ダークパターンによる被害を防止することを目的として、2024年9月27日に「一般社団法人ダークパターン対策協会」が設立されました。事業者や消費者に注意喚起をおこなうほか、事業者の認定制度を設ける方針です。
欧州で進むダークパターンへの規制。いよいよ日本でも本格的な対策が始まろうとしているのでしょう。
「ダークパターン」といえば、ECサイトや小売業界が抱えやすい問題だと思われがちです。しかし、意外にも多くの業界がダークパターン化のリスクを抱えており、カスタマーサービスの分野も例外ではありません。
この記事では、カスタマーサービスにおける「意図しないダークパターン」に注目し、どのような回避策があるのか、そして巧みにダークパターンを回避している具体例を紹介します。
海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、18年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニューが解説します。
この記事が解決するお悩み
自己解決率が上がらず、問い合わせ件数が減らない
若者やシニア層など、ターゲット層に合わせて新たなチャネルを開設するべきか悩んでいる
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カスタマーサービスにおけるダークパターンとは
ダークパターンとは:スマートフォンのアプリやECサイトなどの操作画面で、ユーザーを騙したり、勘違いさせたりするようなデザインに対して名づけられた名称であり、人々の判断を誤らせるユーザーインターフェースのことです。(参照:「国民生活センターの資料」)
現在では、UIに限らず「ユーザーに不誠実なサービスの仕組み」なども指すようになっています。以下に例を挙げてみます。
- 会員登録の半強制
- 企業にとって都合の良い行為(通知や追跡機能の有効など)をしつこく要求する
- サービスの退会/解約に手間や時間がかかる
- トライアル期間後の契約自動更新 など
カスタマーサービスにおける意図しないダークパターン
サービス・商品の変更・解約や問い合わせのために、電話やメールといった限られたチャネルのみで受け付けをしている企業は少なくありません。
そのため、お客さまはウェブページから電話番号やメールアドレスといった問い合わせ情報を探すことになります。しかし、ページを探してもFAQが出てくるのみで、お客さまがFAQによる自己解決も問い合わせ先の把握もできず諦めてしまうとしたらどうでしょうか。お客さまにとって「親切で利便性の高い顧客接点」と認識されるでしょうか。
コンタクトセンターが意図的にダークパターンを仕掛けることはないでしょう。
とはいえ、顧客接点のあり方によって、気づかぬうちにお客さまからダークパターンと認識されるリスクはあります。ウェブページの動線や、FAQの内容、チャネルの種類などにより、企業の意図とは裏腹に「不誠実なサービスや仕組み」と誤認されてしまうのです。
ではコンタクトセンターをはじめ、カスタマーサービスに関わる各部署が意図しないダークパターンを回避するために何ができるでしょうか。
カスタマーサービスでダークパターンを回避する3つの方法
「ダークパターンを回避する」ということには、ユーザーが企業にコンタクトをとりやすい環境の整備や、自己解決率の向上などが関係します。
スムーズなコミュニケーションの実現や、自己解決率の向上というと、「多様化するコミュニケーションに対応できるようチャネルも多様化する」「オムニチャネルに完全対応する」といった案が思い浮かぶかもしれません。そのため、新たなチャネルの開設を検討する企業は少なくありません。
では、新規チャネルの開設や多様化こそが今選ぶべきベストアンサーなのでしょうか。「知らぬ間にダークパターンに該当している」という事態を避ける上でポイントとなるのは、自社の持つ顧客接点が「お客さまの信頼を獲得できるものどうか」です。
ポイントを押さえた上で、カスタマーサービスでダークパターンを回避するための方法を3つ解説します。最後には具体例も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
ウェブページの利便性向上
ダークパターンとして誤認されやすいのは、ウェブページのデザインや動線です。
もちろん企業は、ダークパターンにならないようなデザインにし、問い合わせ先をわかりやすく表記し、ユーザーにとってメリットとなる情報の提示を意識しています。しかし、お客さまにも同じように認識されているかどうかは検討する必要があります。
たとえば、お客さまのターゲット層と現状のウェブサイトを比較してみましょう。シニア層がメインターゲットである場合を想像してください。シニア層は、ウェブサイトへの導入時点で漠然とした不安感や難しさを感じているケースが少なくありません。
そのため、文字サイズや配色、表現といった要素で「シニアフレンドリー」なウェブサイトへとブラッシュアップする必要があります。
サイトの作り手である企業にとって「良いサイト」が、同じようにユーザーフレンドリーなサイトであるとは限りません。企業とお客さまとの意識ギャップを限りなくなくすことが必要不可欠です。
ウェブサイトは、顧客接点のスタートとなる可能性が多い部分です。定期的にウェブサイトでのユーザーの動きを分析したり、メインターゲットに向けたアンケート調査を実施したりしましょう。そうするなら、意図しないダークパターンを顧客目線で予防することができ、企業の思いやりや誠実さが伝わります。
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FAQの見直し
自己解決率の向上に欠かせないのがFAQの見直しです。FAQへの動線や内容、参照後の解決率など、FAQにまつわる確認要素は多岐にわたります。とはいえ、設置されているFAQに探している回答がないと、ダークパターンとして誤認されるリスクは高まります。
対策例として以下のような要素をチェック項目にするなら、ダークパターンの回避に貢献できるでしょう。
- FAQへすぐに飛べるか
- お客さまの悩みに該当する質問がすぐに見つけられるか
- FAQを確認した上で問い合わせをしてくる顧客がどれほどいるか
最近では、FAQをベースとしたチャットボットが活用されるようになっています。チャットボットがお客さまの悩みをヒアリング、回答するなら、ユーザーが自力で回答を探す手間をカットでき、エフォートレスな顧客体験を実現しやすくなります。
▶FAQを含む自社サイトからチャットボットを作成できるAIソリューション:https://gidr-ai.cba-japan.com/
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ターゲット層に合わせたチャネル整備
新規チャネルの開設を含め、チャネルの定期的な整備もダークパターン回避には必要です。「何はともあれ新しいチャネルの開設!」というスタンスは、かえってダークパターンのリスクを上げてしまったり、コミュニケーターたちの負担を増してしまったりします。
とはいえ、お客さまが好むチャネルは日々変化しています。ユーザーの年齢層によっても変化します。たとえば、電話を苦手だと感じている若者は増加していますし、LINEを日常的に活用するシニア層も増加しています。
くわえて、「時間がないときにはチャットボットの方が良い」「状況をより正確に伝えたいので電話したい」のように、シーンによってチャネルが使い分けられることがあります。
そのため、チャネルの整備をするときには、以下の2つの点を確認しましょう。
- 誰にどのチャネルを活用してほしいのか
- どのシーンにおいて、どのチャネルが有効なのか
活用されていないチャネルは縮小し、これからニーズが高まると思えるチャネルを強化していくなら、ダークパターンの回避につながります。
ダークパターン回避の具体例:SBI FX トレード
最後に、ダークパターンを回避できるウェブサイトの構造や、問い合わせ方法を実現している具体例について紹介します。SBI FX トレードの「お問い合わせ」ページです。
SBI FX トレードは、2024年3月に電話での受け付けを予約制へと移行しました。現在は、チャットボットを主軸とした問い合わせ対応を展開しています。場合によってはダークパターン化のリスクがある取り組みと思えるかもしれません。
しかし、「お問い合わせ」のページを見ると、ダークパターンを回避として有効な策が多く見られます。一部として以下のような要素が挙げられます。
チャットメインであることがすぐにわかる
ページを開くと、真っ先に「364日24時間チャットボットが問い合わせ対応をする」ことが目に入ります。コンタクトチャネルのメインがチャットボットであることが一目瞭然で、スクロールをしなくてもチャットボットを始めることができます。誰にとっても明朗なファーストビューです。
よくある問い合わせをすぐに参照できる
問い合わせ方法を選ぶ過程で「ログインができません」「パスワードを忘れました」のような「困りごと」が常に表示されています。
これによりFAQページを探したり、FAQの中から該当する質問を探したりする手間を省くことができます。お客さまの中には、自分が何に困っているのかをうまく言語化できず、漠然とFAQページを回遊している人もいます。
SBI FX トレードのページであれば、「発生しやすい悩みなのにうまく言語化できない」「自分の悩みがどれに該当するのかわからない」という事態を避けやすくなります。
電話対応を残している
電話対応はすべて予約制とはなっているものの、電話というチャネルを完全に廃止したわけではありません。ページの下部には電話予約フォームが設置されており、電話対応を希望するお客さまにとって「為す術なし」という状況にならないように配慮されています。
電話の予約制は、コンタクトセンターにとってもお客さまにとってもメリットとなります。コンタクトセンターにとっては、確実に対応できるオペレーターを事前に配置することができますし、電話対応の量を分散させることも容易です。
お客さまにとっては、自分の都合の良い日時を指定することができるので、「電話対応までの待ち時間が長かった」、「あまり都合の良くないタイミングで電話がかかってきてしまった」といったマイナスの体験を回避することができます。
最後に
企業にとって「意図しないダークパターン」というのは恐ろしいものです。現在の日本においては直接的・包括的にダークパターンを規制する法律はありません。
とはいえ、特定商取引法や景品表示法などが法改正されたことにより、特定の分野やケースにおいて法令違反となるリスクはあります。また、欧米をはじめとした各国では、規制強化が本格的に始まっています。
企業はこれまで以上に「クリーンさ」を意識しなければいけなくなっています。しかし、ダークパターンを避けるための施策は、概して顧客ファーストの考え方をし、結果としてユーザーへの寄り添いの強化につながります。そのため、ダークパターンの回避は、企業の思いやりや誠実さをより明確に伝える良い機会だと考え、積極的に取り組むようにしましょう。