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聴覚障がい者の本人確認をセキュアにバリアフリー化する方法3つ

Adults Learning Sign Language For Deaf Disabled Collage

「お電話口の方は○○様ご本人様でしょうか」。多くの人は、クレジットカード会社や保険会社、銀行といった場所への電話時に、前述のような本人確認をされた経験があるでしょう。追加で生年月日や住所、連絡先を尋ねられることもあれば、本人である旨を伝えれば終わるときもあります。いずれにせよ、必要な音をすべて「きこえる人」は、電話での本人確認にとくにストレスや不便さを感じないかもしれません。

しかし、聴覚障がいのある「きこえない人」は、電話そのものにも、電話での本人確認にも大きなバリアを感じてしまいます。いたるところでバリアフリー化が目指され、実現している近年ですが、「電話のバリアフリー化」は実現できているでしょうか。電話は「きこえる人」だけのチャネルになってしまっていませんか

この記事では「本人確認」が必要な業界で、電話のバリアフリー化をよりセキュアに、よりスムーズに実現する方法を3つ紹介します。

海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、17年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニューが解説します。

聴覚障がい者が「本人確認」に感じるバリア

はじめに、聴覚障がい者が電話での本人確認について感じるバリアについて考えましょう。この記事ではおもに「バリア」と表現しますが、実際に聴覚障がいを抱えている方には「差別」と認識されるということを忘れないでください。具体的な事例を一つ紹介します。

大阪府が公開している「障がいを理由とした差別と思われる事例」には、まさに電話での本人確認にまつわる以下のような意見が寄せられていました。

聴覚障がい者に代理電話を依頼され電話をしたが本人と確認が取れないとの理由で受け付けてもらえなかった。電話口で聴覚障がい者本人に本人の名前、住所、生年月日を言ってもらい「私の代わりに今から○○さんが要件を言います。」と言ったにもかかわらず話ができなかった。結局、代理電話をあきらめて相手の所に電車で行かなければならないことになり、無駄な時間とお金を費やしてしまった。

もちろん、電話越しの本人確認に関してすべての企業が同様の対応をしているわけではありません。聴覚障がい者本人が必要な情報を発話できるのであれば、本人と認めることにしている企業もあることでしょう。とはいえ、もし本人確認に関して同じような対応を取っているなら、すぐに調整しましょう。

聴覚障がい者にとって「電話で本人確認をさせてもらえない」はただの手続き上の不便さにとどまらず、「本人なのに聴覚障がいのせいで本人であると認めてもらえない」と同義の「差別」になり得ます。

企業がお客さまを守るために行っているはずのセキュリティ面でのバリアが、お客さまと企業の間の精神的バリアを築いてしまい、かえってお客さまを傷つけてしまう事態へ発展することを忘れないでください。当然、顧客体験の向上やロイヤルティの獲得は難しくなるでしょう。

公共インフラとなりつつある「電話リレーサービス」

私たちは、倫理的にも企業のリスクマネジメントという観点でも、電話のバリアフリー化を軽く考えるべきではありません。とはいえ、現状で何もされていないわけではありません。聴覚障がい者が電話を利用するための一つの策として、「電話リレーサービス」が公共インフラとなっています。

「電話リレーサービス」とは:「電話リレーサービス」は、聴覚や発話に困難のある方と聴覚障がい者等以外の人との会話を、通訳オペレータが手話・文字と音声を通訳することにより電話で双方向につなぐサービスです。

従来の電話リレーサービス制度は、電話会社全体で費用を応分に負担していました。しかし2020年に6月に「聴覚障がい者等による電話の利用の円滑化に関する法律」で公共インフラとして制度化され、2021年7月1日より利用者負担(2023年は一番号につき月額1.1円)となりました。

2018年の時点では、世界25カ国で電話リレーサービスが利用されています。
総務省より

電話リレーサービスの問題

しかし、残念ながら電話リレーサービスにも以下のような問題点が存在していることは否定できません。

社会的認知度が低い

一般財団法人日本財団電話リレーサービスが2023年3月に公開している「電話リレーサービス認知度調査結果」によれば、電話リレーサービスの社会的認知度はわずか21%です。前年度(17%)からは認知度が上がっていますが、劇的に上がったとは言えない数値です。

社会的認知度が低いと、以下に続く問題点がより深刻化していきます。

電話リレーサービスに対応している企業が少ない

引用:NPOインフォメーションギャップバスター
引用:NPOインフォメーションギャップバスター

NPOインフォメーションギャップバスター(以下IGB)によるアンケート結果を見ると、電話リレーサービスを利用してもなお本人確認ができなかったり、そもそも電話に出てもらえなかったりする例が少なくないことがわかります。約半数が電話リレーサービスを使用しても本人確認ができなかったと回答していることは衝撃ではないでしょうか。

これはひとえに、社会での認知度が低く、「電話リレーサービスへの対応」が普及できていないからです。電話リレーサービスを受電することはできても、そのまま本人確認ができるプロセスが確立されていないのであれば、聴覚障がい者にとってはあまりメリットになりません。

引用:NPOインフォメーションギャップバスター
引用:NPOインフォメーションギャップバスター

同じくIGBによるアンケート結果を見ると、電話リレーサービスによる本人確認を断られた業界の多くは金融・保険業界です。

顧客からの信頼や信用がことさら大切な業界にとって「電話リレーサービスのどこの事業者からかかってきているのか」「本当に電話リレーサービスからなのか」「いたずらやなりすましではないのか」といった懸念から、どのような電話にも慎重に対応せざるを得ません。

また、公共インフラと言えど電話リレーサービスによる第三者の介在を嫌がる顧客がいることも事実ですから、電話リレーサービスを100%信用して活用することがベストというわけではありません。

業界としての「信用」を保ちながら、聴覚障がい者に対するバリアフリー化も実現するとなると、バランスを取るのは非常に難しくなります。

手話通訳士のリソース不足

電話リレーサービスの継続的な運用には、言うまでもなく「手話通訳士」が必須となります。しかし、手話通訳士は決して人口の多い職種でありません。

総務省によるデータでは、厚生労働省認定の手話通訳技能認定試験に合格した手話通訳士の資格所有者は、2019年時点でわずか3,695人です。そのうえ、手話通訳士の平均年齢は55.3歳と比較的年齢層が高いため、人材不足に陥っていく懸念と、若年化の実現が難しいとの懸念は拭えません。

電話リレーサービスの認知度向上も必要ですが、同時に手話通訳士という仕事の認知向上や労働環境の見直しも図る必要があるでしょう。もしアクティブに働ける手話通訳士が慢性的かつ深刻な人材不足に陥った場合、業界に限らず電話リレーサービスの活用が難しくなり、突如としてサービスストップまたはサービス終了に追い込まれる可能性もあります。

聴覚障がい者の本人確認をセキュアにバリアフリー化させる方法3つ

私たちは、電話リレーサービス以外で聴覚障がい者の本人確認を行う手段や、電話リレーサービス+αで本人確認時のセキュリティや利便性をアップできる方法をもつ必要があります。

ここからは、聴覚障がい者の本人確認をよりセキュアにバリアフリー化する方法を3つ紹介します。すべての方法に共通するも導入メリットは、聴覚障がい者に限らず遠隔で行われる本人確認のすべてを、よりセキュアでよりスムーズにできるということです。ではさっそく見ていきましょう。

デジタル認証

顔認証や指紋認証といった生体認証や、電子署名などに代表されるデジタル認証を、あらゆる業界でもっと手軽に展開できれば、本人確認における精度をより向上させることができます。電話越しで個人情報の確認と認証を行うよりも、ワンランク上のセキュリティ強化を図ることが可能です。

現在ではスマートフォンやパソコンでの生体認証がかなり一般化しているので、本人確認時にお客さまが持っている端末の生体認証を使用して手続きを進めていくことはかなり現実的な方法であると言えます。

オンラインや電話での対応時に最もリスクとなる「なりすまし」は、顧客とスタッフの双方で本人確認・認証ができればリスク削減が可能です。とくに「ゼロ知識証明」を実現できれば、オンラインの詐欺リスクを90%削減することもできます。銀行やクレジットカード会社、保険会社といった企業側には、「顧客が本人である」という認証結果のみが届くので、双方にとってストレスフリーでセキュアな対応が実現します。

「ゼロ知識証明」とは:「ある秘密を持っていることを、その秘密に関する情報を明らかに提示することなく証明する」ゼロ知識証明。つまり、パスワード自体を相手に直接明かすことなく、自分がパスワードを知っているという事実を証明するというアプローチです。証明に必要とされる営業機密データやプライバシー情報といった、「証明する側が他者に明かしたくない知識」を伝えないという意味で、ゼロ知識と呼ばれています。

ゼロ知識証明に加えて電子署名機能もついていれば、セキュリティと顧客からの信頼性を強化していけます。本人認証された上での電子署名は、いざというときの法的効力も持つからです。

電子署名付きの文書が法的効力を発揮し、証拠として利用されたもあります。
例:東京地裁令和1年7月10日 貸金返還等請求事件判決

生体認証や電子署名は、「電話リレーサービスによる第三者の介在が怖い」と感じる聴覚障がい者が安心して各種サービスを利用するのにも役立ちます。デジタル認証は基本的に第三者の介在がないからです。企業から安心と安全を継続的に提供しつつ、顧客からの信頼を獲得していけます。

デジタル認証の活用を検討するにあたり、多くの企業が「導入しやすいシステムが良い」「どうせ導入するからには長く使いたい」といった希望を持っているでしょう。

たとえば、最新の顔認証とワンタイムパスワードによる「二要素認証」を活用すると、クラウドサービスでの利用、自社で使用中のクラウド環境やオンプレ環境での利用が可能です。顔認証に関するすべての個人情報を、自社だけで保管することができます。

また、Journey AI社が提供するような最新技術を提供し続ける「総合IDプラットフォーム」を利用することで、将来的に出てくる新たな認証技術にも簡単に切り替えていけます。「導入して1~2年で認証技術が時代遅れに…」なんてことにはなりません。

参考情報:軍事クラスのセキュリティレベルに準拠している「Journeyのゼロ知識IDプラットフォーム」はこちら

参考情報:「二要素認証」に関してはこちら

ビデオ通話

新型コロナウイルスのパンデミックを機にニューノーマルになった「オンライン接客サービス」。オンライン接客サービスは、聴覚障がい者の本人確認に有効な方法の一つです。

最新のオンライン接客ツールを利用すれば、ウェブ上または自社アプリ上でお互いの顔を見て本人確認が実現します。

聴覚障がい者は、本人確認のためだけにわざわざ店舗や窓口に出向く必要に迫られることが多々あります。そのようなときオンライン接客ツールがあれば、本来オフラインの環境で行っていた確認作業やサービスを、オンラインにて行うことが可能です。

オフラインの環境に手話通訳ができるスタッフがいたり、筆談したりするのと同じようにサービスを提供できます。

しかも、オンラインであればこそ「聴覚障がい者本人+家族と自社の手話通訳者あるいはスタッフ」あるいは「聴覚障がい者本人と自社スタッフ+自社の手話通訳担当」のように、環境やスタッフのスキル、人数などを顧客のニーズにパーソナライズできます。対応プロセスのすべてに手話通訳者がいなくても良いのであれば、1人の手話通訳者が聴覚障がい者の対応を同時にこなすことも可能です。顧客対応率は格段にアップします。そのうえ、画面越しにお互い直接顔を見ることができるので、これまでのように電話の音声のみで本人確認を済ませるよりも安全です。

コミュニケーションの開始が電話でもブラウザでも切り替え可能で、アプリのインストールも不要なツールを選べば、突発的に本人確認が必要になったとしても、エフォートレスな体験をお客さまに提供できます。

参考情報:金融・保険業界におすすめのオンライン接客ツールはこちら

チャット/FAX/メール

最後に紹介するのは、てっぱんでありつつ意外と普及しないチャットやFAX、メールでの本人確認です。「チャットやFAX、メールによる窓口を設けると対応が混乱してしまう」「どの方法にも個人情報をやり取りする上でリスクがある」など、さまざまな理由でチャットやFAX、メールと電話の併用がなかなか進みません。

各顧客への対応スピードやクオリティを維持するために、あえて多くのチャネルを設けないことは現実的な策です。まして顧客の大事な情報を預かる金融・保険業界においては、多岐にわたるチャネルで個人情報のやり取りを行うのは、情報漏洩や情報の誤送信といったリスクを抱えます。

誰でも自由に利用できるチャットやFAX、メールの窓口を設けることは、企業にとってマイナスとなりかねません。ですから、聴覚障がい者のための限定窓口として設定することを検討してみてください。「本当にそれで利用されるだろうか」と思われますか。

引用:NPOインフォメーションギャップバスター

既出のIGPによる「金融機関における電話リレーサービス活用実態の調査結果」を見ると、電話での本人確認を断られた聴覚障がい者が代替え案として希望しているのは、まさにチャットやFAX・メールでの対応です。

「きこえる人」は「きこえない人」の意見や要望を積極的に聞いて対応するようにしましょう。あくまでも顧客となる聴覚障がい者の福祉を第一に考えてできる限りの対応をしていくことが、顧客体験の向上やロイヤルティ獲得に繋がっていきます。「ユーザーファースト」とはよく言われますが、「きこえないユーザー」にとってのバリアフリー化を図ることも一つのユーザーファーストであるはずです。

メールやFAXでの特別対応を実施している企業の例:
SMBCファイナンスサービス 
チューリッヒ生命 

最後に

聴覚障がい者の本人確認におけるバリアフリー化に取り組むことは、顧客満足度や顧客体験の向上、ロイヤルティ獲得のみならず、「誰一人取り残さない」という原則に基づくSDGsに取り組むことにも直結します。それは、企業の対外的なブランドイメージにも関わってくるものです。決しておざなりにはできません。

しかし、何よりも大切なのは「企業がどれだけ聴覚障がい者の心身に寄り添えるか」です。聴覚障がい者が用いる手話は一つの言語であることを忘れないようにしましょう。東京オリンピックやインバウンドに備えて各企業が多言語対応によるグローバル化を図ったのと同じように、手話という言語への対応を強化していくべきです。

また、顔認証やビデオ通話によるオンライン接客は、これまでの電話のみで行われてきた本人確認をよりセキュアにかつスムーズに行うことにも役立ちます。メリットは聴覚障がい者への対応だけにとどまりません。ぜひ自社の今の本人確認のプロセスや手段について見直してみてください。

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