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AIと人間(Part 1):AIにできること・できないこと、そして人間にできること。

カスタマーサービスや顧客対応といった「顧客接点」を軸とする現代のビジネスにおいて、極めて重要な役割を担っているコンタクトセンター。顧客対応の最前線に位置する顧客接点と言っても過言ではありません。

しかしコンタクトセンターにとって今は、そんな簡単な時代ではありません。お客様のカスタマーサービスに対する期待はとどまるところを知らず、24時間体制のサポート、即時応答が当たり前となっています。一方で、労働力の確保やコストの削減というビジネス課題があります。さらに悪質なカスタマーハラスメント(カスハラ)など、オペレータに大きなストレスや負荷がかかってしまうケースも急増中です。

こうした背景にもかかわらず、コンタクトセンターやBPOには、これまで以上にスムーズで質の高い顧客体験の創出と提供が求められています。

海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、18年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニューが解説します。

やっぱり、AIだよね?

多くのコンタクトセンターではこれまで長きにわたり、音声やメール、チャットといった特定のチャネルにオペレータが割り当てられるという、中央集権型のモデルで運営されてきました。しかしこうした従来モデルでは、以下のような課題が顕著となります。

こうした問題や課題を抱えた企業やBPO、コンタクトセンターが、効率化と柔軟性、そして生産性の向上を求めて発展著しいAI技術に熱い注目を寄せるのは、極めて自然な流れと言えます。

確かにAIは今や、カスタマーサービスのワークフローやシステム構築に欠かせない存在です。もはや時代は、「AIを導入したほうが良いのか否か」ではなく、「AIを導入していかに活用するか」という局面に入っています

実際、HubSpotが実施したカスタマーサービス事業者に対する最近の調査では、回答者の78%が「AIや自動化によって、より重要な業務に時間を費やすことができるようになった」と回答しています。

CCaaS(Contact Center as a Service)の現状を調査したForresterのレポートでは、「AIはもはや単なる検討事項というところにとどまるものではなく、セルフサービスから対応後分析に至るまで、差別化されたCCaaSの提供要素すべてに浸透しているのが現状だ」と述べられています。

また生成AIにより、サポートコンテンツの作成が迅速化し、回答が自動的に生成され、顧客対応内容をより良く分析して最適化することにより、フィードバックのルーティングが改善されています。将来的には、カスタマーサービスや顧客接点においてAIがさらに多くの、そして大きな効果をもたらす可能性が期待されているのも事実です。

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AIにできること

AI技術とそれに基づくAIソリューションにより、コンタクトセンターの運営は数年前とは大きく異なっており、今やAIは欠かせない要員になっています。「AIにできること・得意なこと」として、以下の4つが挙げられます。

反復的な業務の自動化

データ入力やスケジュール管理、品質保証など、コンタクトセンターには手作業で実施するには時間がかかるものの、重要な業務が多々発生します。AI技術は、これらのルーティーンワークを自動化することで、オペレータやSVが複雑でより人間の対応が必要な業務に集中できるようにします。

オペレータに対するコーチングとパフォーマンスの向上

AIベースのソリューションでは、顧客とのやり取りを逐一モニタリングして、オペレータの対応記録を分析することでパフォーマンス評価を実施します。これにより、SVやマネージャーはメンバーに対して具体的かつデータに基づいたフィードバックを提供できるようになり、すべての対応をもとに評価されるようになります。

セルフサービスの向上

ボストン・コンサルティング・グループが2022年に実施した調査によると、カスタマーサービスにおけるリーディングカンパニーの95%が、今後5年間のうちに顧客対応はほぼAIボットに取って代わられるという予測をしています。

コンタクトセンターの多くはすでにAIボットにチャットボットを導入・運営しており、ルーティーン的な問い合わせに対応したり、顧客を最適なリソースへナビゲートしたりしています。また生成AIの発展により、チャットボットは自然言語による問い合わせ対応能力が向上し、より多様な問題への対処が可能になってきています。

これにより、センターにおける対応(通話)時間が減少し、コストの削減とオペレータの効率的な業務時間の使い方につながっています。

パーソナライズされたサービスの提供

マッキンゼーの調査によれば、71%の顧客が企業に対してパーソナライズされた対応を期待しています。

顧客データから実用的なインサイトを抽出することのできるAIは、顧客とのやり取りをモニタリングしてリアルタイムで顧客の感情を分析したり、オペレータによる顧客ニーズの理解を深めたりします。

このように、AIは膨大なデータを分析してインサイトを抽出したりテキストを要約したり、生成AIではそこからFAQやコンテンツの生成や対応のサジェストなど、多岐にわたるサポートでオペレータを支援します。最終的には顧客体験や対応品質の改善、顧客満足度の向上を通じて、ブランドの信頼性や顧客ロイヤルティの向上まで、AIのもたらすベネフィットは非常に魅力的です。

オペレータはいらない?

となると、AIをどんどん業務に活用して生産性を向上すれば、オペレータは必要なくなり、コンタクトセンター業務やカスタマーサービスそのものがAIに取って代わられる…そんな予測が立っては消えている昨今です。

確かにAIは、センターの人員を増加することなく、より多くの業務を遂行するのに役立っています。多くの企業で、例えばQAオートメーションなどにAIを導入することで、これまでの限られた人員でも業務を回していけるので、不必要に人員リソースを増加させる必要はないということがわかってきました。AIはルーティーンワークに必要な時間と人的労力を削減することが可能なため、コンタクトセンターの本来的な役割を変えつつあります。言い換えれば、AIは、人間が本来得意とする業務や、時間をかけるべき業務に費やす時間を増やしていることになります。

しかしそれでも、AIは万能ソリューションではありません。AIを導入して運用するだけで、カスタマーサービスの全てを任せることは現時点で不可能です。AIを導入してその効果を最大限活かすためには、人間によるシステム構築が必要となり、併せて発生する課題を克服しなければなりません。

AIにできないこと

AIは確かに素晴らしい技術で大きな可能性を秘めていますが、AIがカスタマーサービスや顧客接点においてできないことにも注目してみましょう。

カスタマーサービス全体のフル自動化

自然言語に対応できるAIチャットボットの能力の高さにより、カスタマーサービスのすべてをAIで実施できるというのは完全な誤解です。確かにAIチャットボットが前線に立つ機会が増えたものの、そういったAIチャットボットやAIを搭載したカスタマーサービス・ツールを作成するいう文脈において、人間はこの全体的なループの中に残り続けるはずです。

加えて、そうしたボットやツールを管理し、効果的な運用ができるように設定し、学習を遂行するという重要な役割を負うのも人間です。生成AIをベースとしたカスタマーサービスでは、FAQ作成や構築の自動化や複雑な対応分析など多くのことが可能となります。

しかし、さまざまなシステム間での技術統合の管理・最適化など、人間の関与が求められる部分というのは多分に存在しています。とくに市販の大規模言語モデル(LLM)を活用する場合、生成された出力が安全で正確であることを確認するためのプロセスが必要です。これがないと、ハルシネーションによる誤った出力の生成をコントロールできなくなってしまいます。

ポイント:

その場の状況に応じた臨機応変な解決策の提示

AIは膨大な量のデータを分析して調べ上げ、「意味」を理解することに優れているし、パターンを認識するのもお手の物です。生成AIの登場により、ますます会話的になっていくAI。でも一つ覚えておかなければならないのは、「AIは人間が与える情報によって制限される」という視点です。

それは、顧客の問題解決を支援するために複数のデータソースから情報を組み合わせて、合成したり生成したりすることは可能ですが、その場の状況や背景に応じて臨機応変に解決策をモディファイして提案することはできません。

例えば特定のタイプの問題を処理するように学習されたAIチャットボットを、まったく異なるタイプの問い合わせに対応させることはできません。その前に追加トレーニング・学習が必要となるからです。もちろん将来的には、シナリオを検討して学習範囲外の行動を決定することができる汎用人工知能(AGI)がこの問題を解決するかもしれませんが、時期や実現可能性についてはいまだ議論の範囲を出ません。

ポイント:

エラーやミスを完全になくす

顧客接点やカスタマーサービスにAIを活用するには、「設定」が必須です。AIは業務に知性をもたらしますが、ワークフローに潜んでいるエラーやミスをすべてなくすことはできません

実際、AIは新たな可能性と効率性、生産性の向上をもたらしてはいるものの、新たなエラーのリスクももたらしています。とくに、市販のLLMをベースとしたチャットボットには、学習用のトレーニングデータの問題が常につきまといます。こうしたLLMに使用されているトレーニングデータは不完全な情報や偏見を含む、インターネットからスクレイピングされたコンテンツに基づいているため、差別的な言動を引き起こす可能性は否めません。

事実、MicrosoftのAIチャットボット「Tay」が人種差別的な発言をしたため、公開から24時間以内に削除されたという事例があります。またハルシネーション問題も見過ごせません。これは生成AIが、不正確な回答をあたかも事実であるかのように生成するという現象で、パターンを用いて次の単語を予測するという生成AIのメカニズムに起因しています。テキスト生成に外部情報の検索を組み合わせることで回答精度を向上させるRAG技術がこの問題には有効ですが、依然として修正が難しいと考える研究者やエンジニアもおり、大きな課題となっています。

ポイント:

ハルシネーションを心配せずに運用できる企業向けAIプラットフォームGIDR.ai

新たな課題やニーズなしでワークフローを簡素化すること

AIは、ワークフローを簡素化すること自体は可能です。サポートコンテンツの迅速な作成やより多くの顧客対応まで、AIが活きる部分は多岐にわたります。忘れてはいけないのは、同時に新たな課題を生み出すということです。

AIの導入には、データ、分析、クラウドなどの技術スタックが必要となり、これらの効果的な連携にはそれこそ高度なスキルと専門知識、効率性が求められます。

さらにデータ問題やAIがハルシネーションを引き起こすリスクに対処するには、追加の評価プロセスが必要となります。生成AIが登場する以前、顧客に提示される回答は手動で作成されていたため、オペレータは正確にその内容を理解していますが、生成AIでは自動で出力が生成されます。しっかりと評価するプロセスがなければ、危なっかしくて顧客対応に生成AIを活用するのは難しくなります。人間によるチェック機構がやはり必要となるのです。

ポイント:

人間でなきゃダメなこと

たしかに近年コンタクトセンターでは、生成AIや会話型AIの導入が著しく増加しています。AI技術の持つ可能性や能力を見れば、そうなるのも自然な流れです。

しかしながら、大半のコンタクトセンターにおいて、そうしたAIはシステムの中にシームレスに取り込まれて運用され、カスタマーサービスや顧客対応を自動化しているというよりは、既存システムに後付けのようにAI機能をインストールしているだけ、という実情も否めません。顧客との会話自体を自動化し、AIが対応に行き詰まったときに人間のオペレータにルーティングする、といった具合です。

また一部のセンターやBPOでは、既存のCCaaSベンダーに依頼してすぐに使える会話型AI機能を活用するといった傾向もあります。ボルトオンで提供されるそういった機能を、単にポン付けして使うというスタイルでは、AIが単なる歯車に過ぎない使われ方をしており、従来の運用モデルから脱出しきれていません。

AIは大量のデータを分析したり、反復的に発生するルーティーン業務を自動化したりすることに長けている一方、人に任せた方が良い複雑な問題や業務、つまり「人間でなきゃダメなこと」はまだたくさん存在しているのです。

例として以下が挙げられます。

人間のオペレータは、複雑な人間の感情を「感じ取り」「理解して」、状況や顧客の感情に応じて声のトーンを調整しつつ、顧客対応の全体的な印象を細かに調整する。

生成AIは人間らしい自然な表現を交えた応答を生成できるが、人間のように批判的に考えているのではなく、入力に基づいて最も論理的な出力を生成する。対して人間は、会話の文脈、意図、ニュアンスを理解し、プロンプト指定ではなく「状況に応じて」スムーズに適応し、複雑な問題を効果的に解決へと導く。

トレーニングデータの学習とプロンプト(文脈が増えれば計算能力とコストも増える)に依存してしまうAI(LLM)に対して、人間の記憶にはこうした制約はない。明示的な知識(製品知識や情報など)と暗黙知(経験に基づいて取得した知識)を活用して、顧客を効果的にサポートすることができる。

最後に

顧客接点やカスタマーサービスにおいては、AIがフル活用できるエリアが多分に存在している一方で、AIだけでは対応しきれない状況が多く残されていることがわかります。共感力や問題解決、文脈理解といった人間に部があるスキルにおいては、人間が依然として重要な役割を果たしています。

ということは、お互いの歩み寄りでカバーし合えるのでは?という、前向きな質問が浮かんできます。そこで注目されるのが、人とAIのコラボレーションという方向性です。AIと人間がお互いの強みを組み合わせ、より効果的で洗練された業務を実現させるというアプローチです。

次回、「AIと人間(Part 2)」にて、このアプローチについて深堀りしていきます。「ヒューマン・イン・ザ・ループ」、これが次回のキーワードです。

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