アパレル業界の商品開発担当者や店舗の管理者は、厳しい環境の中で戦っておられます。
「余剰在庫が多すぎる」「値引きしないと売れない」「ECの影響でリアル店舗の役割があいまい」といった課題に一生懸命に取り組んでいることでしょう。
昨今は「AIを導入してDX」という流れがありますが、すでにアパレル業界ではAIによる需要予測が定番化してきています。
しかし「まだAIを導入していない」「AIを活用したいがどんな事例があるのかまず知りたい」と思われるかもしれません。
今回は、海外・国内におけるAIの活用事例、さらにAI導入で現場の何が変わるのか検証します。最後には、アパレル業界のAIトレンドも予測していきます。
AIの力を利用して、アパレル業界の可能性を最大限に引き出す方法をご覧ください。
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2021年のアパレル業界が抱える課題
AIの活用事例を紹介する前に、アパレル業界が抱える課題を整理しておきましょう。すぐ活用事例がご覧になりたい方は次の項へ進んでください。
2021年のアパレル業界はコロナ渦という未曾有の危機にあって奮闘しています。
帝国データバンクの2021年3月に行われた動向調査にポジティブな結果を見ることができます。集計対象24社のうち、前年同月比の売上高を上回ったのが83.3%でした。大部分の事業者の売上がアップしています。
しかしネガティブな点もあります。新型コロナの影響が本格化する前の2019年3月比では、売上が下回っているのです。
つまりコロナ渦の状況では売上が回復してきているものの、以前の売上に到達するまでには回復していないということです。
思い出してみるとアパレル業界では、コロナ渦以前でも売上の前年割れが常態化していました。何が問題なのでしょうか。2つの課題があります。
- 需要予測が外れる
- オフラインとオンラインでの接客
それぞれの課題とAIによる解決策について解説します。
需要が外れる
「次のシーズンにはこの服が流行りそうだ」「来年の夏に流行するのはこの色だ」、このようにアパレル各社は今後のトレンドを予測します。予測が当たれば業績はアップしますが、外れると在庫が増えて売上が低迷してしまいます。
最近では予測の精度を上げるために、AIの2つの技術が注目されています。
- AI時系列分析
- AI画像認識分析
AI時系列分析は、過去から現在までの売上データを分析し、統計的に次の需要を予測する技術です。
AI画像認識分析は、流行った商品の写真を見て次のトレンドを予測する技術です。たとえば今まで流行ったジャケット、シャツ、パンツの写真をみながら、生地、模様、着こなし方といったタグに基づいて分析します。その後、分析結果を時系列分析と組み合わせ、次のトレンドと売れる商品の提案してくれるのです。
人間の能力によってばらつきが出る予測に、AIは法則性を見出してくれます。
オフラインとオンラインでの接客
消費者はオフラインとオンラインのいいとこ取りを期待します。ECの待ち時間のない購入体験を重視する一方、リアル店舗で店員に相談したり自分に似合う服を提案してもらったりする「顧客体験」も重視しています。
New Innovationsの調査によると、65%以上の人が「人による接客とデジタル化の融合」を求めていることがわかりました。
つまりECの利便性とリアル店舗の接客の両方を体験したいということです。
アパレル業界ではオフライン(リアル店舗)とオンライン(EC)を連携させた接客をするといった課題に取り組んでいかなければなりません。
オフラインとオンラインの接客サービスを融合させる手段として、AIアバター接客が注目されています。AIアバター接客の事例については、これから紹介します。
海外・アパレル業界のAI導入事例
アパレル業界が抱える課題は、「需要予測」、「オフラインとオンラインでの接客」の2つに分けられます。
海外では2つの課題をAIでどのように解決しているのでしょうか。ニュージーランド、アメリカ、イスラエルの事例を紹介します。
【需要予測】AIによる需要予測Finesse
スタートアップのFinesseは次の需要予測をAIで行なっています。AIをがウェブのファッショントレンドを分析し、将来のトレンドを予測します。3DモデリングソフトとAIを連携させることで、4週間以内に小ロットで売れる確率の高い商品を生産できるようになっています。
【接客】対話型AIデジタルヒューマンによる商品説明
2019年のニュージーランドファッションウィークが開催された際、UneeQの対話型AIデジタルヒューマンが商品説明をするために採用されました。ニュージーランドのファッションモデルManahou MackayにちなんだManahouサイトから、デジタルヒューマンが商品説明をしてくれます。
【接客】ショッピングアプリ「THE YES」
アメリカのTHE YESはAIを使ったショッピングアプリを開発しました。アプリの中で利用者にさまざまな洋服を表示し、本人が気に入ればYESボタンをタップ、気に入らないとNOをタップする仕組みです。
AIは利用者の嗜好を学習していき、本人の好みにピッタリのファッションを提案してくれます。利用者一人ひとりにパーソナライズされたおすすめを表示できるのが強みです。
【接客】バーチャル試着室 Zeekit / StyleScan
ECの浸透とともにバーチャル試着室の需要が高まっています。家にいながらネットで見ている洋服をバーチャルで試着できるサービスです。
イスラエル発のアプリZeekitは、自分そっくりのアバターに選んだファッションアイテムを着させられるサービスを提供しています。
ロサンゼルスを拠点とするファッションテックStyleScanは、ヴァーチャル試着ソフトウェアを開発しました。ユーザーに1秒で服をレンダリングできるシステムです。
既存のファッションアプリに組み込める技術で、汎用性の高さが魅力です。現在は静止画だけですが、今後は動画にも対応できるよう開発しています。
【その他】対話型AIデジタルヒューマンが「ファッションモデル」に
ニュージーランドのブランド「SALASAI」が、2020年秋冬コレクションに対話型AIデジタルヒューマンを導入しました。スタイリングされた写真とAIソフトウェアを統合し、デジタルヒューマンのファッションモデルを作り出したのです。
UneeQのクリエイティブ・ディレクターであるVictor Yuen氏は、「デジタルインフルエンサーの力を実証できることにワクワクしている」と語っています。
たしかにデジタルヒューマンはデジタルインフルエンサーです。いくつものファッションショーへ同時に出演し、複数のSNSで同時に発信することが可能です。実際にSALASAIのデジタルヒューマンはInstagram、Facebook、EDMチャンネル上でシェアされています。
国内・アパレル業界のAI導入事例
国内のアパレル業界におけるAI導入事例も紹介します。需要予測、オフラインとオンラインでの接客にAIをどのように活用しているでしょうか。
【需要予測】AIによるターゲティング
株式会社アーバンリサーチは「Appier Inc.」のAIをECのマーケティングへ導入しました。予算のかかるクーポン戦略からAIを利用したターゲティングへ切り替えたことで、コンバージョン200%以上、収益性7割アップすることに成功しています。
【需要予測】AIで古着の買取価格を予測
古着を買い取る際の値付けは店員の経験と勘に基づくところが大きかったですが、株式会社ZOZOはAIによる自動化に成功しました。価格の的中率は150%へアップしています。買取後の販売価格をAIが予測することで、最適な買取価格を提示してくれます。古着を売る人も査定額がすぐに分かるので安心して服を手放せます。
【需要予測】AIによる需要予測
AIによる需要予測システム「SENSY」は、大手アパレル企業の25%に導入されています。導入企業が蓄積してきたビッグデータをAIが解析し、売価変更のサジェスト、需要予測を行なっていきます。商品開発部の業務を大きく軽減し、粗利も向上する成果が出ています。
【接客】AIチャットボット
株式会社ナノユニバースはECサイトでAIチャットボット「OK SKY」を活用しています。従業員による対応ができない深夜帯でもユーザー対応ができた結果、EC経由の購入単価と年間購入回数が増加しました。
アパレル大手ウィゴー(WEGO)では女子高生AIチャットボット「りんな」を導入しています。ユーザーへ「りんな」が鋭いファッションチェックをするサービスが好評です。
【接客】AIによるサジェスト
大手下着メーカーであるワコールは、「3D smart & try」というAIシステムを導入しています。5秒で全身の150万箇所を採寸し、ユーザーに最もフィットする下着をサジェストしてくれます。リアル店舗の試着室の中に設置されますが、提案された商品はECから購入できます。
【その他】AIで業務改善
ストライプインターナショナルは、AIを仕入高の削減に活用しています。AIが在庫の最適化、発注と値引きの適正化をすることで仕入高の削減を目指しているのです。
株式会社ジュンは、アパレル製造マネジメントサービス「AYATORI」を導入しました。AIによる需要予測に加え、デジタル化による業務改善を進める意向です。
アパレル業界には書類関係の業務が多くあります。店舗へのデリバリースケジュール、新企画の絵型、仕様書など作成しなければなりません。
書類やワークフローをデジタル化することで業務を改善できる余地が大いにあります。
アパレル業界の業務改善では、お客さまのリアルな声が集まるお問い合わせ窓口をAIと連携できるコンタクトセンターへ切り替えることも検討できるでしょう。IBM Watson、Google AIといったAIシステムと連携できるコンタクトセンターシステムは業務改善に貢献します。
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アパレル業界におけるAIの今後を予測する
今後アパレル業界におけるAIの導入は加速度的に進んでいくことでしょう。なぜならAI市場が急速に成長しているからです。
ITR Market View:AI市場2020の調査では、2021年現在の約600億円から2024年の900億円以上の成長が見込まれています。
Meticulous Research社の分析でも、小売業界のAIマーケットは2027年までに2兆円を超える規模まで成長すると予測されています。
しかし、AIをだた導入すればよいわけではありません。
今後のトレンドにあったAIシステムを導入し、活用していく必要があります。
アパレル業界のAIトレンドとは
まずリアル店舗のAIトレンドについて見てみます。これからはリアル店舗のスタッフ不足に対処するため、業務と人員の効率化が進むでしょう。
対話型AIデジタルヒューマンなどのアバター接客が主流になり、無人店舗が増えてきます。店舗に訪れた人を動線分析カメラで解析し、AIによるマーケティングが定着していくのです。
ECのAIトレンドはどうなるでしょうか。今後のECではバーチャル試着室が一般化します。さらにオンラインで洋服を購入する際、AIやVRを使ってファッションブランドやデザイナーとのコミュニケーションを取ることが可能になるかもしれません。
近い将来リアル店舗の役割は大きく変化します。今までは店員からのサービス、商品の購入がメインであったのが、ECへの動線という役割を担うことにもなります。消費者はサービス体験と購入を、リアル店舗とECどちらでも楽しめるようになるのです。
今後のアパレル業界はAIを活用しつつ、サービス提供のオムニチャネル化を進めていかなければなりません。リアル店舗、EC、SNS、AI解析などを連携させたデジタルコミュニケーションを充実させていく必要があるでしょう。
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最後に
アパレル業界の課題は、需要予測が外れる、オフラインとオンラインでの接客です。
AIによる時系列分析や画像認識分析を活用することによって需要予測の精度を上げていけます。オフラインとオンラインでの接客という課題については、対話型AIデジタルヒューマンなどAIアバター接客の導入で対処できるでしょう。
「たくさんの事例があるけど自社のニーズとは違う」と感じるかもしれません。たしかにAIを導入すべき分野、活用できる分野は会社ごとに違います。そのためAIシステムを自社のためにカスタマイズしてくれるベンダーを探す必要があります。
株式会社CBAはクライアントの要望を丁寧にヒアリングしながら、パートナーとして製品のカスタマイズを提案していきます。海外で実績を積んだAIアバター接客、AIを活用した問い合わせ管理システム、AIと連携できるコンタクトセンターシステムを運用してきましたので、アパレル業界が抱える独特な課題の解決に貢献できます。
AIを導入することで、今まで以上にお客さまへ喜ばれるファッションの提案をし、他社以上に優れた接客を行なっていきましょう。
CBAエンジニアによるお客さまサポートの舞台裏 - TPIJ by CBA |
参考URL:
https://ledge.ai/eg-ai-case-1121/
https://ai-products.net/7172/demand-forecasting-service-for-personal-ai-sensy-introduced-in-the-apparel-industry/
https://digitalhumans.com/blog/digital-human-broadens-fashion-accessibility-offering/
https://digitalhumans.com/blog/nz-fashion-week-gets-an-ai-powered-digital-human-supermodel/