アバターはあくまでもアバターであり、オペレーター本人の顔ではないので、オンライン接客をするにあたって不利になる」と思われるかもしれません。では、アバター利用は本当に不利になるのでしょうか。
SOMPOひまわり生命保険では、オンライン接客の導入と、それに伴うアバターの活用が進められています。「コールセンタージャパン」2023年10月号を見ると、同社におけるアバター利用者の成約率は7割に達しているといいます。成約率7割という数字は、一般的な(対面での)成約率と比較しても高い数値です。アバターを活用したオンライン接客が、決して不利ではないとわかるデータです。
アバター接客で人材不足解消!?VirbeとBright Patternを連携してみた - オムニチャネル・クラウド型コンタクトセンターシステムBright Pattern |
4.スタッフ同士の良好な関係を築く
スタッフ同士の関係性が良好であれば、お客さまにホスピタリティを届けるという点において「共創関係」を築くことができます。センター全体として顧客満足度や顧客体験を向上させやすい環境が生まれ、付加価値の高いサービスを提供していきやすくなるのです。
スタッフ間のリレーションが強ければ、次に同一顧客の対応をするオペレーターのことを考えて顧客情報を入力したり、接客中の状況を見ながら必要な手助けをしたりすることができます。
スタッフ同士の関係の強さは、スムーズな業務の要となるだけでなく、お客さまをおもてなしするベストな環境の土台となります。内向きのホスピタリティである上、顧客体験へは直接関係がないように思える分野ですが、最終的には外向きのホスピタリティへと転換されていくので、重視したいポイントです。
最後に
感動の伴う顧客体験を実現するには、ホスピタリティが欠かせません。最近は顧客満足度の向上や顧客ロイヤルティの獲得の重要性が叫ばれますが、いずれにおいても良質な顧客体験がベースとなります。
迅速さと正確さが求められる対応はAIに任せつつ、私たちは「人間味」として期待されるホスピタリティ/おもてなしによる感動の醸成に注力したいものです。
AIと分業しつつ、人間同士の顧客接点だからこそ生み出せる感動を強化していきましょう。