今やどの企業も必ずと言って良いほど運用しているFAQ。FAQの運用については「FAQの定期的な見直しは大切」「FAQを見直すことがCXの向上に繋がる」といった文言をよく目にします。なぜなら、FAQを整備していくメリットが日に日に多様化しているからです。
この記事では、時代と共にますます多様化するお客さまのニーズに応える点で、近年FAQが新たに獲得しているメリットについてご紹介します。
ご存知の通り、CX向上の施策としてFAQの整備以外にも多くのことが推奨されています。オムニチャネル化やチャットボットの導入といった他の取り組みと比べて、FAQ整備の優先順位はどこに位置付けられるのでしょうか。「取り組めること/取り組んでみたいことが多すぎて、どこから手を付けたら良いのか悩む…」というときにぜひ参考にしてみてください。
海外の最新コールセンターシステムやデジタル・コミュニケーションツールを、16年間にわたり日本市場へローカライズしてきた株式会社コミュニケーション・ビジネス・アヴェニューが解説します。
一般的なFAQのメリット
「FAQの新たなメリット」といえど、FAQが従来からもつメリットは、多くの人が認めるところです。そこで、まずは普遍のメリットについて3つだけ簡単にご紹介します。
問い合わせ件数/呼量の削減
お客さまの抱えている問題についてFAQに質問と答えがあれば、わざわざ電話やメールで問い合わせをする必要はなくなります。従って、FAQがあれば、チャネルの種類に関わりなく、問い合わせ件数そのものを削減することが可能です。問い合わせの件数が減れば、問い合わせ対応に割いていた人的リソースを別のところに割いていけます。
サポート可能時間の拡大・延長ができる
電話やメールでの有人対応を24時間365日行うのは、不可能ではないものの、スタッフにかかる負担は決して小さくありません。FAQがあれば、正確な情報に基づいたサポートをいつでもお客さまに提供できます。仮に夜中にお客さまが悩みや問題を抱えたとしても、夜の間中待つなんてことなく、問題解決へ取り組むことが可能になるのです。「待たせない」ことが、顧客満足度を上げることに繋がります。
自己解決率の向上と、それに伴う顧客満足度の向上
内容の充実したFAQによってお客さまが自己解決できれば、問い合わせる手間が省ける上、「電話で問い合わせたけど、オペレーターが出るまで待たされる」「メールでの回答が来るのが遅い」といった体験をさせることはありません。お客さまのエフォートレスなCXを実現しつつ、ひとつ目のメリットである問い合わせ件数の削減にも連鎖していきます。
多様化するニーズによって増えたFAQのメリット
先に挙げた3つのメリットは、今後も変わらないメリットでしょう。ここからは、近年の多様化する顧客ニーズによって、FAQがさらに獲得しているメリット7つについてご説明します。
FAQの整備がもつリアルタイムなメリットを把握できると、FAQの整備に取り掛かるタイミング、CXやCS向上のためにできる他の策との優先度について検討しやすくなるはずです。
FAQが整備されて充実すると…
- その他のチャネルを充実させたり、別のサービス業務に集中したりする環境が生み出せる
- カスタマーハラスメントの予防になる
- シニア世代のサポートに効果的
- サイレントカスタマー防止になる
- コールセンターの呼量をコントロールでき、ノンボイスチャネルを軸とする助けになる
- 継続的なテレワークにも有効
- 人員配置を見直せる
一つずつメリットを掘り下げていきましょう。
1. その他のチャネルを充実させたり、別のサービス業務に集中したりする環境が生み出せる
一つ目のメリットは、「FAQが直接的に持つメリット」というよりは、FAQによって自己解決率が向上し、問い合わせ件数が減った際に「連鎖的に生じるメリット」と表現する方が正確でしょう。
問い合わせ件数が減れば、現場には時間的・人的コストの余裕が生じます。すると、チャットやメールといった電話以外のチャネルの強化に着手しやすくなります。
この連鎖について、 株式会社DINOS CORPORATION のCECO 石川森生氏は、コールセンタージャパン2023年2月号で、実際に「ディノス」がFAQを強化した際の実績として述べておられます。FAQがいかにお客さまにとって実用的かがカギです。
2. カスタマーハラスメントの予防になる
5年以内に約4割の人が、コールセンターでカスタマーハラスメントの対応を行った(コールセンタージャパン2022年11月号より)と回答するほど、近年問題視されている問題です。何をカスタマーハラスメントとするのか、誰が対応するのかなど、用語の定義や対策マニュアルは企業によって異なります。
しかし,共通して言えることは、カスタマーハラスメントを予防したいこと、そして問題が発生したときには毅然とした対応を取るべきということです。この2つのポイントに対して、FAQは大事な役割を担っています。カスタマーハラスメントになり得る電話の数そのものを減らせることは、一つの予防策と言えるでしょう。
それだけでなく、「相談内容・事例によっては企業として一切対応できない」旨をFAQに明記することも必要です。
もし理不尽な要求を電話でされるとしても、要求に応じられないことをFAQに記載していることを盾として、断固とした対応を取りやすくなるからです。
企業が毅然とした対応を取る姿勢を見せると、カスタマーハラスメントを寄せ付けない効果も期待できます。場合によっては、見やすくて充実したFAQが、焦ったり怒ったりしているお客さまに一度落ち着いていただくきっかけになるかもしれません。
3. シニア世代のサポートに効果的
今では、シニア世代にもデジタル化の波が押し寄せています。
MMD研究所が、2022年の9月に発表した調査結果では、94.0%のシニア世代がモバイル端末を所持しており、そのうち89.0%はスマートフォンを利用しています。加えて、コールセンタージャパン2023年2月号によると、シニア世代が利用しているアプリケーションのうち、LINEに次いで利用率が高いのはYouTubeです。
つまり、シニア世代がもつ自己解決のためのツールとノウハウはますます増えているのです。私たちが一方的なイメージでもって、シニア世代の自己解決力を軽視してはいけません。「シニア世代のお客さまもFAQを見る」ということを前提に、誰でも見やすく分かりやすいFAQを整備することは大切です。
分かりやすいFAQの一案として、FAQ内に動画コンテンツを入れるのは効果的でしょう。YouTubeをよく使用しているシニア層のお客さまからすれば、文字で長々と説明されるよりも、動画で視覚情報として悩みを解決できた方が、よりエフォートレスであると言えるからです。
「FAQで完全解決を目指す」をテーマに、文字だけではなく写真やイラスト、動画といった視覚情報をFAQに導入することも検討してみてください。
4. サイレントカスタマー防止になる
よく言われることですが、コールセンターはあくまでも「最後の砦」的存在です。その上、時代と共にコールセンターへ「電話をする」という行為が避けられる傾向にあります。
株式会社KDDIエボルバによる「企業とお客さまとのコミュニケーション実態2022」によれば、20~30代は電話に対して抵抗感を感じつつあるようです。この傾向はますます強くなっていくことでしょう。対して40代以上は、チャットボットに対して抵抗感があります。
各世代に抵抗感を与えることなく利用してもらえる自己解決ツールは、言わずもがなFAQです。
FAQで問題や疑問を解決できなかったお客さまはどうするでしょうか。疑問や問題の内容・緊急度次第とはいえ、全てのお客さまが必ずしもコールセンターやチャットでの対応へ移行してくれるとは限りません。そのままサイレントカスタマーとなってしまう恐れがあります。CSの向上を期待するどころか、かえって下げてしまう結果になるのです。
サイレントカスタマーを作らないために、“FAQを見れば解決できる”レベルにまで内容を充実させることが重要です。
5. コールセンターの呼量をコントロールでき、ノンボイスチャネルを軸とする助けになる
コールセンターに限った話ではありませんが、さまざまな企業での人手不足は解消される気配がありません。すぐには人手不足が解消されない以上、今の社員の離職防止、人員配置や呼量削減への取り組みが必須となります。
FAQが整備されていれば、コールセンターの呼量をある程度コントロールすることができます。もしFAQでの完全解決ができなくとも、疑問や問題に対してのヒントを提供できれば、お客さまの焦りや緊急感を軽減することが可能かもしれません。すると、お客さま自身がチャットやメールといったノンボイスチャネルを選ぶ可能性が高くなります。また、お客さまがコールセンターへ問い合わせても、すでにFAQで情報を得ているので、オペレーターが一件あたりに要する対応時間の短縮が見込めます。
▶問い合わせ前の動きを見える化するコールセンター用WEB解析ツール:Optipass
FAQを見直した企業の一例として、BIGLOBEの例をご紹介します。BIGLOBEは、FAQを見直したことで入電数が減り、メール対応を25%削減することに成功しました。カスタマーサポート業界が目指す「問い合わせ件数の削減」を実現した例です。
6. 継続的なテレワークにも有効
6つ目は、社内におけるメリットです。新型コロナウイルスのパンデミックをきっかけに、全国的なテレワークが進みましたが、さまざまな理由から今でもテレワークを継続、あるいはハイブリッドワークを取り入れている企業は少なくありません。
ハイブリッドコールセンターもうやめる?継続すべき理由とは - TPIJ by CBA |
人材不足、離職防止へのアプローチとしてもテレワークの継続は効果的です。しかし、テレワークで最大限の効率やサポートクオリティを発揮しようとなると、社内でのナレッジ共有がカギを握ります。
社内で蓄積されているナレッジを社内向けFAQとして共有できれば、オペレーターの立場や経験、スキル、勤務環境に関係なく、誰でも一定レベルのサポートやサービスをお客さまへ提供することが可能です。テレワークにありがちな不安を、社内FAQの導入・整備によって解消・軽減できる可能性を秘めています。柔軟な働き方を実現していくためにも、テレワークの継続が見込める環境を整えていくことは大切です。
7. 人員配置を見直せる
企業の中には、社内での問い合わせや連絡を受けるヘルプデスクを設けているところもあります。
もし、社内で頻発する問い合わせを社内FAQとして全社で共有できれば、社内専用の電話対応部署をなくすか、必要最低限の人数で運営することができます。これまで社内向けに割いていた人員を、より必要な部署へ割けるのです。
社内だけで人材不足問題へ切り込める、直接的かつ現実的な策と言えます。
FAQを整備する際の注意点
FAQを整備して充実させることに、非常に多くのメリットがあることを紹介してきました。しかし、何をもってして「充実」と言えるのでしょうか。内容の幅広さは重要です。リアルタイムでの情報更新も大切です。でも、FAQ内の情報量があまりにも多いと、かえってお客さまが質問を探しにくくなってしまいます。
闇雲にFAQの項目を増やしたところで、企業の意図とは裏腹に、お客さまの自己解決率を下げるリスクすらあるので注意する必要があります。
上の表をご覧ください。
J.D.パワーが2022年に実施した「カスタマーセンターサポート満足度調査」結果の一つです。オンライン系サポート機能の使用率を種類別で見てみると、FAQの使用率が最も高いことが分かります。
その一方で、FAQへの満足度はダントツで低いというのが現実です。
要因の一つとしては、「必要な情報が見つけにくい」「問い合わせたい内容と合致する質問文を見つけにくい」が挙げられます。せっかくFAQを整備しても、間違った充実化によってお客さまに見てもらえなければ本末転倒です。
FAQの力を最大化する方法
ここからは、お客さまに少しでも「見やすい」「分かりやすい」と感じてもらえる整備ポイントをいくつかご紹介します。FAQの中身は企業によって大きく異なってしまいますが、これから紹介するポイントはどんな企業にも当てはまり、すぐにでも実践できるものです。
お客さまが自分と同じ質問を見つけられるようにする
FAQに検索窓を設けたり、閲覧数が多い質問をランキング形式で表示させたりするのは効果的です。お客さまが求めている情報をいかに素早く、ストレスなく見つけてもらえるかが大切だからです。
チャットボットでFAQへ誘導し、お客さまの探している質問を提案することも良い策です。たとえお客さまの悩みが漠然としていたり、自分ではFAQから情報を選別できなかったりしても、チャットボットがFAQ内のナビゲーターによって、お客さまが探している質問へ案内することができるからです。
FAQのデザインをアコーディオン形式にする
アコーディオン形式は、見やすいFAQ作成には最適なデザインといえます。特定の箇所だけを表示でき、ページ全体をコンパクトにすることができるからです。視認性を高め、直感的な「分かりやすい」を提供するために役立つ方法です。
アコーディオン形式であることが分かるように、各質問の頭に「▶」のようなマークを付けておくとさらに良いでしょう。
回答をシンプルにする
「充実」を意識すると、思わず内容面でボリュームを出したくなりますが、質問の項目やきじ回答は必要最低限の内容に抑え、同じく視認性や直感的なわかりやすさを重視するようにしましょう。
最大でも2文程度で回答できるようにすると理想です。2文に収まらない詳細な説明は、リンクを載せて別のサイトへ誘導するか、動画やイラスト・写真といったコンテンツを挿入するようにしてください。
リンク/動画だけを載せるのは控えましょう。文章は短くとも、該当する項目を見ただけで何をすべきかが分かるように整備してください。
お客さまがコールセンターへ問い合わせてくる前の動向を確認する
お客さまのニーズを想像してFAQの内容を幅広くすることは大切です。しかし、想像して作り込んだFAQの全てが、本当にお客さまにとって必要な情報なのかどうかは分かりません。加えて、お客さまのニーズも日々変化していきます。
「FAQを設置してもなかなか呼量が減らない」「電話やメール、チャットへの問い合わせ内容に似たものが見受けられる」と感じるのであれば、お客さまの役に立っていない質問がFAQに存在しているかもしれません。
問い合わせをしてくるお客さまが、FAQのどの項目を見た上で連絡をしてきたのかといった動線を定期的に確認するようにしましょう。見直すべきFAQの具体的な部分が自ずと見えてくるはずです。
改善するべき点が明確であれば、手当たり次第にFAQを作り直していくような無駄な手間を省くこともできます。
自己解決率を低下させる2つの原因と改善する5つの方法 - TPIJ by CBA |
最後に
作り込もうと思えばいくらでも作り込めてしまうFAQですが、だからこそ定期的な見直しと、作り込みのバランスが大切になります。FAQは、企業のサポート体制や情報や知識を見せびらかす場ではないからです。何かしらの悩みを持って訪れるお客さまファーストの場であることを意識しましょう。
FAQの整備・強化の最大の目的は、CSとCXの向上です。冒頭でも触れたとおり、同じ目的のために行える策は、FAQの整備以外にいくつもあります。オムニチャネル化、チャットボットの導入、FAQの整備…。もちろん全て大切ですが、最も優先するべきはFAQの整備と言えます。
FAQのメリットの一つでもありましたが、FAQが充実すればした分だけ、他を整備する余力が生まれるからです。言い換えれば、他の策へ取り組むための一番の近道は、FAQの整備なのです。
FAQ整備のための4つのポイントを一種のチェックリストとして、なるべく優先度を高く、FAQの見直しを検討してみてください。