人は、一人で生きていくことはできません。社会を形成し、その枠内で様々なコミュニティを形成して生活しています。しかしそのフレームワーク内のコミュニティが円滑に運営されなければ、住民は安心して生活することができません。
政府や自治体は、コミュニティの円滑運営を統括してナビゲートしていくという役割を負っています。
もちろん公共サービスなどは有権者による税金で成り立っているものではありますが、コミュニティの住民に対する「カスタマーサービス」が良ければ、そのコミュニティの価値は向上しますし、住民の信頼度も上がっていきます。したがって政府や自治体といった行政が提供する「顧客体験」は、地方創生や地域活性化において、非常に重要なファクターと言えます。
とはいえ、のべつまくなしに予算をかけることができるわけではありません。予算は合理化の上に成り立っており、リソースも限られています。1円たりとも無駄にすることはできません。
納税者からすれば、自分たちの払っている税金がきちんと管理された上で無駄なく使われているかどうかは常にモニタリングの必要があります。それでいて行政側に割り当てられている予算は限られています。
行政として、レベニューを最大化しつつ、有権者である住民とのコミュニケーションを最適化して、住民の満足度やその都市に対する魅力度を高めるために考えられる一つの可能性を、今回のエントリーでは考えたいと思います。
それは、自治体向け顧客接点として「クラウド型コンタクトセンターを導入する」というコンセプトです。
海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、16年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニューが解説します。
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「行政」と一口に言っても
単位が様々な「行政」ですが、ここでターゲットにしたいのは、県や市といった地方自治体であり、具体例としては県庁や市役所といった単位となります。中央政府と比べて地方自治体は、住民の日常生活とより深く関わっており、住民という「顧客」とのコミュニケーションが優先されます。
地域社会において、生活上の懸念や不満を声に出し、その声をしっかりと吸い上げて公共サービスに反映させるには、住民とのコミュニケーションが欠かせません。
地方自治体は、一般的に考えられているよりも数多くの団体をカバーしています。たとえば、郡や市、区、町、そして特別区や学校などの教育関連団体やシステムなども入ってきます。こうした単位を考えると、自治体は、多数の住民やユーザーと「つながる」必要があることがわかります。
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自治体における「顧客接点」としてのコンタクトセンター
住民とつながる必要のある自治体にとって、スムーズなコミュニケーションを提供することは、非常に大切です。人と人とのコミュニケーション手段が多様化している現代ですが、コロナ後の企業・顧客間コミュニケーションでも顕著なように、昨今ではコミュニケーションチャネルが多様化しており、人々は各々自分の好みのチャネルでコミュニケーションを取ります。
電話やチャット、SMSやSNSメッセージングなど、自治体が抱える「顧客」はあらゆるチャネルを利用しているので、自治体側に信頼性の高い安全な双方向型コミュニケーション手段またはシステムが導入されていると、住民の利便性は格段に高まります。
また住民側からすれば、多くの人々は複数のデジタルチャネルを通じたコミュニケーションに慣れ親しんでいるだけでなく、そうしたコミュニケーションを望んでいます。
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たとえば「新型コロナの影響で変わる消費者の問い合わせ動向調査」(モビルス株式会社)によりますと、「新型コロナの影響により、約4割(39.3%)が、企業や店舗、自治体などへの問い合わせ回数が増加、問い合わせ手段に変化があった人も約4割(36.5%)」という結果が出ています(円グラフを参照)。
したがって、企業だけでなく自治体にも「多様化したチャネルを通じたコミュニケーション」に対応するニーズがあることがわかります。
企業と異なる点として、予算は有権者によって決定されることが挙げられます。自治体は企業と比べて予算はタイトかもしれません。しかし、クラウドベースでオムニチャネル対応が可能なシステムを利用することで、予算内で摩擦の少ない顧客接点を実装し、求められている住民のコミュニケーションニーズに対応できます。
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自治体における「顧客接点」と「信頼」の関係
自治体が地域社会で公共サービスを提供する際、「信頼」を確立することはとても重要です。長時間待たされる、質問しても回答が戻ってこない、たらい回しにされる、担当者の経験不足で問題が解決しないなどといった摩擦は、住民の信頼を著しく損ないます。
企業に対する透明性やコンプライアンスなどを調査して分析するのは一昔前よりも容易となっており、それは自治体も例外ではありません。有権者としての住民の声は地域社会においてこれまで以上に力を持つようになっており、ソーシャルメディアを通じて情報はすぐに拡散します。
したがって過去と違っているのは、住民が自分たちの懸念を声に出して主張できる環境が、技術的に整っているという点です。この事実を考えると、自治体と住民の間に「信頼感のある顧客接点とコミュニケーション手段」を維持することは、信頼感を高める強力な方策となります。
そこで、「顧客接点としてのコンタクトセンター導入」を、
- 住民満足度
- コスト
- 効率性
- オムニチャネル
という、4つの視点で考えてみたいと思います。
「住民満足度」という視点
住民が自治体に問い合わせる主な理由の一つとして挙げられるのは、問題の改善や現状の変化を期待した「苦情」でしょう。そこにはもちろん、迅速な問題解決に対する期待が込められています。
問い合わせをして、すぐに回答が得られなかったりする場合、住民のストレスはフラストレーションへと変化してしまいます。コミュニケーションの流れがきちんと設定できていないと、問題解決を担当する当事者までの道のりが不透明になってしまい、怒りを引き起こします。そうなると、会話に緊張感が生まれ、そのストレスからどの当事者もハッピーになれず、問題も解決しないため状況は悪化してしまいます。最終的に残るのは自治体に対する不満です。
しかしこうしたネガティブ要因は、優れた顧客接点ソリューション、たとえば、コンタクトセンター技術を導入することで相当に改善することができます。スムーズなコミュニケーションを展開できる顧客接点を備えていることで、それ自体が良いサービスとなるだけでなく、地域社会との強い絆とつながりを維持することができるのです。
そうすると、住民の感じる自治体に対する満足度は向上し、結果として地域社会の地位や住みやすさ、魅力度を高めることにもつながっていきます。
「コスト」という視点
企業に限らず、どの自治体もコストには敏感でしょう。限られた予算を賢く使うという点を考えると、新たなソリューションやシステムの導入には二の足を踏んでしまいがちですが、ここでも技術面で打開策があります。
クラウド型コンタクトセンターは、オンプレ型に比べて、導入や運用維持コストを抑えることが可能です。またクラウド型の柔軟なスケーラビリティや拡張性により、必要な機能を必要なタイミングで実装できます。
たとえば、業務量が増加する一定の時期に、センターを増設するなんていうことも可能です。
また統一化された使いやすいレポート機能があれば、業務量のピークを予測できるだけでなく、音声・メール・チャットなどのチャネルのやり取りをモニタリングできます。そうした分析は、今後の対応品質の改善に役立てられるため、自治体としての満足度と信頼度の向上につながります。
「効率性」という視点
顧客接点としてのコンタクトセンター導入のベネフィットは、満足度や信頼の向上だけにとどまりません。システムやソフトウェアの統合により、職員の業務効率化が期待できます。
多くの自治体では、住民のニーズに答えるため、専用設計のソフトウェアやシステムが使用されています。例として、カスタマイズされた記録管理システムや、アクセス制限を実現するセキュリティシステムなどです。このあたりがしっかりと統合できるコンタクトセンターソフトウェアのベンダーを見つけられるなら、これまでの業務効率を低下させることなく住民対応を続けていけます。
たとえば、クラウド型コンタクトセンターソフトウェアベンダーのBright Pattern(ブライトパターン)は、そういったベンダーの一つであり、自治体にとって力強い味方となり得ます。
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「オムニチャネル」という視点
あらゆるコミュニケーションチャネルをシームレスにまたぎ、途切れることのないコミュニケーションを実現できる「オムニチャネル」は、自治体にとっても大きなプラスです。
オムニチャネルコンタクトセンターでは、住民は好みのチャネルで問い合わせることができ、別のチャネルに移動したとしてもコミュニケーションが潰えることがありません。結果として、素早い問題解決が実現することになります。
また、受信がメインのインバウンドコミュニケーションだけでなく、アウトバウンド発信も可能となるため、自治体からの重要なお知らせなど、住民に積極的にリーチすることができるようになります。
オムニチャネルコンタクトセンター導入には、以下のような6つのメリットがあります。
低コスト化・CX改善:クラウド型であれば、ハードウェア保守や各種メンテに伴うコストを抑えることができるだけでなく、顧客体験の改善につながります。
効率的なルーティング:正確なルーティングにより、迅速に問題解決担当者につなぐことができます。
住民満足度の向上:AIやチャットボット、自然言語理解などの高度なテクノロジーにより、人間との対話が機械でもスムーズに実現できます。そのため、待ち時間の削減・公共サービスの迅速化につながります。
高スキル職員の活用:IVRの活用により、住民自身によるセルフサービスを実現できます。よって高スキル職員が、ルーティーンワークから解放され、より複雑で経験の要求される依頼に対応することが可能になります。さらに、AI技術を導入することで、このIVRを会話型IVRに変換し、パーソナライズされた公共サービスの実現にもつながります。
プライバシー:個人情報の保護は、自治体においては最優先事項です。PCI, TCPA, SOC2, HIPAA, GDPRなどに準拠しているソリューションであれば、セキュリティ面でも住民に安心してもらえます。
継続的な改善性:優れたレポート機能により、コンタクトセンターにおけるすべてのチャネルでのやり取りがモニタリングできるため、透明性やコンプライアンスが確保できます。公共サービスに反映することで、継続的な品質の改善を図れます。
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自治体にも「顧客接点」としてのコンタクトセンターを
自治体に設ける顧客接点のベストプラクティスとして、コンタクトセンターの導入は、ぜひとも考えてみたい一つのコンセプトです。
信頼性や拡張性が高く、現実的なコンタクトセンター技術により、自治体のサービス品質の向上と地域社会における住民の満足度を向上することが可能となります。
自治体として非常に重要な、住民との信頼感の構築、公共サービス提供における効率性の維持、そして予算との兼ね合いという3つのポイントをおさえつつ、顧客接点としてのコンタクトセンター導入を検討するのは、一考の価値がある方向性でしょう。